私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない   作:劇団おこめ座

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興味を持って読んでいただきありがとうございます。
諸事情あってホラーな感じに書き始めていますが、コメディー物です。


かくれんぼ

 夕日が沈み、人と人の顔が分かりにくくなる黄昏時。

 カラスの鳴く声が近所の公園から響いて、私の安アパートに届く。

 耳を澄ますと、カラスの鳴き声は急に止まり、代わりに乾いた足音が安アパートの外から聞こえてきた。

 聞き覚えのある音だ。私は布団に潜り込んで震えた。

 安アパートの廊下を歩き始めたその音は、カツン、カツンと反射して響く。音は段々と大きくなり、私の部屋を通り過ぎ、やがて小さくなる。

 勘違いか、と思ってため息を吐いて、布団から這い出ようとすると、カツン、カツンと響く足音はまた私の部屋に近づいてきた。

 額に脂汗が滲み出す。

 そして、その音は私の部屋の前で止まった。

 私の頭の中で、やめてくれ、と声に出せない悲鳴がこだました。

 チャイムの音が私の部屋に響き渡る。隣の部屋のチャイムだと無理矢理自分自身に言い聞かせて布団を被る。

 2度、3度とチャイムの音が聞こえ、私は息を殺した。

 なんでこんなことになるのだろう、何故あんなところに連れていかれたのだろう、そしてなんでこんな風になってしまったのだろう。

 私の破滅の時間は間も無くだ。

 チャイムの音は途絶えた。諦めたのだろうかと思ったが玄関の扉からまだ離れていない。

 

 不意にテーブルから音が鳴り響いた。

 存在を忘れていた携帯電話だ。

 

   ナンダ、イルジャナイ

 

 ドアに何かが差し込まれる金属音で私は体を震わせた。

 

 カチャリ

 

 ドアチェーンはし忘れた。

 いや、運が良かったかもしれない。

 ドアチェーンをしていれば確実に家にいると思われる。

 でも、していなければ、ただの不在だと思ってくれるかもしれない。

 

 ノシリ、ノシリ

 

 足音はどんどん自分の方へ近づいてくる。

 

 布団の前で止まった。

 

ーーー

 

 30年くらい前の日のことだ。

 仕事休みの日の遅い昼、テーブルに置いた携帯電話を見ながら自炊が面倒だからと適当に作ったカップ麺をすすっていた。単身赴任をする人間の気楽で自堕落な日常の一コマだ。

 急に部屋が眩しい光に包まれて、気がつけば着の身着のままで森の中に放り出されていた。

 あ、これ進研ゼミで見た問題だ、と言わんばかりの異世界転移感溢れる謎の植生や、謎生物で森は溢れていた。

 なんかチートを渡されるイベントがスキップされていることに気がつき涙を流した。

 

 40代の私は、訳わかんねー、と思いながら本で読んだりテレビで見た程度のサバイバル術で数週間森をさまよった。

 アニメやゲームで見た緑色の子供くらいのサイズの醜い顔のやつ、多分ゴブリンに違いないというやつに狩られかけられ、ゴブリンを狩りに来たオークに助けられた。そして、オークは私のケツを掘ろうとしたので、暴れて急所潰して逃げた。

 

 水も、当然食料もなく、やっと見つけた泥水を頭から顔をつけてすすった。

 この泥水を吸わなければ、明日とて生きながらえない程喉が渇いていた。

 なんで私はこんな目に、と思いながら泥水から顔を上げたところ、金髪で耳の長い部族に囲まれて弓を向けられた。

 

 ファンタジー小説とか漫画やアニメに出てくる典型的オーク弱点的生命体美男美女のエルフだった。

 エルフたちは明らかに武装のない、元からボロボロだったけれどもさらに拍車がかかったユニクロの部屋着姿の私に不審に思いながら、泥にもう一度顔を付けさせ後ろ手に縄をつけた。

 話しかけてくる言葉は何故か理解できた。でも、口の形と聞こえてくる音は違うような感じがした。おそらくこの世界に来た際に得た唯一のチートなのだろう。

 

