俺とナツが敵の方に走ると同時に、村人達は俺達から逃げるように走り出した。
「俺達はこの場を離れよう...!魔導士同士の戦いに巻き込まれる...!!」「グレイさんは俺達に任せろ!!」「はやくいくぞ...!!」
「逃がしませんわ。零帝様の命令は皆殺し...アンジェリカ、行きますわよ」
敵の女の子がネズミに乗ってネズミが低空飛行する。
「うおっ!」「おぶっ!」
俺とナツは風圧で一瞬怯む....
ふと顔を上げると、ルーシィが居なくなっていた。
「...!?」
「あれぇ!?なんか勢いでしがみついちゃったぁ!!」
ルーシィの叫び声が聞こえる。よく見るとルーシィがネズミの足に掴まっていた。
「...何やってんだ!!」
「いや、これでネズミもあの女もルーシィに任せられる...無理でも俺達がこいつらをさっさと倒して助けに行けば良いしな」
「そうは言っても!...いや、そうだな。ルーシィの星霊魔法はちゃんと強力な魔法だ。きっとやってくれる...でも、念の為にハッピー。見て来てもらっていいか?」
「あいさー!ルーシィはおいらに任せて!!」
ハッピーが飛び去ろとすると、少し先の方でネズミが墜落して大きな土煙が立っていた。
「...本当に大丈夫だよな?」
「大丈夫だ。行くぞイッセー!!」
「...おう!」
少し後ろ髪を引かれる思いではあったが、俺はケモノ男を、ナツは極眉をそれぞれ獲物として襲い掛かる。
「おぉん!!?」
ケモノ男は俺の攻撃を受け止めて、反撃してくる。それを受け止めて蹴りを入れて一旦離れる。
一方、ナツは極眉に向けて炎を吐いたが、なんらかの魔法で打ち消されていた。
「なんて凶暴な炎だ...まさか、噂に聞く
「お前も、なかなか悪くないパワーだな。おぉん?」
「...ちっ」
倍加しきれないのが痛い。いっつもパワーでごり押して来たから、それが届き切らない相手は辛いものがある。
「だが、俺達もかつては名のあるギルドに居た魔導士...魔導士ギルド
「そうさ...あの岩鉄のジュラがいる...おぉう」
俺とナツは二人の言葉を無視して殴りかかる。
「おい、人の話は最後まで聞かんか...!!」
「どこのギルドだとか誰の仲間だとか関係ねぇんだよ。お前らは依頼人を狙う。つまり仕事の邪魔、ようするに妖精の尻尾の敵...戦う理由はそれで十分だ」
「貴様....波動!!」
極眉がナツに向けてなんらかの魔法を発動する。
「はっ!こんなもんぶっ壊して...!!」
ナツが炎を手に纏って殴りつけようとした所で急に避けた。
「ほう、よく性質に気付いたな...我が手により作りだす振動は全ての魔法を中和する。すなわち魔法を通さぬ魔法...
「さっき火じゃ防げねぇって思った感覚はそれか...」
「全ての魔導士は俺の前では無力なのさ!!」
「...っぐ!!」
ナツは炎を吐きつけるが、それは打ち消されてそのまま極眉の放った波動で吹き飛ばされる。
「ちくしょー...炎が効かねぇのか...!!」
....一方、俺は俺でそれなりにピンチに陥っていた。
「麻痺爪メガクラゲ...!!この爪に触れたら最後、びりびりに痺れて死を待つだけだぜ...?おぉん?」
ケモノ男の爪攻撃を俺は全て避ける...避けきれないものは籠手で受け止めてなんとか生身に爪だけは食らわないようにする。
「...!!...くそっ!!」
体が思うように動かず、全く攻勢に出る事が出来ない。
「地味な魔法の癖にやりづれぇ...!!」
「お前も地味だろうが!!身体能力上がってるだけじゃねぇか!!おぉん」
「はぁ...はぁ...!」
一発でも食らったらアウトの緊張感が俺から余計に体力を奪う。ただでさえ怪我で体力が低下してるのに...!!
気が付くと、俺はナツと背中がぶつかってしまう。互いにここまで後退してきてしまった。
「あいつやりづれぇ...!」「あぁ...」
一応、互いの戦いぶりは横目で見ていたので相手がどんな魔法を使ってるかとかは分かっている。
いや、待てよ?
「なぁナツ」「おう、今俺もそう思ってたところだ!」
俺達はニヤリと笑って位置を入れ替えた。
「なんだ...?」「今度はお前が相手か?おぉん?」
単純な話だ。痺れ爪のあいつには遠距離での炎の攻撃があって、爪の連撃を避ける体力もあるナツの方が適していて、魔法を打ち消すあいつの相手は物理近接しかない俺が適している。
「いくぞ...!!」
俺は極眉の方に向かう。
「相手が変わろうと同じ事だ...!!」
極眉が波動を放ち、俺はそれを真正面から受け止める。
「.....ぐおっ!!!」
めちゃくちゃ重いが耐えれない程じゃない...!!
