「……はは。結局、死ぬかぁ」
暗い森の中。
戦乱に巻き込まれた家族たちをどうにか逃がしたその女性は、もはやぼんやりとしか映さない目を閉じる。
その女性は、死を悟ってなお家族のことを考えていた。
「……みんなは大丈夫かなぁ」
力なく呟かれるその言葉。
本来であるならば誰も聞き届けない雑音でしかないそれ。
実際、その言葉は風に乗って消えた。
「……死ぬ、かぁ。みんなは死んでないよね……? 死んでたら……怖いなぁ」
彼女は思う。
その恐怖は確かに自分の心を揺らすものだけれど、無くならずとも良いと。
むしろそれが、家族とのつながりの証明になるのだから……残したい、そう思った。
《確認しました。
ユニークスキル『恐怖者
「……?」
突然その脳内に響く、何者かの声。
それは、異界へと誘う言葉。
死の間際にして異世界へと飛ぼうとする魂が、その先の世界へと馴染むために行う、いわば
もはや彼女は言葉も満足に発せないほど弱っていた。
けれどその言葉に、彼女は縋る。
「……ぁ」
(だれ? 誰かいるの!?)
問いの答えは返ってこない。
もう言葉は話せない。
だから代わりに頭の中で問いかけてみたが……残念ながら、その答えは返ってこなかった。
けれどそれで諦めるというのなら、彼女はここまで必死に家族を逃がしたりはしなかっただろう。
(天使でも悪魔でもなんでもいい! みんなが幸せに生きることができるなら、なんにだってなるし、なんにだって契約する! だから、だから……!)
《確認しました。
情報不足により要請が実行できません。代行処置として悪魔の肉体を作成……成功しました》
それは応答ではない。
それは彼女の言葉に反応して、決まりきった言葉を返しているに過ぎない。
その事実に彼女は気付き……ほんのすこし上げかけた腕を、がくんと降ろした。
(……なんだ、やっぱり助けなんてなかったんだ)
彼女の心は凪のように動かなくなる。
元々彼女の心が動いていたのは、助けてくれる可能性のある『声』が聞こえたからだ。
それが自分に助けを与えてくれる存在ではないと分かった以上、これ以上考えることは無い。
(……ちからがあったら、どうにかなったのかなぁ)
《確認しました。
ユニークスキル『憧憬者
やがて、彼女は動かなくなる。
その命を終え、転生を果たす。
ただしそれはこの世界ではなく、異世界で。
世界を超えることで大きく魂をすり減らしつつも転生を果たし。
そうして彼女は、名もなき悪魔として目を覚ますこととなった。