私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない   作:劇団おこめ座

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美少女おっさんの年休とエルフの里のおもひでぇ

 エルフの里の周囲の森は、ヒトの手をつけられていない深い森で、どこに何の魔物が潜んでいるかわからない。こんな森の奥深くで私が一人でいたのは訳がある。

 

 1日前、エルフの長、エリンから呼び出しを受けた。

 

「どうやら、薄汚い人間がうちの庭の雑草(魔力草)を盗もうとしている。

 あわよくばエルフの子供を誘拐しようと企んでいる。

 今は里から南西方向の森の中だ。

 あと数日で里の近くにたどり着く」

 

 そう言って、私をじっと見つめた。

 長は、何も言わない。

 私が何をするべきか、考え、実行せよ、ということなのだろう。

 ほら、昔の職場で、見て覚えろ、感じて察しろ、というやつだ。

 そんなこと簡単にできたら、みんな勝ち組経営者になれるわ。

 おっと、思慮深いエリン様は下賤な私めに試練を与えて、成長させようと……

 

「馬小屋の生活の方は、まだ満喫されていないみたいですね」

 

 最近は長もかなり優しい話し方や表情をしていたのだが、この時の顔は、そろそろこの牛さん、乳の出る量が少なくなって来たから出荷し時かな、という目をしていた。

 

「鋭意努力して結果に繋げます!」

 

と叫ぶように声を出して、回れ右、駆け足でホテル馬小屋に戻った。

 

 装備を整えて、明日の朝の日課のための魔力草を摘み取り、エルフの里を出た。

 

 長の指示はきっと、

 

『薄汚い人間を殺してこい。出来なかったときはどうなるかわかっているだろうな』

 

というものだろう。

 何度も魔物と血みどろになって殺し合いをし、今更人間を殺せないということはないだろう。

 エルフの里での生活は苦しいが、そこでしか最大MPは成長しにくく、また魔法についてもエリンやエメラダから教えてもらっていることを考えれば、日本に帰る魔法を使えるようになるためにもエルフの里に居続ける他ない。

 

 ターゲットとなる人間たちを見つけるまで歩き続けた。すでに足は棒になりそうだった。心が折れそうになった時は自分に幻術を使い、妻を出現させた。幻覚の妻が私を応援してくれた。

 腹が減った時は魔力草を飲み込み、生活魔法で作り出した水で腹に流し込んだ。

 眠くなった時はほんの少しの魔力草をかじって、体が曲がってはいけない方向に曲がるような気分を味わい、気を持たせた。

 長時間歩き回って見つけたターゲットの人間はいわゆる冒険者というような格好をしていて、革の鎧を身にまとい、剣や鈍器などを持ち歩いていた。

 

 日本に戻るためだ。覚悟を決めろ。

 

ーーー

【閑話 エルフの里に向かおうとする魔法使いとエルフの里の噂】

 

 辺境都市エルフィンランドはエルフの里の直近にある都市だ。

 そこにはダンジョンが近くにあり、そこから得られる産出品で、産業が成り立っている。

 また、エルフの里が近くにあるということで、よからぬことを企てるものも少なくない。

 ある日、魔法使いの男が、短期間で能力を向上することを夢見て、エルフの里で魔力草を分けてもらうと思った。そのため、エルフの里に向かうための方法を聞き回っていた。

 

冒険者の酒場 マスター

「エルフの里か。

 やめとけ。

 MP上げたいだけなら、死ぬ気で魔法使い続けた方がいい。魔力草なんて食ったら頭がいかれちまうぞ。確かに、あれで無理矢理あげれば、短期間で魔法使い二人分くらいの最大MPになれるが……

 まあどうしても、行きたいなら、うちじゃなくて別のところにいきな。

 別の意味くらいわかるだろ。

 合法がウチだ」

 

盗賊の館 氏名語らず

「うちは手を引いたんだ。

 1人で行きな。

 あの森はエルフのテリトリーだ。

 あいつらはどこに目をつけているかわからないが、確かに見られているんだ。肌がひりつく感じ、この稼業をしていたらわかる。

 それにな、エルフの森には『亡霊』が出る。

 亡き者かどうかは誰にもわからない。

 亡霊に捕まるとな、悪夢を見続ける。

 2度とエルフの森に入らないことを約束すれば、解放してくれる。

 最初は幻術の類だと思ったんだが、お前さんも魔法使いなら知っていると思うが、一晩幻術を使えるだなんて、あり得ない。MPが尽きる。

 人外の何かだ。何人か悪夢にやられてこの稼業から足を洗っている。

 エルフなら一思いに殺されていただろうが、あれは、それすら生ぬるい。俺でさえこのザマだ。思い出す度に鳥肌が立って、腕が震えちまう。

 情報料?

