兄が異世界に迷い込んでから数年後、魔王になって帰ってきました   作:まるげりーたぴざ

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第01話:異世界で魔王と呼ばれた兄

クラルスと呼ばれる世界。地球とは明確に異なる、魔法が存在する世界。

その世界には女神リルミナを(あが)める、神教という一大宗教が存在した。

 

神教の総本山である神聖国、リルミナール。

女神に守られたリルミナール神聖国は繁栄を続け、臣民たちは幸福を享受していた。

だが誰もが平穏に暮らすリルミナール神聖国に、突如襲撃を仕掛けた少年がいた。

 

その少年は異世界からクラルスに迷い込んだ少年だった。

異世界からの来訪者である少年は、異世界クラルスのことを知っていた。

 

とある小説投稿サイトに投稿された小説。

『腐り落ちた神聖国を最速で更生させる、俺による俺のための華麗なる復讐劇』。

小説を読んでいた少年は、小説の主人公と同じように異世界クラルスに迷い込んだ。

そして少年は原作小説を知っていたが故に、初めからクラルスの知識を持っていた。

 

多大な叡智と共に強い力を保有していた少年は、亜人と呼ばれる人々に近しい姿を持ちながらも、人ならざる部位を体に持つ者たちを束ねた。

そして少年と亜人たちは徒党を組んで神聖国を強襲。神聖国に甚大な被害をもたらした。

 

原作小説の主人公と、異世界に迷い込んだ少年は明確に違う道を辿った。

そんな少年は神聖国を襲撃した後、亜人たちが住まう王国、アルジェントを建国した。

アルジェント王国の王は、もちろん異世界からの来訪者である少年だ。

 

人に近しいながらも、人として認められない者たちを統べる悪魔の如き力を持つ少年。

そんな少年を、神聖国の人々は『魔王』と呼んだ。

平和な神聖国に混乱を巻き起こした、悪逆非道の魔王。その名前は春木場(はるきば)遠矢(とおや)

 

女神リルミナは、魔王を打ち倒すために一人の勇者に力を与えた。

神聖国を救済する勇者。その勇者は仲間を集め、魔王を討伐する冒険に出た。

そして長い旅の果て。勇者はついに魔王のことを討伐した。

 

最期に、魔王は笑っていた。そして勇者は、泣いていた。

 

勇者は偉大なる神教の頂に立つ、女神リルミナに選ばれた存在だ。

勇者である彼女にとっては、自分を育んでくれた神聖国こそが至高。そして彼女にとって、神聖国は世界に平和をもたらす象徴だった。

 

だが勇者は神聖国から旅立つことにより、世界の真実を知った。

 

神教を掲げる神聖国は、腐り果てていた。

神聖国の神官たちは、神の教えを曲解し自分の都合の良いように解釈していた。

そして女神リルミナを悪しき知恵によって傀儡にして、影から操っていた。

 

欲望を満たすために、神官たちは──神教と神を貶めていたのだ。

そして自分たちの私腹を肥やすことこそ国の繁栄と定めて、汚職に汚職を重ねていた。

 

人々を自分の都合の良いように操り、堕落させる悪しき神聖国。

神聖国の実態を、もちろん魔王と呼ばれた少年は小説という一つの物語として知っていた。

だからこそ神教という、クラルス世界最大の宗教を敵に回したのだ。

 

神聖国の民衆たちは、うわべだけの幸せを享受していた。

ぬるま湯のように、どうしようもない幸福に浸かっていた。陰で涙を流して悲嘆に暮れている人々がいるにも拘らず、彼らを無視してどうしようもない幸福を享受していた。

 

神聖国は多くの人々を救った少年を、悪逆非道の魔王と呼んだ。

神聖国からみたら、汚職に呑まれて私腹を肥やす者たちからみたら、彼は悪だった。

 

勇者は少年が悪ではないことを、旅の道中で理解した。

魔王が実は魔王ではなく賢王であること。そして神聖国が虐げてきた者たちに手を差し伸べて、彼らが幸せに暮らせる国を作ったと知った。

 

