自分を星野アイだと勘違いしている一般星野アイ 作:マッキーガイア
靴屋に呉服店にCD屋に…見渡せばさまざまなテナントが立ち並んでいる。それを一切見ずに私はひたすらに前へ進む。
いつもならあちこち寄り道しながら最終的に本屋に到着し、クエストクリア!帰宅!の流れなのだが、今日はさっさと目的を果たして帰りたかった。
理由は単純明快、目の前を歩く二人組のもう片方の少女にある。ポニーテールにまとめられた黒い髪に整った顔立ち、周りが輝いて見えるソレはオーラ的な奴なのだろうか。しかし、その顔立ち、オーラにはやはり見覚えがある。
10年前に堕ちた筈の一番星。B小町のアイ
遠目だが、見れば見るほどに似ている。まるで本人かと言わんばかり…だが、流石に本人でない事くらいは理解できる。まず、歳が若すぎる。流石のアイも生きていたとしても年齢は誤魔化せないだろう。だが、目の前を歩く少女はむしろアイドルの頃よりも若く見える。中学生くらいだろうか。
そして何より、あの身体である。
細い、細すぎる。アイの身体はダンスのレッスン等で意外にがっしりしている。別に太っているわけでは無いが、足のモモなど筋肉が付くところにはしっかり付いている健康体なのだ。故に彼女の肉体には少々肉質が足りない。そう言う肉体的特徴で言ったら隣の女性の方がそっくりである……
だが、似すぎる程に彼女は似ている。
故に私にはあれがとんでもない地雷にしか見えなかった。
あそこまで似ているのだ、あのアイの何かしら血縁的関係性がある可能性が高い。それが親戚等ならまだ理解できる。だが、以前のインタビュー的にアイには確か親戚等はひとっこ一人居ない…もしくは知らないと聞いた事がある。
だから血縁的関係があるとするならば…1番燃えそうで最悪な方向性、
本人は死んでいる為に関係はないが、事務所は絶対に燃えるし、仕事の関係者も漏れなく燃える。
なんならアイにちょっとだけ関係があった私にすら、火の粉どころか大元から襲ってくるかも知れない。ネタ半分で『有馬かなが父親かも?』なんて噂が立っても炎上する様なアタオカな連中がネット民なのだ。
今の私は非常に炎上に弱い。小さい火の粉でも永久追放の可能性がある。本当に理不尽な理由で炎上しかねない世界で生き残る為には
故に私はさっさと目的を果たす為に本屋へ向かうのだ。
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(ま、まさか…目的地が一緒だとはね…)
不本意だが、彼女達の後ろに歩いてしまったらそのまま本屋に着いてしまった。
何だろう、神はコレが運命だとでも言いたいのだろうか。
だが、目の前の彼女達を見る限り、片方はゲームコーナーに片方は文庫本コーナーに向かっている為に私にはあまり関係が無さそうだ。ゲームコーナーは私が向かうコミックコーナーとは反対側…1番遠い。
そして、文庫本コーナー1番手前でコミックコーナーの隣だが、そうそう近づいてくるはずがない。
一先ずは大丈夫っぽいかな…と思いつつも中々に足が進まない。
それもその筈、地雷が埋まっているかも知れない砂浜に誰が足を踏み入れたいと言うのだろうか。私は決してブラック・ジャックになりたい訳ではない。少なくとも近づいただけで爆発する様な地雷に近づきたくないのだ。
そんな風にその場で足踏みしていると、次第に周りの目も痛くなっていく。穴があったら入りたいが、それでも前へ進めないのは私の心の弱さが原因だろうか。
情けなくて涙が出てくるぜ。
「大丈夫なのです?」
そんな風に落ち込んでいると、ふと、横から話しかけられる。
あ、やべ…地雷が走ってきた。
私に向けて顔を覗かせる。
嗚呼、見た事のある顔だ。近くで見てますます思う…似ているじゃない
いや、だけど、近くで見れば思う事も沢山あった。彼女はアイを模るには足りていない物が多すぎる。まるでアイの顔をそのまま貼り付けてしまった様な、そんな歪な姿。
ああ、こんな事すら頭に過ぎってしまうくらいに似ているのに…あまりに違う。
アイを知っている人間からしたら彼女の顔は嫌悪感を抱き、思わず顔を顰めてしまう様な物なのだ。
先程、歩いていた時の輝く様なオーラ的な物を感じないのは現実を直視したからだろうか。
「………貴方の名前は?」
思わずそう問いかける。彼女の正体を知りたいと思った。それと同時に知りたく無いと思った。その存在を認知した瞬間に何か面倒ごとに巻き込まれるような気がしたが、それに目を瞑ってしまうほどには彼女の存在は私に興味を抱かせた。
「私…ですか?