 いいや、いらん。生きて帰れたら土産話を教えてくれたらいい」

 

 魔法使いの男は結局、エルフの里に行くことは諦めた。

 エルフの里への道は隠されていて、知る者以外は入ることはほぼ不可能。

 また、命の保障はない。

 曰く、エルフに捕まれば殺される。曰く、亡霊に捕まれば心を殺される。

 そういえば、亡霊が見られるようになったのはいつなのだろうか。いや、きっと、最初からだろうと思い、魔法使いの男はエルフィンランドから離れて行った。

 

【閑話 終了】

 

―――

 

 私は冒険者を見つけた後、あらかじめ冒険者が通るだろう地点に戻り、魔法で穴を掘り、幻術でそれを気が付かないようにさせた特殊な落とし穴に改造をして、待っていた。

 冒険者たちは私の方へ近づいていき、そして落とし穴へ次々と落ちた。すかさず、私は新たな幻術を飛ばした。

 

 私は、やはり、甘いと言われるかもしれないが、人間を殺すことを決断出来なかった。

 どんな理由があって彼らがエルフの里に来るのか、聞かなければわからないが、つまるところ生活のためだ。

 私も生きるために、エルフの里の長に従って彼らと対峙しに来たのだ。

 正義もくそもない。私の正義とあちらの正義のぶつかり合いなだけだ。

 

 では、私ができる限り穏便な方法で彼らを追い返す場合はどうしたらいいのだろうか。

 彼らをエルフの里に近づけないために、二度とここに来させないために、心底恐怖を心に刻み込まなければいけない、そう考えに至った。

 文明の進化をおろそかにして魔法で楽してきた世界の人々が、科学を発展させているとは思えない。

 つまり、テレビだとかの娯楽なんてないだろう。

 そんな現地人に、日本のホラー界が誇る技術を脳内VRやARで表現すれば、多分気が狂う。

 ジャパニーズホラーは世界をわかせたのだ。全米が泣いたのだ。未来に生きている日本人が純粋な気持ちで他人を怖がらせようと考え続けた、純粋にいかれた技術だ。

 私は、彼らのすぐそばに、小学生低学年くらいの男の子で白ブリーフ一枚着用、全身白塗りで、口は赤く塗った少年を作り出した。有名なジャパニーズホラーのとしお君だ。

 落ちた穴の側に白塗りの少年を作り出し、体育座りさせて、膝の上で手の指をずっと動かす。彼らが気が付いて声をかけた瞬間、口から吐血させた。

 

 森の中で悲鳴が響き渡った。なんか別な方からも悲鳴が聞こえたような……。まあ、そんなことはどうでもいい。

 まだまだ夏の悪夢はこれからだ。

 

―――

 

【エルフの里 長 エリン】

 

 昨日、あのスズキという人間にチャンスを与えようとしたわけなんだが、何かいろいろと斜め上の展開になってしまった。

 

 人間であるスズキの立場はエルフの里では非常によろしくない。

 そんな中、賊が人さらいを企て、さらに魔力草を盗みにエルフの里に向かって来ていた。人さらいは当然言語両断だ。まあ、魔力草は雑草みたいな扱いをしているけれど、人の手に渡していいものではない。スズキみたいに、世界を渡る魔法を覚えて元の世界に帰りたい、という純粋な気持ちではない。金儲けや身の丈に合わない能力を得て暴れ回ろうとする者ばかりだ。

 

 このまま、人間のならず者をただエルフの者たちだけで捕まえた場合、スズキがならず者を手引きしたという有らぬ憶測やうわさがエルフの里に飛び交うことだろう。

 それならば、ならず者を衛兵たちとスズキが共同で捕まえれば、スズキの風当たりは弱まるだろう。

 スズキにあそこまで言えば、自分から衛兵に相談してくれると思ったのだが、一人で撃退に向かってしまった。

 スズキ一人では荷が重いだろう。それでも、スズキの最大MPは、毎日毎食コツコツとくそ不味い魔力草を食べたせいで1日ぶっ通しで幻術を使い込んでも耐え切れるくらいの高さになっていた。

 最大MPが高くなっても、本来の魔法の使い方や、魔法に対する力があまり備わっていないから、私たちの脅威にはならない。でも、十分その幻術を使えば、例えスズキ一人でも数人の人間くらい仲間割れさせたりできるだろう。

 もし危険な場面になれば、すぐに衛兵の小隊が間に入り込めるように配置させ、その映像が見えるように森の精霊たちに映像の転送をさせていた。

 

 私は心が読めるせいで、逆にうまく自分の気持ちを説明が出来ない。私より年上の側近から何度も注意を受けることがある。逆にミステリアスな感じがするので、それも良かろうと言う側近もいて、ベストな立ち位置がわからない。

 今回の場合、私の説明が足りなかったから、スズキは一人で背負いこみ、自分なりにできる最大の成果を出そうとした。

 その結果、彼らを落とし穴にはめ、二度とエルフの里に来させないよう幻術で心を折っていった。

 撃退した方法も、身の毛もよだつ方法で、森の精霊たちが見せる映像ですら鳥肌が立った。

 こんなに暑い日なのに体が寒い。

 薄気味悪い長い黒髪の女が落とし穴のさらに下から這い出てきて迫るところなんて、もう見ていられなかった。

 側で映像の共有をしていた側近や衛兵長の悲鳴が響き渡り、私の部屋で何か大変なことがあったのではないか、と里の噂になった。

 このせいで、スズキが人間を追い返したという話題は上がってこなかった。

 スズキよ、本当にすまない。




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