自分を星野アイだと勘違いしている一般星野アイ 作:マッキーガイア
場面転換が激しいです。
春休みが終わり、私は高校2年生になった。
しかし、私のルーティンは相も変わらず、少し変わったところと言えばクラス替えにより私を囲んでいた連中の顔触れが変わったくらいだった。
今日も今日とていつも通り中庭のベンチにて昼食を食べる。いつの間にか隣には黒川あかねが座っていたりするがいつもならそこに特に会話はない。しかし、今日はちょっと違った
「恋愛リアリティーショォ?」
私はそう不満げに言う。黒川あかねからそんな言葉が出るだなんて思わなかった為である。
「う、うん。事務所が…やってみないか…って……」
「何がどうしてそうなった?」
そう呟くは私の本心。彼女の性格からして恋愛沙汰には向かないのは向こうさんも承知している筈だ。いや、もしかしたら私が節穴な可能性もあるが、それでも私からして見れば「何故?」という疑問しか湧かない。
そして、私個人の価値観で悪いのだが、恋愛リアリティーショーというやつが受け付けられない。私、ああ言う類の番組は月曜の『世界◯見え』とかで観る笑い込み解説入りの奴しか受け付けないんだ。
「あかねちゃんはそれ受けるの?」
「断る隙も無かったと言うか、何というか……」
そう言うと黒川あかねは困った様に笑った。不憫というか、何というか。
私は少し同情するとさっき自分のために買ったいちごみるくをあかねちゃんの手元に置いた。
「いちごみるく上げる。これでも飲んで元気出して。」
そう言うと黒川あかねは困った様に眉尻を下げた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そんな会話があったのが数週間前の事。
今、私は画面の前で眉尻を下げていた。
『こんにちは、星野アクアです。』
コイツ、どっかで見た事がある気がする…。
あかねちゃんが出るとは言えあまり興味が惹かれないジャンルの為か、あれから数週間、彼女が出ている『今からガチ恋始めます。』の番組ページですら私は開く事ができなかった。
何度も何度も『今ガチ』でググってはブラウザバックする日々、それはもう辛かったのを昨日の様に思い出す。昨日の事だけど。
だがそんな鬱々とした日々もウチの視聴者達も同時視聴を望んでいると聞けば話は変わる。それにあかねちゃんの出ている番組を見ないと言うのは心苦しかった為、何か強迫観念とかあれば観る気になると思い最終回までの同時視聴を開始した。
因みに、いちごプロに相談した所、出演者にウチの役者が居たらしく結構簡単にOKが貰えた。
と言う事で同時視聴を開始して5分ほどが経ち、うちに所属していると言う子が出てきた時点で違和感を感じたのである。
「この子どっかで見た事ある気がする。」
試しにそう言って見ると私の視聴者達が『そりゃそうだろwww』とか『同じ事務所だろ?』とか言ってくる。それに私は思わずムッと返した。
「私、他の所属の子の事は知らないんだよ。皆んな配信者だから事務所に行っても会えないし、コラボのお誘いしても「お、恐れ多いですぅ〜」って言われて断れるし、結果がコレだから救い様が無い。」
そう言えばコメントは騒がしくなった。
『つまり…ボッチという事か』
『泣くなよ。俺が憑いてる』
『ボッチで草』
「ぼ、ボッチじゃないやい!私だって友達は居るんだよ!!??
いや、まぁ、それなりに有名人だから詳細は言えないけどさ。」
『ホントでござるかぁ〜?』
『ペロッ…これは嘘を付いてる味だぜ!!』
『ワイらのロブスターに友達がいるわけない件に付いて。』
「お前ら全員覚えてろよ。100人クラフトでトマト鍋の刑だからな。」
全員を大きな鍋に入れてトマトと一緒に煮込んでやる。その後リスポーンした全員に自分の肉で煮込んだトマト鍋を食わせてやる。そう誓った。
その後のコメントは『ヒぇっ!』とか『悪魔!』と言う言葉が続いていく。それを内心ニタニタしながら見過ごした。
しっかし、まぁ、画面を眺め見て私は内心、舌を巻いた。
金色の短髪の靡かせた頭に角が付いたカチューシャを着けている女性。その女性が例の星野アクアと会話している。それは客観的に見れば別に変な光景ではないが、中身を知っている私からして見れば冷や汗ものである。
(……いや、それ犯罪では?)
