兄が異世界に迷い込んでから数年後、魔王になって帰ってきました   作:まるげりーたぴざ

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第05話:二つの世界を知る兄妹

魔法が存在する、ファンタジー色が強い世界であるクラルス。

異世界クラルスでも、ひとの命は簡単に喪われる。それはもちろん現実だからだ。

 

八年前、異世界に迷い込んだ春木場遠矢は、日本とは比べられないほどの脅威に満ちた世界を変える決意をした。虐げられている人々を、救うために立ち上がった。

迫害された人々を集め、一国を築き上げた。

 

自分が守るべき人々から、遠矢は賢王と呼ばれた。

そして敵対していた神聖国から、春木場遠矢は魔王と呼ばれた。

魔王として、勇者に討伐されることで平和をもたらした春木場遠矢。

 

「俺は、家族を大事にしたい」

 

遠矢の口から出た答えは、シンプルなものだった。

 

「家族は俺が行方不明になって、ずっと探してくれていた。俺が数週間前に突然現れても、両親や妹は俺の無事を喜んでくれた。……俺は、異世界で生きることで精いっぱいだった。人々を救うことに奔走していた。その間、ずっと家族は俺の無事を願っていたんだ」

 

春木場遠矢は、家族に愛されていた。

時には厳しく、時には優しく幸福な毎日を共にしていた。

いつか恩返しをしなければならないと思っていた。だからこそ堅実な生き方をして、家族を安心させようと思っていた。

異世界に迷い込むまで、遠矢にとって家族とは全てだった。もちろん友達もいたが、家族というのはかけがえのない存在だった。

 

「クラルスでの生活は、本当に大変だった。毎日色んな問題が起こって、その解決に奔走してた。手の届かないところで泣いている人たちがいる現実に、心が圧し潰されそうになっていた」

 

魔法という万能な手段があるからこそ、現実世界とは別の意味で厳しい異世界クラルス。

厳しい異世界で生き残るために、人々を救うために。春木場遠矢は日々を懸命に過ごしていた。

 

「時々、家族は大丈夫なのかって思い出すことがあった。妹は、両親はいなくなった自分のことをどう思っているんだろうかってな」

 

夜空を見上げたり、新たな街へと来たり。鮮烈な命のやり取りが終わった後。

遠矢はふと、現実世界について考えていた。

離れ離れになった家族について考える時があった。

 

だがいつも、目の前では誰かが苦しんでいた。

その誰かを救うためにやらなければならないことが山積みだった。

だから遠矢は家族のことを深く考える余裕がなかった。

 

「きっと家族は日本で無事に暮らしている。日本は豊かで平穏な国だからな。……そう考えて、目の前の問題を解決してた。解決しないと、いけなかった」

 

遠矢は、在りし日を思い出して遠い目をしながら詩歌を見た。

 

「家族のことが何よりも大事だった。詩歌たちも俺のことを想ってくれていると分かっていた。だから突然いなくなった俺のことを心配してくれていたのに、俺は家族について考える時間があまりにも少なすぎた」

 

大切な家族のことを、いつしか考えられなくなった。

そうやって後悔する兄を見て、詩歌は寂しそうに微笑む。

 

「兄さん、それはしょうがないよ。だって兄さんは生き残るために必死だったんだから。傷つけられた人々を救うために、頑張ってたんだから」

 

詩歌の優しい言葉に、遠矢は目を伏せる。

そして三人の乙女たちへと目を向けた。

 

ナティアは獣人種と呼ばれる、獣のような身体的特徴を持った種族の一員だ。

獣の特徴を持ち合わせているからこそ、神聖国はナティアたち獣人種を獣だとして蔑んでいた。

人間とはかけ離れた劣等種なのだとして、奴隷のように酷い扱いをしていた。

 

ヒエルはアルフ族と呼ばれる、山岳地帯のふもと、泉を聖地としている長命の一族の一人だ。

アルフ族は、外界とあまり交流せずに暮らしていた。

だがある時、神聖国がアルフ族の豊富な資源を求めて侵略を開始した。

そのせいで多くの同胞を神聖国によって惨殺されたヒエルは里を出た。

そして神聖国へ復讐するために、単独で行動していた。

 

イユはとある諸島で暮らす、頭脳明晰で知性が豊富な民族の姫だ。

だが神聖国の人間がやってきたことで、生活は一変。

イユたちは自分たちの技術を神聖国に搾取され、奴隷のように働かされていた。

 