 エルフの集落にたどり着くが、電灯のようなものや電気の配線はなく、水はカメからすくっていた。この後知るのだが、上下水道もなかった。用便も一応トイレはあるが、けつを拭く紙はない。代わりに、木のツルをまとめたようなロープ状の物がトイレの戸口にあり、それでけつを擦って拭くらしい。そこらの美男美女のエルフのけつを拭くロープは共用されているらしい。衛生感が仕事をしてない世界、マジでやばい。泥水を平気で啜っていた私はもっとやばい。

 里の中はログハウス状の明らかな木造住宅が何戸かあり、そこでエルフは集団生活しているようだった。

 

 その中の一軒に私は連れて行かれると、甲冑を着込んでいるエルフばかりがいた。日本で言うところの警察とか自衛隊の駐屯地の施設なのだろう。

 私は4畳もない狭い一室に憲兵と思われるエルフ2名と入り、スパイか何かの容疑で問い詰められた。

 しきりに彼らは、どこから入って来た、どのような手段を使った、等と私を問い詰めた。どうやらエルフの里の近くまでは人間は近づけないそうだ。

 しかし、私は、エルフに何らかの敵対をされているにせよ、屋根がある建物や人のような生命体がいたことに安堵し、私は意識が飛んだ。

 後日、里の長という女エルフと面談した。と言っても、私は後ろ手に縄と両足に縄が付いてましたがね。

 女エルフはエリンと名乗った妖艶な巨乳だった。顔といいスタイルといい里一番だった。里の長ってそういう選び方してるんすかね。絶対オーク大好物そう。どっち共の意味で。

 里の長エリンは、

 

「あなたが衛兵に話した内容に齟齬(そご)がないことを確認しました」

 

と仏様の様な微笑をたたえていた。どういう風に齟齬を調べたのだろうかと思っていると、

 

「どうやって調べたか、ですか。私は記憶や心の中を読めるのですよ」

 

と額に血管が若干浮き出ながらおっしゃられました。いやあ、とても麗しく、崇拝すべき方だ。清楚な佇まいも姿勢もすばら

 

「あなたの処遇についてはよく考えさせてもらいます」

 

 そういうふうにして、私はしばらく解体予定の馬小屋に住むこととなった。

 

 その後、エルフの集落の中で異物として扱われながらも、現代日本で培った空気を読む力で乗り切った。

 しかし、寿命だけは乗り切れなかった。

 異邦の土地で、衛生環境もよろしくない。馴染みのある食物はない。慣れてない狩りや、慣れない魔法にも本当に疲れた。

 私は奇跡的に70歳くらいの爺になるまで生き延びた。

 生き延びたのは、日本に残っている妻や子供たちにもう一度会うため。世界を超える魔法がきっとあるに違いないと思って勉強をしても、もとより魔法を使ってこなかった人間には到底理解に苦しむ世界の話だし、エルフも魔法の極意を教えてくれるほど私を信用しているわけではなかった。ほとんど独学で、何代も培ってきたエルフの魔法の極意を超える魔法を使えるようになるとか、普通ありえん。

 でも、頑張った。温水を手で出してけつを綺麗に拭き取れる程度の技術の錬成については非常に頑張った。

 約30年の月日は私の体に深刻な老化を与えた。周りのエルフはほとんど顔つきが変わらなかった。

 あいつら1000年くらい生きるらしい。くそエルフどもめ。いつか日本に帰ったら薄い本に書きまくってやる。そうだな、私の性癖で集めているあるTS系の薄い本の刑だ。男エルフが女エルフに性別が変わるTSもので、わからせられる系にしてやる。TSされて無理矢理触手攻めもいい。ぬめぬめした触手、タコみたいな触手、ホイミスライムの黄色の末端みたいな触手……いい、やってやる、あのエルフに薄い本で復讐だ。

 そんなことを考えるタイミングで、大体里の長がすれ違い、これから出荷される鶏を見るような目で私を見た。

 

 そんなわけで、私はそんなくだらない妬みと愛する妻と子供たちのために日本に帰ることをいつも願っていたが、寿命には勝てなかったわけだ。

 最後の日、寝ていると、息苦しくなり、どんどん熱が体の末端から消えていく感じがあった。

 もう限界なのだろう、と思い口惜しさで涙を流した。

 瞼を閉じると、私には不釣り合いの美人の妻が微笑みかけた。




なろうで書いた一話だと短すぎたので、1話と2話を合わせています。
感想等あると嬉しいです。
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