自分を星野アイだと勘違いしている一般星野アイ   作:マッキーガイア

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腱鞘炎ってこんな長引くものなのか…?
まぁ、裏であんな量の某ネタ落ちてたらそうもなるか…なるのか?


台風

夕暮れ過ぎ、リビングで窓ガラスが揺れるのを横目にノートPCを覗き込んでいる。

 

台風が来ているらしい。今夜はもう特に外へ行く用事もない事だし、関係ない。

私はひたすらにパソコンにのめり込んでいた。

少し雨が窓に張り付く音をうざったく思いながらも、私は少し苛立つ神経を落ち着かせる。

 

ノートパソコンに映るは、今ガチが始まってから今までのツイートの数々だ。

 

 

『そういや居たわこんな子。

あかねだっけ?』

 

 

『あかね別に居てもいなくても同じじゃない?』

 

 

『あかねOUTでもいいから

男新メン増やして〜』

 

 

 

 

これだけで黒川あかねがどれだけ焦っていたのかが良くわかる資料だ。

この界隈に置いて黒川あかねはどうしようもない素人だ。どういう立ち回りをすれば良いのかわからない。どう話を盛り上げれば良いのかもわからない。

正直、素人だというだけならどうにかなったろう。話を合わせるだけで良いのだから。確かに上の様な感想は降るだろうが、波風を立てずそのままフェードアウト…それも良いだろう。

だが、彼女はそうもいかない。彼女が役者として何処ぞの組織に所属している以上、上からの圧力は必ずある。

 

故に爪痕を残さなきゃと自分を縛り付けるのは必至であった。

 

故にその時期の黒川あかねの行動は顕著であった。熊野ノブユキに狙いを定め、焦りながらも自分なりにカメラに写りに行く。映らなきゃ、頑張らなきゃ、爪痕を残さなきゃ、狙うは鷲見ゆきからノブユキを奪う悪女ムーブ。

 

 

だが、役として成立していない。

 

 

その役の理解も、解釈も何も存在していなかったのだ。多分、誰かから言われただけの文言をそのまま鵜呑みにしてしまった結果だろう。

 

だから、こう(炎上)なった。

 

 

「………ッ。」

 

 

何一つ助けてあげられなかった。

何一つ悩みを聞いてあげられなかった。

 

きっと彼女は助けを求めなかったろう。全部自分1人で抱え込む…そんな子だ。

 

クソッ、今私がインフルエンサーとして行動した所で火種にガソリンを撒くような事になるだけだ。それは個人で動いた所で同じ事。

例えこの絵を描いた誰かをどうこうした所で意味をなさない。そんな事、黒川あかねは望んじゃいないのだから…

 

ケータイを覗く。私から彼女へのLINEの数々……もっと考えてメールを送れば良かったなんて言う過去への後悔を噛み締めながら生返事しか帰って来ないトークページを睨み付けた。

 

瞬間、何も動きの無かったページに一つの新しい白い雲が舞い降りた。

 

『心配させてごめん

お腹空いたから

ご飯買ってくるね』

 

 

ーーーーーは?

 

瞬間、また窓に視線を移す。

曇りのせいかいつもならまだ少し明るい筈の空が真っ黒に濁っている。突風が吹き雨の勢いを助長させ、ただでさえ暗闇で視界が悪いなかを更に悪化させていた。

 

「………さ、流石にまずいぞ。」

 

いつもの精神状態なら「まぁ、そう言う事もあるか」程度の認識に留めていただろう。だが今の彼女の精神状態は不安定を通り越して圧倒的な非常。

何処かで挫いてしまっても可笑しくない。

 

もはや()()()()()()()()ではない。

 

行かなきゃダメだ。

 

 

絶対に()()()()()()()()にはしたくない。

 

 

私は慌ててリビングを後にした。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ああ、知っていた。

 

ちゃんと謝れば許して貰えると思った。それが間違いだった。番組との契約で放送に乗っていない部分は言えないけれど言える事を精一杯謝れば……

 