それぞれの理由で迫害され、神聖国に屈辱を与えられた彼女たち。

遠矢は三人に視線を合わせると、一つ頷く。

 

「家族に、もうこれ以上の心配をかけたくない。──だから」

 

遠矢は三乙女に、ゆっくりと頭を下げた。

 

「だから、頼む。三人には、魔法でこちらとあちらを繋ぐゲートを作って欲しい。現実世界(こっち)に来て俺を連れ帰るために、異世界クラルス(あっち)に戻れる策を用意して来たんだろ? だったら、頑張れば世界と世界を行き来できるゲートが作れるはずだ」

 

遠矢にとって家族は大事だ。だが、異世界クラルスにいる者たちも大事なのだ。

自分が建国した国であるアルジェントの臣民たち。

彼らのことを、遠矢は愛している。

 

「どちらの世界も捨てがたい。俺にとってはどちらの世界も大切だ。だったら行き来できるようにすればいい。どちらの世界の人々も守れるようにすればいい。そう思うんだ」

 

異世界クラルスには、ポータルというものがある。

ポータルは各地に存在していて、それを使えば人々は瞬時に目的の場所へと行くことができる。

そしてポータルには簡易ポータルというものがあるのだ。

 

簡易ポータルは一度の転移で壊れてしまう。

だが必要な素材が揃えば、誰でも作ることができる優れものだ。

現実世界と異世界クラルスを繋ぐゲート。試行錯誤すれば、ゲートは作れるはずだ。

遠矢が自分の願いを口にすると、オリエンタルな暗い褐色肌の美少女、イユは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「世界と世界の間には狭間があります。狭間とは世界と世界が衝突しないように、緩衝材の役割を果たしております。世界とは揺らぎ動くものであり、狭間は不定期にその姿を変えます。世界を繋ぐためのポータルを造る。……それはとても難しいことです」

 

イユは前提を口にしてから、にこっと軽やかに微笑んだ。

 

「わたくしは希少魔法『間隙』と呼ばれる、空間に作用する魔法を保有しています。それによってわたくしはこれまでトオヤ様を助けてまいりました。この度も我らが王の望みを果たすために、尽力いたします」

 

イユが誓いの言葉を口にすると、ナティアは獣耳をピンッと立て、尻尾をぴょいんっと動かして気合いを入れる。

 

「トオヤくん! わたしたちが三人で来たのは、三人でなら大抵のことは乗り越えられる魔法や技術を持ってるからなのっ。だから大丈夫、トオヤくんの望み、必ず叶えてあげるっ!」

 

「うむ。オマエ様からこの世界のことはふんわりと聞いておったが、実際に足を踏み入れれば違うこともある。そのため我ら万能の三人で来たのだ」

 

三乙女はそれぞれで希少な魔法と戦闘力を保持している。

三人寄れば文殊の知恵。その言葉通りに、三乙女が揃っていれば大抵のことには対応できる。

だから何が起こるか分からない現実世界に、三人で揃ってきたのだ。

頼もしい三乙女。彼女たちを見て、遠矢は笑った。

 

「ありがとう、三人とも」

 

詩歌は話が上手くまとまりそうなので、ほっとする。

そんな詩歌に、遠矢は笑いかけた。

 

「詩歌。俺はお前たち家族のことを大切にしたいんだ。でも俺にはあっちの世界にも大切なものがある。だから行き来することになるだろうが、俺は家族のそばにいる。……それでいいか?」

 

「もちろんだよ」

 

詩歌は遠矢の手を握って、柔らかく微笑む。

 

「兄さんが納得できるようにすればいいよ。その上で私たちのことを考えてくれるのは、本当に嬉しい。私もできることをするから。だから兄さん、私たち家族を頼ってね」

 

「ありがとう。……じゃあまずは父さんと母さんに魔法の話をした方が良いか……」

 

「あ、そうだった」

 

遠矢は詩歌には魔法や異世界について話はしたが、両親にはまだ話していない。

理由はもちろん、遠矢の頭の具合の心配をされるからだ。

何も問題はないのに精神病棟に放り込まれでもしたら困る。

そのため遠矢は信じてくれるであろう純粋な心の持ち主である詩歌には話したのだ。

遠矢はにこにこ笑って気合いを入れている三人に目を向ける。

 

「……まあ、あいつらがいるから異世界のことは信じそうなものだけどな」

 