わたしの名前は星野マナ、14歳!好きなものはおねーちゃんです!!よろしくお願いします!!」
「………星野…」
聞いた事ある苗字だ。幼少期の…全盛期の私に唯一、苦虫を噛み潰させたアイツと同じ苗字。
だが、その苗字は別に珍しい物という訳でもない。中学時代に後ろの席だった男子が星野って苗字だったし、某歌手も星野だ。
「星野マナね。知ってるかも知れないけど、私の名前は有馬かな」
「ごめんなさい。知らないです。」
「……うん、そうだろうと思ったわ。」
ため息を吐きつつ、そう返す。昔ならそう名前を言えば大抵は反応が良かった。
だが、全盛期はとうに過ぎ、もう私を覚えている人なんてほんの一握り。
というより、同じ時期に活躍した相手が悪かった。あの頃の記憶などB小町のアイに全て持っていかれる。そこに有馬かなの入る余地はあまりにも小さかったとしか言い様が無かった。
「それでかなちゃんは何してるです?こんな所でタップダンスなんかして。」
「かなちゃん…って。一応アンタよりは年上のつもりなんだけど。
ってか、タップダンスって何よ?私そんなに滑稽だった?」
「歳上ですか!!
こんなに可愛いのに!!」
「そ、そう!こんなに可愛いのに歳上よ!敬いなさい!」
「チョッッロ…。将来気をつけてくださいね。酔っ払ってお持ち帰りされたとか目も当てられないんで。」
「コ…コイツ……」
流れるようにそう毒を吐く彼女に青筋を立てながら拳を握る。
コイツいつか泣かす、そう今決めた。
「でも、かなちゃん普通に私に話しかけられるんですね!変な人かと思ったけど、少しは見直しました。
お姉様に5メートルまで近づく事を許します。近接パワー型の射程距離内ですね。」
「何者よ、お姉様。」
どこぞのスタンド使いか。
「みんなはじめに私を見ると悪口ばっかり言うです。その後は色々ですが。」
彼女はそう言うとそっと目を逸らした。
「悪口?
今見る限りはアンタ可愛いし、コミュ力もありそうだし、好かれそうではあっても嫌われる要素無くない?」
「確かに嫌われる事は無いですよ?
可愛いし、コミュ力ありますし。でも私かちょっと上の年齢の人はみんな私を見るとトラウマみたいな物を刺激されるらしいです。」
「トラウマ…ねぇ。」
「私って、ほら昔の有名人にそっくりらしいんですよ」
聞いた事がある。
アイ恐怖症(作者がそう呼んでいるだけ。)
アイの殺人事件のニュースを観てからアイの顔を見るだけで泣きたくなったり、似たような声質を聞くだけで泣きたくなってしまい段々とアイに忌避感を覚える事。(因みに現実にも同じ様な症状がある。僕の事なんだけどね…。るろ剣の薫殿の声を聞く度に泣きそうになる…めぐみんの時はそんな事思わなかったのに…)
「でも、そっくりにしては似てないらしくて。」
あ、それはちょっと分かるかも。
そう内心で思いつつも言葉に出そうになるが次の言葉で引っ込んだ。
「死体の顔の皮を剥いで被ってるなんて言われた事あるくらいですよー。」
「ハァ?」