否、分かっていたのだ。ネット社会に移り変わってから数十年、残酷だった人間の本質はより一層浮き彫りになった。

全員が全員仮面をかぶっているが、その下には醜く歪む誰かを踏み躙る様な笑顔。

仮面により残虐性が増した人間の本質は弱みを見せた人間に対して鋭く突き刺さる凶器。

 

『シンプルに死ね』

 

誰の言葉だったかは分からない。

何処かの匿名掲示板で見たそんな暴言は多分、軽い気持ちで言い放たれた戯言だ。後に責任を問われてもきっとその誰かは責任のせの字すら取ろうとは思わないだろう。

 

まさに引き金を引く様な行為をしたとは全く思ってもいないのだから。

 

 

 

 

 

 

辛い。苦しい。

 

雨の中を傘を刺して歩くのは嫌いだ。寒いし雨粒一粒一粒が不快だ。

 

風が吹く中を傘を刺して歩くのは嫌いだ。傘が重くなるし、一歩一歩が途轍もなく重い。

 

嫌だ。嫌いだ。なんで私がこんな事してるんだろう。

 

痛みも苦しみも誰から与えられた?

 

………いや、分かってる。これは全部私の自業自得。

 

台風の中でこんな事をしているのも、みんなに色々言われてるのも…。

 

「疲れた。」

 

暴風に流されて傘が折れたと同時に心が折れた音がした。

 

 

「もういいや

考えるの疲れた

何も考えたくない。」

 

 

 

こんなに現実が辛いなら逃げてしまおう。逃げても誰も文句を言わない世界に行こう。

 

視線を下げれば場所は歩道橋。下には幾つもの自動車が道を走っていた。

人間は意外と頑丈に出来ている。この高さから落ちても死なない場合もある。だけど

 

この車の量だったら………確実に死ねる。

 

以前、友人の星野アイに言われた事がある。

「人生は思い切りが大事だよ!じゃなきゃ、私は今頃、二児の母だったんだからね!ガハハハハッ!!!

まぁ、まだ気は抜けないんだけど……」

 

そうだ。確かにそうだと思う。

私も思い切ってやった事が功を奏するなんて事たくさんあった。つまり今回も同じだ。

 

なら、もう、迷う事なんてない。

 

感慨深い事もない。

 

 

 

「ーーーー待っーーーー」

 

 

誰かの声が聞こえた気がする。雨音の中、その声は塗り潰される。誰だろうか……否、振り返るつもりはない。

 

遅いよ。

 

もう、無理。

 

私は勢いよく飛び降りた。

誰かが私を掴もうと手を伸ばしたがそんな手よりも早くに私の身体は宙を浮く。

 

ここまで来たらもう誰も助けられない。やっと終わる。やっと全部終わる。

 

 

 

 

瞬間、風と共に流れて来た何者かが私の体を攫った。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーなっ!?」

 

歩道橋の方から呆気に取られた声が響く。私はついぞ声は出ない。

 

おかしいのだ。

 

もうあそこまで落ちたら助からない筈だったのだ。もう、苦しみから解き放たれる筈だったのだ。

 

ドゴッ……!!

 

横凪に私を攫った何者かが歩道に着地したと同時に地面が大きく抉れる。

跳ねるはアスファルトの破片だろうか。いつかのヒーローが着地したと同時に地面の土が跳ねる。そんな光景を思い出した。

 

あり得ない。

 

もはや人間では説明がつかない。これは脚力なのか?だったらアスファルトへのダメージから換算して着地だけでトン単位のエネルギーがアスファルトに注がれたのがわかる。詰まるところ人間では到達たり得ない体重で無ければおかしいがそうは見えない。

 

そんな酷く筋肉質でもない細腕に一般的な女性の身体…

 

確かに身体は雨ガッパにより見え隠れしているがこの結果を齎すには細過ぎるという事実には変わらない。

 

 

見上げれば星が見えた。

 

 

フードの中から特徴的な光り輝く星。それは誰もが羨む一番星だ。

 

「……綺麗。」

 

フードの中に手を伸ばして暖かい頬に触れた。

 

 

 

 

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