10代の中に1人20代の淑女が入り込んでいるという異様な光景。何故、番組スタッフはそれを良しとしているのだろうか。否、気づいてない訳じゃないよな?そこまでスタッフ無能じゃないよな?
あの角が生えたショタコンの事を私は知っている。
2年前に初めてコラボしてから何度かコラボを繰り返して私の現実の姿を晒した事は無いけれどもそれなりに見知った仲である。たまに悩み相談とか受けていてだいぶ重症だとは思っていたが……こうなってしまうとは…流石の私もビックリである。
(どう拗らせてしまえばこうなるのやら…)
口を出さずともそんな感想が浮かんだ。
だが、別段他人の人生に口出すつもりもない。顔は良いし、結婚に前向きって事なんだろう。セイヘキモヒトソレゾレダシネ…
まぁ、精々これからはMEMちょとの距離感考えようと思ったくらいだ。
「はぁ……でも、良い加減ウチの箱内でコラボとかしたいね。」
そう言葉にした言葉は意外と寂しげだったと後々視聴者は言った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「この間、友人からラブスターのサイン貰ったんだけど…これっていちごプロの入社特典だったりする?」
「そんな訳ないじゃん。」
有馬かなはいちごプロの壁に飾っている『ラブスター』のサイン色紙を見ながらそうホワイトボードの前で腕を組んで佇んでいる星野ルビーにそう説いた。
有馬かながいちごプロに移籍してから数週間。あの今日あまの件から地味に時間が経っている今日この頃、ホワイトボードにある様にユニット名会議という名目でなんか集まってはいるが特に話も纏まってない以上、2人は暇人という烙印を押さざる得なかった。
「暇なの?暇なら勉強しなさいよ。
アイドルなんて売れても食えない上に旬の短い仕事なんだから。良い大学に入るために何かした方が人生にとってプラスよ。」
暇そうにホワイトボードを見て佇んでいるだけの星野ルビーを見ながら、有馬かなはそう身も蓋も無い事を言い出す。それにルビーも少し突っ込みを入れながらも何も出来ていない現状に焦る気持ちを言葉に乗せた。
「なんかアイドルとして出来る事はないかな?新人アイドルとしてビラ配りでも何でもやるつもりだよ!」
「持ち曲もユニット名も決まって無いのにビラも何も作れないでしょ。」
「それは先輩がゴネるからでしょ…まだアイドルを名乗る踏ん切りが付かないなんてヘタレにも程があるでしょ。」
「ヘタレで結構。実績の無い自称アイドルなんて親になんて言われるか…」
そう言うと有馬かなは親から『アイドル』と言う単語が出る事を異様に怖がった。それで説教を食らった日には穴にでも入りたい所存である。
「じゃあ、実績を作れば良いじゃない。」
そんな『パンが無いならケーキを食べれば良いじゃない』レベルにさぞ簡単そうに言い退けたのはいつの間にか入り口で小さなカメラと三脚を持った茶髪の美女、斎藤ミヤコであった。
「なんです?そのちゃっちいカメラ。」
これでも三脚合わせて1万と7000円ちょっとするのだが、有馬かなはいつもドラマ等で見慣れているカメラとのギャップを感じていた。
「ちゃっちくても性能は十分よ?
新人アイドルの下積みのやり方も現在と今じゃ変わりつつある。
今のアイドルカルチャーの中心はネットよ。草の根するにも一番コスパが良いし。何より…」
そこまで言うとミヤコは笑った。
「ネットはウチの十八番。
丁度さっきあなた達を手伝ってくれる人捕まえたから
じゃあ、後お願い。」
そうミヤコは扉に向けて言い掛けるそっと何か肌色の物体と赤い物体がミヤコさんと入れ違いで現れる。
ギィッ……という音を立てながらおどろおどろしく現れたのは…
「へ………変質者×2だーー!!!」