魔王を殺さなければ、勇者の旅は終わらない。

 

勇者の心は折れた。だがそんな勇者に、賢王である少年は手を差し伸べた。

 

少年は自分が存在すれば、世界の人々の大半が幸せに暮らせないと分かっていた。

ここで魔王は討ち果たされるべきだ。

そして魔王を討ち果たした勇者が、神聖国を変えるのだ。

 

王国も神聖国も、全てを救うために。力を貸してくれと、少年は勇者に頼んだ。

勇者は泣きながら、魔王を討伐した。そしてすべてを正すと決意して、魔王に剣を突き立てた。

魔王は息を引き取った。短いようで長い人生。その人生を経て、彼は満ち足りていた。

 

 

だが突如、魔王は目覚めた。

 

 

気が付いたら、魔王と呼ばれた少年は日本の路地裏にいた。

自分がいるべき世界。その世界で、魔法という力を保持したまま目覚めたのだ。

そして家族との再会を果たした。

 

何が自分に起きたか分からない。分からないが、とりあえず青年になった少年は家に帰ってきた。

そしていま。青年──春木場遠矢は、妹である春木場詩歌(しいか)を前にしていた。

 

兄妹がいるのは三階建ての木造住宅、その二階のリビングだ。

詩歌と遠矢が幼少期に引っ越してきた家で、父が当たり前にローンを組んで買った自宅である。

詩歌はダイニングテーブルの椅子に座って、目の前に座っている兄を見る。

 

遠矢はコンビニで買ってきたお菓子とスイーツに夢中だった。

兄は、控えめに言っても顔立ちが整っている。兄妹の母は今も現役のパーツモデルだ。

そんな母の遺伝子を色濃く受け継いだ兄妹は、顔立ちが整っているのだ。

 

「兄さん、ちょっと話を整理させて」

 

詩歌は栗色に淡く染髪したボブカットの頭を振って、兄を見る。

遠矢はプリンを食べ終えたらしく、コンビニの袋からポテトチップスを取り出していた。

 

「やっぱりポテチと言ったらのり塩だろ。異論は認める」

 

「認めてもいいけど、良いから質問に答えて」

 

詩歌はじろっと兄を睨む。すると兄はポテチを置いて、妹の質問に答える姿勢を見せた。

春木場遠矢という男は、物事に真摯で真剣だ。

それは生来のものであり、年下の妹にも真摯である。

八年間行方不明でも、まったく変わったところが見られない兄。

そんな兄をまっすぐと見つめて、詩歌は一つ一つ確認をした。

 

「兄さんは八年前、塾の帰りに行方不明になった。その時、兄さんは異世界に迷い込んだ」

 

詩歌は兄から聞いた話を整理して、スマートフォンを指差す。

 

「このネット小説の主人公みたいに、異世界に迷い込んだんだよね?」

 

詩歌はスマートフォンの画面を見せる。

そこにはとある小説投稿サイトに投稿された小説が映し出されていた。

 

『腐り落ちた神聖国を最速で更生させる、俺による俺のための華麗なる復讐劇』

作者は──『奈々氏の権化』。

 

そこそこ人気があった小説らしく、投稿サイトでは中堅的な立場の評価をされていた。

 

「兄さんは行方不明になってから八年間。ずっとこの異世界にいたってこと?」

 

「その通りだ」

 

即答する兄。そんな兄の前で、詩歌は思わず額に手を当てる。

 

「……頭がおかしくなったわけじゃないんだよね?」

 

「ああ。魔法が使えるのが何よりの証拠だろ」

 

遠矢は詩歌の目の前で、ぱちんっと指を弾く。

すると、遠矢の手から炎が舞い上がった。

 

「わあああ火災報知器鳴るからヤメテ!!」

 

詩歌は天井にくっついている火災報知機を見上げて悲鳴を上げる。

木造住宅に取りつけが義務付けられている火災報知機。

 