「おらぁぁぁ!!!」
俺は波動が通り過ぎると同時に更に距離を詰める。それを何度か繰り返し、拳の射程圏内に入ったので殴りかかると、相手はバリアを張るように波動を発動した。
「....ぐぁぁぁああ!!!」
「バカが。魔力の渦に生身を突っ込むなど無謀すぎる...消し飛ぶぞ!?」
「うるせぇ...ドライグ!!」
『知らんぞ...?』
『Boost!!』
俺は更に倍加する。
「ぐっ...!!がぁぁぁあらぁぁぁ!!!」
波動による腕の痛みとは別の痛さが体中を包むが、俺はそれらを全て無視して波動の中を無理矢理進んでいく...
「バ、バカな...!波動の中でまともに動けるわけが...!!」
「赤龍帝の馬鹿力舐めんなよ...!!こんなもん、そよ風と一緒だぁぁ!!!!」
俺は極眉の襟首をつかんで思いっきり振りかぶり、殴りつけた。
「んぎぃい...!!!」
顔面の中心を思いっきり捉えた。極眉は数メートル吹き飛んで、そのままぐったりと鼻と口から血を垂れ流しながら気絶した。
「っはぁ...はぁ...!ぐっ...!」
波動に蝕まれた体が、耐えきれない力を纏った事の副作用で余計に痛む。
後ろを見れば、ナツがケモノ男の腹に思いっきり火竜の鉄拳をぶち込んでいる所だった。ケモノ男はくの字に曲がって宙に浮き、落下する頃には完全に脱力していた。
「へっ...ナイスファイト!」
ナツが俺に向けて手を掲げる。俺はそれに答えてハイタッチした。
「...しっかし、こっびどくやられたなイッセー」
「うっせ。本調子ならこうはならねぇよ...!」
「カカッ、ちがいねぇ」
「さて、と...ルーシィ助けに行くか」
「その怪我でか?」
「おう...俺はルーシィを守るって約束してるからな」
「そっか。でも、悪りぃ。俺ちょっとイイコト思いついちまってよ...それがしてぇからそっちには行けねぇ」
「?...分かった。気を付けてな」
「おう!」
ナツがたったか走り去ってしまったので、俺はネズミの墜落地点に向けて走り出す。
「無事でいてくれよ...」
────────────────────────────
海岸にまでついてしまった。
きょろきょろと周囲を見ていると、明らかに戦いの形跡と見られる岩石や、超巨大ネズミの体が転がっていた。
「ルーシィ...流石だな」
俺はルーシィに声をかけるべくそちらに近づくと、金色の髪が見えた。
「おーいルーシィー!!お手柄だなー!!」
俺がルーシィの方に手を振って近づくと...そこには、赤い髪の女が居た。
一瞬で俺との距離を詰め、俺の首筋に剣を近づける。
「動くな、少しでも不自然な動きをすれば斬る」
「エ...エルザ...さん...?どうしてここに...」
「無論、貴様らを連れ帰るためだ...貴様はこういった類の過ちは犯さない男だと思っていたのだがな...どうやら買い被りすぎていたようだ」
「っ...うぐ!」
急に背中に痛みが走ってびくりと動いてしまう。
すわ斬られるかと思ったが、そんなことは無かった。
「なんだ?背中に...っ、貴様!なぜこのような傷を放置している...!!」
俺はエルザさんに首根っこを掴まれて地面に抑えつけられる。
「!!?...ぐあっっ!!」
「消毒液だ。我慢しろ」
背中からズキズキと痛みが走る。
何度も消毒液をかけられて、そのたびに悶えた。
エルザさんが力を緩めたので立ち上がると、包帯で上半身がグルグルと巻かれていく。めちゃくちゃきつく締められる...!