詩歌も、遠矢に釣られて三人を見る。

獣耳と尻尾がついている、ピンク髪の少女。

エルフのような長い耳を持ち、長命で森の賢人と呼ばれる種族であるヒエル。

そして褐色肌にオリエンタルという、東洋でも南米の民でもないイユ。

詩歌はふさふさの獣耳を持っているイユの、ぱたぱたと揺れる尻尾を見つめる。

 

「……確かに三人を見たら、異世界の存在を認めるしかないよね」

 

あからさまに現実世界に存在しない女の子たち。

彼女たちだけではなく、多くの種族が暮らしていそうな異世界クラルス。

奈々氏の権化が書いた物語(フィクション)──『腐り落ちた神聖国を最速で更生させる、俺による俺のための華麗なる復讐劇』。その物語を軽く読んだ詩歌は、異世界に思いを馳せる。

 

「異世界って、厳しくて怖いところなんだよね。……でも、どんなところだろう」

 

この世界とは違い、魔法が存在する世界。

兄が全ての人々を守ろうとして、自分の命を懸けて救った世界。

 

「私に魔法が使えるとは思えないけど。いつか行ってみたいなあ……」

 

詩歌が思わず言葉を零すと、イユは柔らかく微笑む。

 

「シイカ様もトオヤ様と同じように、きっと素晴らしい力を持っていますわ」

 

遠矢も、イユの言葉に同意する。

 

「俺はあっちの世界に行って、生命の危機を感じて覚醒した。だが『洗礼』と呼ばれる儀式で魂を覚醒させれば、誰でも魔法が使えるようになる。だから詩歌にも魔法は使えるだろう」

 

「そうなの?!」

 

詩歌は思わず声を大きくしてしまう。

自分にも、魔法が使える可能性がある。それに詩歌はどきどきと胸を高鳴らせてしまう。

 

「おお……なんか緊張してきた……っ」

 

ちょっとドキドキしてしまう詩歌の手を、イユは柔らかく握る。

 

「シイカ様。これから色々と迷惑をかけると思いますが、末永くよろしくお願いします。こちらの世界については不得手であるため、色々とご享受してくださいませんか?」

 

「あ、うん。分かった」

 

突然距離を詰めてきたイユ。そんなイユに気圧されながらも、詩歌は頷く。

二人の会話を聞き捨てならないと目を光らせたナティアとヒエル。

 

「抜け駆けはずるいよっ!! わたしもトオヤくんの妹さまと仲良くするー!!」

 

「コラッ、ナティア!! 抜け駆けとか言うな! それではまるでワタシにヤツへ気があると勘違いされる!!」

 

わーわー叫ぶ二人。

どうやら三人とも、遠矢のことを少なからず意識しているらしい。

これからにぎやかになりそうだ。

詩歌はそう思いながら、必死に話しかけてくる二人を見て苦笑した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

春木場詩歌は大学生だ。

近くの大学に通っている、文学部の学生である。

大学生であるため、詩歌には長い夏休みがある。

 

その夏休みの終盤。詩歌は二泊三日で、異世界クラルスに行っていた。

 

少し前なら、何をバカな話をしているのかということになる。

だが行方不明になっていた兄──春木場遠矢と八年ぶりに再会したことで、全てが覆された。

春木場遠矢が行方不明になっていた八年間。遠矢は、異世界に迷い込んでいたのだ。

 

小説投稿サイトで連載されていた、ネット小説。

『腐り落ちた神聖国を最速で更生させる、俺による俺のための華麗なる復讐劇』。

物語(フィクション)としてネットの海の端で紡がれていた世界が、存在していたのだ。

 

「世界は無数にあるのです。その世界の一つに、たまたま奈々氏の権化様が書いた物語が当て嵌まったのでしょう」

 

たおやかに言葉を紡ぐのは、オリエンタルな褐色美女のイユだ。

イユはスマートフォンで軽く小説を読むと、頷く。

 

物語(フィクション)であるが故に、現実のクラルスとは少々違うようですね。トオヤ様は記憶が薄れて細部のことを思い出せず、違和感を覚えなかったのでしょう」

 

異世界と現実世界を繋ぐゲートができる前。春木場詩歌はイユに、この世界での情報収集に適したインターネットについて教えていた。

イユは興味深そうにインターネットに触れて、あらゆる技術を吸収していった。

 