春木場家の火災報知器は優秀だ。火災報知器が鳴った部屋以外にも信号が送られることになっており、他の部屋で生活している家族にも警報が届くようになっている。

つまり火災報知器が一つ鳴れば、家中の火災報知器が一斉にびーびー音を響かせるのだ。

 

「火災報知器って、確か父さんが家買った時には取り付けが義務付けられてなかったよなー」

 

遠矢は朧気な記憶を思い出しながら、言葉を紡ぐ。そして少し顔をしかめてから、詩歌を見た。

 

「なあ、ポテチ食べていいか?」

 

「そんなに食べたいの。……良いよ、でもちゃんと会話してね」

 

詩歌が呆れた様子で答えると、遠矢はポテチの先端に人差し指を這わせる。

すると、ピッと鋭い風斬り音がして、ポテチの袋の先端が引き裂かれた。

 

「今のは風の魔法だ。五大属性の魔法は誰にでも使えるが、適正が存在していてな。俺はすべての属性の最上級魔法が使える。それとは別に、あっちの人間は固有の魔法を持つこともあるんだ。俺も一つ持っている」

 

「……解説ありがとう」

 

詩歌がお礼を口にすると、遠矢はポテチをぱりっと食べる。

 

「む。やっぱりのり塩は美味いな」

 

ぽりぽりと、まったりポテチを食べる兄。

 

春木場遠矢は八年前、突如行方不明となった。

詩歌が覚えている遠矢は、不思議なひとだった。

おっとりしているようで勘が鋭く、何事もきっちりと決めていて用意周到。

 

曲がったことが嫌いだが、意外と許容できる器を持った人だった。

家族のことを大事にしてくれる、それ故に危ないことをしない人。

 

そんな人が家族に何も言わないで消えるなんて、ありえない。

そのため両親は絶対に事件性があると考えて、奔走していた。

 

あれから八年。

まさか小説の主人公のように異世界に迷い込んでいたなんて、一体誰が想像できるだろうか。

八年間行方不明でも、遠矢のひととなりは変わらなかった。

その変化のなさを感じながら、詩歌は重い頭を抱えた。

 

「頭の整理がおいつかない……」

 

詩歌はスマートフォンを持って頭を抱えたまま、思わず呟く。

 

「……口頭で整理するから、間違いがあるなら言って?」

 

「ああ、分かった」

 

春木場遠矢は八年前に異世界へ迷い込んだ。

とある投稿サイトに投稿されていた小説。その主人公のように異世界に迷い込んだ遠矢は、人々を救うために奔走した。

 

小説の中の世界は、はっきり言って治安が悪かった。

腐った神教のせいで、多くの人たちが陰で苦しんでいた。

だから春木場遠矢は苦しんでる人たちを救うために戦った。

 

遠矢は自分の戦いがそれなりの幸せを享受している人たちを不幸に陥れると知っていた。

そのため、春木場遠矢はいつしか自分が裁かれなければならないと思っていた。

魔王と呼ばれる自分。そして現れた勇者。

事態の結末を片付けるためには、勇者による魔王の討伐はおさまりが良いものだった。

 

「兄さんは、この小説の主人公とは全く違う道を選んだんだね?」

 

「ああ、その通りだ。元々原作小説の知識があったからな」

 

春木場遠矢はネット小説が好きだった。

自分でも拙いながらに色々書いていて、多くの小説を読んでいた。

当時のネット小説界隈では、異世界モノが流行していた。

生きづらい現実世界からの解放。そしてファンタジー溢れる新天地での無双。

 

界隈では様々な異世界ファンタジーが流行った。

一大文化を築き上げるほどに、人々は異世界モノにドハマりした。

異世界には目新しいものしかない。この退屈で息苦しい、疲弊するしかない現実世界にはない楽しさが、異世界にはある。

 

現代人は疲弊していたのだ。

だから創作の中では自由に生きたいと思い、各々が求める世界を創作の中で展開していた。

 