「あだ、あだだ!もうちょっと優しく...!!」
「黙れ。治療してやるだけありがたく思え...全く、勝手にS級クエストに行った挙句このような怪我をこさえよって。呆れて物も言えんぞ」
「っ...ごめんなさい」
「謝罪など受け取らん。まずは治療を施し、その後にしかと貴様には罰を受けてもらう...もちろんお前たちもだぞルーシィ、ハッピー」
「はぁい...」「あい...」
包帯が巻き終わると同時に、俺はエルザさんに縄で縛られた。
「はぁ...ついに来ちまったか...」
「うん...ねぇ、けがは大丈夫だったの?」
「まぁ、こうして大人しく捕まってられるくらいには大丈夫」
「はは...それはなにより」
「それにしても良くやったなルーシィ。あの女は強さが分からないからあれだけど、ネズミと一緒に倒しちまうんなんてすごいじゃねぇか」
「ネズミはエルザだけどね...でも、ありがと」
「おい、私語は慎め罪人共」
「ひっ!」「は、はい!」
「ひとまずグレイとナツを探しに行くぞ...二人とも、居場所に心当たりは?」
「ごめん、私は何もわからない」
「グレイは敵にやられて気絶してて村人が連れて行ってくれたから、今村人が居る場所で寝かされてると思います...ナツは、イイコト思いついたとか言ってどっか行ったからわからない...です」
「グレイまで怪我をしているのか...全く、分不相応な依頼に手を出すからこうなる。お前たちは死んでもおかしくなかったのだぞ!?」
「はい...」
「待って、イッセーは最初は私とナツを止めようと...」
「ルーシィ、いいんだ。結局来てる俺は同罪だし、俺も自分の欲望の為にここに来た。だから庇おうなんてしなくていい」
「あ...そういえばそんな事もあったわね...はぁ」
「当たり前だ。これでルーシィに罪をなすりつけるようなら貴様だけ他の者の5倍の罰を与えてやるところだったぞ」
「は、はは...」
「ハッピー。空を飛んでグレイと村人の居場所を探せ...無論、逃げられるなどと思うなよ?」
「あい...」
ハッピーが縛られたまま翼の魔法で上空に飛び出した。
「.....あ!村の人達がいるよ!」
「そうか。降りてこいハッピー。方角を教えろ」
「あ、あい...あっちだよ」
ハッピーが頭を振って方角を知らせる。
「では、グレイを拘束に向かうぞ」
「「「あいあいさー...」」」
俺達は全員エルザに手綱を握られながら、罪人のように歩いていく...
──────────────ー
村人達は村の資材置場を避難場所として選んでいたようで、俺とルーシィの姿を見ると村人達は俺達を歓迎してくれた。
エルザさんがグレイの場所を尋ねると、今は意識を失っているから起きてから俺達の所へ行くように伝えるとの事で、とりあえず一晩明かすことになった。
....俺とルーシィとハッピーは縛られながら。
「うぅ...罰なのは分かってるけど、縄に縛られて眠れるわけないじゃない」
「何を言っているルーシィ、こんなものは罰のうちにも入らんぞ。この程度で音を上げているようでは本当の罰を受ける時にはどうなる事やら...」
「ひぃっ!ねぇ、あんたいっつも矯正されてるんでしょ!?一体何されるの!!?」
「あばばば...ぐぅ、ぐぅ」
「あからさまに狸寝入りしてるんじゃないわよ!!」
「どうした...さっさと寝ないと明日は持たないぞ?」
「怖すぎるんですけど...」
俺は必死に目を瞑った。一刻も早く現実から目を逸らしたい。助けて欲しい。
....気が付くと朝になっていた。よく考えたら少しでも長く起きていた方が現実から遠ざかれたな。いよいよ俺達の終わりは近いかもしれない。
俺達が縄に縛られた状態で座って待機していると、グレイが俺達のテントを訪ねてきた。
「...エルザ!?...ハッピーにルーシィにイッセーも」
「大体の事情はイッセーから聞いたぞ。お前はイッセー達を止める立場では無かったか?呆れて物も言えんぞ」
「ナツは...」
「大方どこかしらで道に迷っているのだろう。今からナツを探しに行き、見つけ次第ギルドに戻る」
「はぁ?何言ってんだエルザ...事情を聞いたなら今この島で何が起こってるか知ってんだろ?」
「それが何か?私はギルドの掟を破った者を連れ戻しに来ただけだ。それ以外の事にはまるで興味がない」
「この島の村人達の姿を見たんじゃないのか?...それを放っておけって言うのか!?」
「そうだ。依頼書は各ギルドに発行されている。正式に受理されたギルドの魔導士が解決するのが道理ではないのか?」
「ちっ...見損なったぞエルザ!」
「何だと?おまえまでギルドの掟を破るつもりか...ただではすまさんぞ?」
エルザが換装した剣をグレイに突きつける。
グレイはそれを少し見ると、掴んで握りしめる...手から血が零れていく。
「勝手にしやがれ!これは俺が選んだ道だ。最後までやらせてもらう...斬りたきゃ斬れよ」
グレイはそれだけ吐き捨てるとテントを出て行ってしまった。
エルザさんから魔力が漏れ出して俺達を威圧する...
「エ、エルザ...お、おおおおちついて...!!」
ルーシィがそう言った瞬間、エルザがぐるりとこちらを睨みつける。
「ひっ!!」
「グレイは昔の友達に負けて気が立ってたんだよぉ...!!」
「ル...ルーシィは、俺が...おれ、が....あばば...」
エルザが俺達に剣を振り下ろすと...俺達がなます斬りにされるといったことは無く、普通に縄が斬られた。
「...行くぞ。これでは話にならん。まずは仕事を片付けてからだ」
エルザもグレイを追ってテントを出てしまった。
「エルザ...!」
「し、死ぬかと思った...」
「それは私もそうだけど...早く追いかけるわよ!S級クエスト再開よ!!」
「おう!」
俺達もエルザを追って駆け出した。