イユは、知能が高いと有名である民族の姫だ。そして遠矢の先導もあって、クラルスではとある商業グループを運営している。

その敏腕っぷりは現実世界でも発揮されて、彼女は少しのお金を種銭として株式に参入。十日ほどで富豪と呼ばれるほどに金銭を保有するようになった。

 

「わたくしたちの世界にも、預言書というのがあります。昔に生きていた人々が妄想と事実を織り交ぜてあてずっぽうでしたためた文章ですが、時にその妄想の産物が予言書になることがありえるのです。おそらくそれと似たようなことかと」

 

イユが言うには、魔王という存在がいずれ現れるという予言書もあったのだという。

 

「この世界のいくつかの神話は、わたくしたちの世界に対応することがあります。この世界でこれほどまでに多くの物語が紡がれていることは、とても興味深いです」

 

イユは多くの情報を吸収しながら、興味深そうにスマートフォンを見つめていた。

 

両親は、遠矢が実は異世界に行っていた事を聞いてすごく驚いていた。

遠矢が魔法の披露をして三人の少女たちを紹介したら、母は魔法に腰を抜かして父は三人の乙女に慕われている遠矢を見てけしからんと叫んだ。

 

最初はびっくりしていた両親も、順応してくれた。遠矢が異世界の人々のことを大切にしていると知って、詩歌がそんな遠矢を支えようとしているからだ。

 

「いやー異世界ってのどかだけど怖いよねえ。モンスターとか平気でいるもん」

 

二泊三日の異世界生活から帰ってきた詩歌は、エアコンが効いたリビングでのびのびとする。

 

二泊三日という短期間で詩歌が現実世界に戻ってきたのは、夏休みが残り僅かだからという理由ではない。

異世界クラルスでは現実世界とは異なる危険がある。

だからこそ詩歌は兄と相談して、少しずつ異世界に慣れていこうという話になった。

そのため、詩歌はまだ魔法が使えない。『洗礼』を行って魔法を取得しても良いのだが、まだその勇気が詩歌にはなかった。

 

「異世界は不思議なことでいっぱい。特に簡単に言葉が通じるようになるのがすごい。魂を覚醒させるって便利だね。相手が何言っているか分かるようになるもの」

 

『洗礼』を行っていない詩歌だが、『洗礼』の事前準備は終えていた。

事前準備を終えると、他者の魂を読み取ることができるようになる。その結果、相手がどんなニュアンスの言葉を使ってるか分かるのだ。意思疎通が取れるようになる。

 

最初に詩歌がナティアたちと会った時。何事もなく話ができたのは、『洗礼』を行っている遠矢が仲介になっていたのだ。遠矢の言葉にナティアたちの思考と言語が合わせられていたため、会話が成立していたのだ。

 

「シイカ様は五日後から学校なのですよね?」

 

イユは、自宅に帰還した詩歌へと優しく近付く。

 

ちなみにイユによって莫大な金銭をもたらされた春木場家だが、以前と変わらずに一般住宅で暮らしている。イユにはローンを完済してもらっただけだ。

理由は娘には迷惑をかけられないという母の厳格な姿勢だった。(娘とは?)

 

「異世界クラルスに触れるのも良いけど、私はこっちの世界で学生やってるからね。頑張って入学した大学だし、ちゃんと出ておかないと」

 

現在、異世界クラルスと現実世界を繋ぐゲートは一回限りで壊れてしまうものが運用されている。

しかもゲートを使用できる人数は一度に三人が限度なのだ。

そしてゲートはイユの『間隙』魔法に依存している。

だからイユは自分の魔法に依存しないゲートができるまで、現実世界でサポートに回ることになっていた。

 

「イユさんは目の当たりにしてると思うけど、大学の知識って意外と役に立つからね。それに兄さんが異世界で王様やってて贅沢暮らしができるって言っても、甘えてられないでしょ」

 

「ふふ。シイカ様もご両親様も、贅沢暮らしができるのに甘えずに堕落した生活を送らない。さすがトオヤ様の血縁者様です」

 

「いやーもしかしたら私たちが小市民なだけかもしれない。……あんまり贅沢な暮らしすると、罰が当たりそうな気がして。コンビニのご飯もおいしいんだけど、高いって感じるから。だから自分たちで自炊するんだよね~」

 

「トオヤ様も良くそう仰るのですよ。わたくしたちがせっかくだから良いものを食べてはと勧めても、臣民と同じものを食べたいと仰って、お忍びで城下町に出かけては臣民を驚かせたり」