創作界隈で一大ムーブメントとなった異世界モノ。もちろん、流行に乗ることを毛嫌いする人々はいる。面白味がないと感じて、自分の望む創作を求めて筆を執る者もいる。

それこそが自由な創作というものだ。

 

そうして多くの人々が、異世界モノを一つのコンテンツとして受け入れた。

投稿サイトには、様々な異世界モノで溢れていた。

その一つが『腐り落ちた神聖国を最速で更生させる、俺による俺のための華麗なる復讐劇』だ。

 

「その小説は神聖国を救うための物語だ」

 

八年前に読んだことがある、当時の流行の最先端を担っていた異世界ファンタジー。

懐かしい小説を思い返して、遠矢は目を細める。

 

「物語として、その小説は最上級だ。でもな、小説の主人公のように異世界に迷い込んで実感した。異世界は、どこまでいっても現実なんだ。だから現在進行形で迫害されて苦しんでいるひとがいるし、普通に人が死ぬ」

 

物語の中盤で、主人公は政治的な手段を用いて迫害されている人々を救うことができる。

その者たちこそが亜人。遠矢が守ろうと奔走した、人間とは少し違う部位を体に持つ者たちだ。

 

「作品の冒頭で主人公が獣人の女の子と出会うだろ? その女の子みたいに、世界中には苦しんでいる亜人と呼ばれる人々がいるんだ。──差別されて不当に傷つけられる人々は、すぐにでも救うべきだ。俺にはその力があった」

 

遠矢は真剣な表情をして、少し遠いところを見る。

自分が迷い込んだ異世界のことを、思い出しているのだ。

遠い目。その視線は、詩歌がみたことのない兄の姿だった。

黙って兄を見つめていると、遠矢は詩歌を見た。

 

「だから俺は魔王になった」

 

「飛躍が激しい」

 

妹のツッコミが思わず飛ぶ中、遠矢は変わらずに遠くを見つめる。

 

「その小説の内容は、作者が異世界に迷い込んで虐げられた自分を救うならこうするって物語だ。俺は俺なりの救い方があると思った。俺の救いが正しいと思った。だから自分の命を投げ出すことを決めたんだ。それが綺麗な終わりで、最善だと思ったから。だから命を懸けて、戦った」

 

だから最期には、勇者に討伐されて死んだ。

後のことを託して、春木場遠矢は自分の人生に幕を閉じた。

 

「……死ぬの、怖くなかったの?」

 

遠矢の話では、遠矢は魔王として死んだのだ。

死んだ感覚がちゃんとあったと、遠矢は告げる。そしていつの間にかこちらの世界で目覚めていたことも、遠矢は語った。

確実な死。明確な死に呑まれた感覚。

それを思い出しながら、遠矢は目を伏せる。

 

「なんでだろうな、別に死ぬのは怖くなかった」

 

遠矢は自分が魔王として幕を閉じた人生について、思いを馳せる。

 

「俺は満たされたんだ。自分なりの救い方を、やり遂げる道を見出した。見出した道をやり切ることにこそ、俺の意味がある。そう思ったんだ」

 

「……兄さん」

 

詩歌は達観した様子の兄を見て、少し涙目になる。

春木場遠矢はいい加減なように見えて、自分のやるべきことをきちんと見極めている。

そんな兄が自分の生き様をきちんと決めたのであらば、それはきっと正しいものなのだろう。

 

この兄ならば、自分の命を投げ出すことも厭わないだろう。

それが少し悲しくも、詩歌は誇らしい。

そんな詩歌の前で、遠矢はぱりぱりとポテチを食べながら閃いた顔をする。

 

「ほら、よく小説を一作書ききったらもう書くことねえなって燃え尽きることあるだろ。アレだアレ。なんか魔王として大成したら、すごい満たされちゃったんだよなあ」

 

「自分の生き様を創作者によくある燃え尽き症候群の一言で表すのやめてくれない?」

 

何だかバカみたいだ。

詩歌は大きくため息を吐くと、スマートフォンに目を向ける。

この小説の主人公のように。兄は異世界に迷い込んで、自らの信念を貫いた。

 

