空の悪魔の特異点   作:光車

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1話 転生前の微かな記憶

「……はは。結局、死ぬかぁ」

 

 暗い森の中。

 戦乱に巻き込まれた家族たちをどうにか逃がしたその女性は、もはやぼんやりとしか映さない目を閉じる。

 その女性は、死を悟ってなお家族のことを考えていた。

 

「……みんなは大丈夫かなぁ」

 

 力なく呟かれるその言葉。

 本来であるならば誰も聞き届けない雑音でしかないそれ。

 実際、その言葉は風に乗って消えた。

 

「……死ぬ、かぁ。みんなは死んでないよね……? 死んでたら……怖いなぁ」

 

 彼女は思う。

 その恐怖は確かに自分の心を揺らすものだけれど、無くならずとも良いと。

 むしろそれが、家族とのつながりの証明になるのだから……残したい、そう思った。

 

《確認しました。

 ユニークスキル『恐怖者(コワガルモノ)』を取得……成功しました。続けて、ユニークスキル『接続者(ツナガルモノ)』を取得……成功しました》

 

「……?」

 

 突然その脳内に響く、何者かの声。

 それは、異界へと誘う言葉。

 死の間際にして異世界へと飛ぼうとする魂が、その先の世界へと馴染むために行う、いわば調整(チューニング)行為。

 

 もはや彼女は言葉も満足に発せないほど弱っていた。

 けれどその言葉に、彼女は縋る。

 

「……ぁ」

(だれ? 誰かいるの!?)

 

 問いの答えは返ってこない。

 もう言葉は話せない。

 だから代わりに頭の中で問いかけてみたが……残念ながら、その答えは返ってこなかった。

 けれどそれで諦めるというのなら、彼女はここまで必死に家族を逃がしたりはしなかっただろう。

 

(天使でも悪魔でもなんでもいい! みんなが幸せに生きることができるなら、なんにだってなるし、なんにだって契約する! だから、だから……!)

 

《確認しました。

 情報不足により要請が実行できません。代行処置として悪魔の肉体を作成……成功しました》

 

 それは応答ではない。

 それは彼女の言葉に反応して、決まりきった言葉を返しているに過ぎない。

 その事実に彼女は気付き……ほんのすこし上げかけた腕を、がくんと降ろした。

 

(……なんだ、やっぱり助けなんてなかったんだ)

 

 彼女の心は凪のように動かなくなる。

 元々彼女の心が動いていたのは、助けてくれる可能性のある『声』が聞こえたからだ。

 それが自分に助けを与えてくれる存在ではないと分かった以上、これ以上考えることは無い。

 

(……ちからがあったら、どうにかなったのかなぁ)

 

《確認しました。

 ユニークスキル『憧憬者(コガレルモノ)』を取得……成功しました》

 

 やがて、彼女は動かなくなる。

 その命を終え、転生を果たす。

 

 ただしそれはこの世界ではなく、異世界で。

 世界を超えることで大きく魂をすり減らしつつも転生を果たし。

 

 そうして彼女は、名もなき悪魔として目を覚ますこととなった。

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