 

「城下町のご飯もすごくおいしいんだよね。兄さんの気持ちわかる」

 

すべてが原始的でインターネットもない異世界クラルス。

それでも、異世界には異世界の良さがあるのだ。

 

「今でも異世界のご飯はすごくおいしいけど、調理方法を考えればもっとおいしくなるだろうな」

 

異世界クラルスの食物は、あらゆる可能性を秘めている。

モンスターが存在する世界だ。そのため肉一つをとっても、種類が豊富なのだ。

しかもクラルスには、現実の世界にはない様々な効能がある植物がある。

その植物を煎じるだけで、あらゆる効能を得ることができるのだ。

 

そのため、異世界では科学技術に基づく薬学というのは発達していない。

せいぜい錬金術師が数種類の植物を掛け合わせて、ポーションを作る程度だ。

 

だが簡単に掛け合わせて作られるポーションもバカにできない。

現実世界ではありえないような効能を得ることができるからだ。

 

現実世界の薬学と科学的な側面から見た料理技術を用いれば、異世界での生活はとても豊かになるだろう。

 

「大学出たら、料理免許でも取ろうかな。あとは在学中に、薬学とかのワークショップとかも受けたらいいかも」

 

「こちらの世界は科学技術に基づいた素晴らしいものばかりですから。技術については錬金術師のヘルミが奔走していますし、手伝ってくださるとうれしいです」

 

異世界と現実世界の交流によって、あらゆる技術が発展しそうな気がする。

詩歌は、その可能性にわくわくしてしまう。

 

「神聖国も腐敗が解消されてきてて、良かったね」

 

詩歌は兄のことを魔王だと決めつけて、勇者を造り上げた神聖国について考える。

勇者は神聖国の臣民にとって、平和の象徴だ。

市民に祭り上げられているため、勇者には確かな権力がある。

その権力を使って、勇者は神聖国に変革をもたらしたのだ。

 

まず勇者は手始めに、腐敗していた上層部を全員黙らせた。

そして悪しき神官たちから、女神リルミナを救ったのだ。

勇者に力を授けた女神リルミナは、神聖国の神官たちに薬漬けにされていた。

早い話、薬によって判断力を鈍らされ、操られていたのだ。

 

勇者は悪しき神官から女神を救った。そして神聖国のやり方は間違っているとして、遠矢の統治する王国と協力していく姿勢を見せている。

 

「全部がよい方向へと向かっています」

 

イユは輝かしい未来を想って、柔らかく微笑む。

詩歌も同感だ。遠矢によって、神聖国に迫害されていた亜人たちは救われた。

そして神聖国に魔王を倒すための勇者が生まれ、その勇者が神聖国を変えようと動いている。

 

異世界クラルスと現実世界である地球。

今のところ、その交流は遠矢によって密かに行われている。

だがいつか、大々的に異世界と現実世界の交流が行われるようになるだろう。

 

その目標を叶えるための問題は山積みだ。

だが詩歌はその日がやってくると信じていた。

優しい人たちがいるのだ。そして人々を守るために命をなげうった、兄がいるのだ。

 

「シイカ様。これからも迷惑をかけると思いますが、よろしくお願い致します」

 

「──こちらこそ」

 

異世界に兄が迷い込んで、現実世界で行方不明になって数年後。

魔王に君臨した兄は、異世界で人々を救った。

そして自分の命を使って、世界に平穏をもたらした。

 

偉業を成し遂げた兄。そんな兄を、あらゆる手段と技術で支えよう。

春木場詩歌は、強く決意して。

数日後から再び始まる大学生活を、兄の代わりに精いっぱい楽しもうと微笑んだ。

 




『兄が異世界に迷い込んでから数年後、魔王になって帰ってきました』、一応の完結です。
元々架空原作杯用に短い構成にしたので、ここで終わりとなります。
一応というのは続きを書きたい気持ちがあるので、いつか第二部を開始するかもしれないからです。(まだいろいろ未定ですが)
オリジナル投稿をするのは初めて、規格に参加するのも初めてで色々不安がありましたが、キリの良いところまで投稿できてほっとしております。
架空原作杯に参加している他の方々の作品も素晴らしいので、この機会に是非お読みください(杯自体は終わっていますが)
ここまでお読みくださってありがとうございました。また機会があればよろしくお願いします。
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