(……行方不明になっちゃったから朧気だけど……そういえば兄さんってのんびりしてるのに覚悟だけは決まってるっていう、昔から不思議な人だったなあ)

 

詩歌はテーブルにもたれかかって、兄を見つめる。

すると遠矢は、ぽそっと呟いた。

 

「原作者に会いたいな」

 

「原作者?」

 

詩歌は遠矢の突拍子もない言葉に、首を傾げる。

 

「俺は世界の全ての悪を自分に集めて、自分の命を終わらせることでけじめをつけた。でも小説の中で異世界に迷い込んだ主人公は神聖国のトップになることで収集を付けただろ。それを考えたひとがどんな人間か知りたい」

 

「兄さん……」

 

「何か知ってる可能性もありそうだし、コンタクトを取ってみたい」

 

詩歌は兄の願いを聞いて、眉をひそめる。

この小説は既に完結している。

主人公は自分を貶めた神聖国を変えることで、その復讐を完遂した。

 

試しに詩歌は、原作者の奈々氏の権化というプロフィール欄をタップしてみる。

だがここ数年は動きがないようだ。

 

(ネットには人間の痕跡がいっぱい残る。見つけられないことはないと思うけど……)

 

詩歌はスマートフォンを手に持ったまま、遠矢に目を向ける。

すると遠矢は真剣な表情で、飲んでいたミルクカフェオレを手に取った。

 

「うん。美味い」

 

神妙な顔から一転して、呑気に飲み物を飲む兄。

そんな兄を見て、なんだか詩歌は気持ちがずっこけてしまう。

だが詩歌は遠矢の気持ちを理解できる。

自分が迷い込んだ異世界について、一つの物語を書き上げた原作者。

その原作者が何を考えて書いたか気になるのは当然だ。

 

「分かった。兄さんの手伝いをするよ」

 

詩歌は一つ頷くと、決意を見せて遠矢を見た。

 

「とはいっても、兄さんは魔法が使えるから。私の手助けなんて必要ないかもしれないけど」

 

「いいや、そんなことはない」

 

遠矢は即座に首を横に振る。

 

「魔法にはできないことがある。特にひとの命に関してはな。……失われた命は戻らない。それは当然のことだ。だから、魔法にもできないことはたくさんある」

 

遠矢は自分の手の平を見つめながら、目を細める。

 

「魔法は一つの手段だ。科学も医療も、それ以外の技術も。それに加えて魔法が存在するだけなんだ。……万能じゃない」

 

「そう、なの……」

 

詩歌は真剣に悔やんでいる遠矢を前にして、静かに息を呑む。

今の遠矢を見れば分かる。

異世界での生活は、厳しかったのだろう。

 

ひとの命が簡単に失われて、多くの困難が存在していたのだろう。

日本は平和だ。この地球上においても、極めて安全な日常を送れる。

そんな日本とは違い、迫害が横行する異世界。

そんな世界で、おそらく遠矢は文字通り死ぬ思いをしたのだ。

 

「……分かった。兄さん、私全力で兄さんの手伝いをするよ」

 

詩歌が決意を口にすると、遠矢は目を細める。

自分の力になってくれる妹。八年間心配に心配を重ねて、迷惑をかけた大切な家族。

自分と同じくらい真摯な妹を見つめて、遠矢は頭を下げる。

 

「頼む、詩歌。俺はいまの社会に疎いからな。ネットに精通してる現代っ子の妹が力を貸してくれるのは本当に嬉しい」

 

「うん、頑張ろう」

 

詩歌は気合を入れて頷く。

異世界において、最期まで自分のするべきことを貫き通した兄。

そんな偉大な兄のために、何かしてあげたい。

 

『腐り落ちた神聖国を最速で更生させる、俺による俺のための華麗なる復讐劇』

作者──奈々氏の権化。

 

まずはこの人物がネットに残した足跡を辿るところからだ。

 

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