私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない 作:劇団おこめ座
妻から長男の英智(ひでとも)の写真撮って来て、と依頼があった。
英智の野球をやっている勇姿を保管して欲しいらしい。
長男の英智は全寮制の高校に通っていて、私の単身赴任先と同じ県内、同じ市内である。
この子も私とは似ず、妻似のイケメンである。私の遺伝子はどこに行った。まあ、ブサメンの遺伝子なんてない方がいい。ちなみにそんな事を妻に言ったら、ガチギレされた。正座させられ、どんなに私の見た目が好きなのかしばらく論された。聞いている自分がとても恥ずかしく、愛されているというか何というか、生きていてすみませんという気持ちになった。
その場を見ていた娘の由紀は
「お母さんにそこまで言わせるだなんて……もう少しお母さんの気持ちを考えてあげてよ」
とつぶやいて、私を納豆菌がよく繁殖しそうな生温い視線で見ていた。本当にすまんね。
でもさ、仮に中年太りのすだれハゲでムダ毛が濃くて汗臭い、よく薄い本で人気ナンバーワン男優の種付おじさんのような容姿を私がしていたとして、妻がその容姿を酷く気に入っていたら、ちょっと引くよね。私なら純粋に引くね。べた褒めされるほど引くね。
英智は小学校から地元の少年野球団に入った。運動神経と洞察力がよく、小学2年生でプロ選手の動きをトレースしたような素振りをすると、その素振りがいいから、と当時のコーチから1年早く入団をした。
それからは中学、高校と野球を続けた。
最後の年の中体連の地区大会で勝ち上がったものの、最後の最後で優勝できず、グラウンドで涙を流していたのは、流石に胸に来るものがあった。
一番の原因は、相手も強かったけれど、元々少年野球団からピッチャーをやっていたセンスのある子が、中学でサッカー部に入ってしまったことだったそうだ。
彼のピッチングはすごかったな。小学生ながら本当に打たせてアウトを取るピッチャーで、相手が振りたいところのぎりぎりを攻めて、内野ゴロを量産させていた。
人材の流出はどこの職場等でも悔やまれるよね、ホント。
そういえば、エルフの里も一時期、里から脱出して人間達の住む世界を目にしたい、という者が増えて、何人かのエルフが外の世界へ旅立ったことがあった。
ブーム的な感じで、次は俺が、次は私が、なんて感じなことをみんなでガヤガヤ騒いでいた。
しかし、エルフという種族は性奴隷にされたり、薬の材料にされてしまう等の扱われ方があり、里の長は強く懸念し、衛兵長のハクラクが夕食時に私にお酒を飲みながらぼやいたことがあった。
あの日は、日中の焼けるような真夏日が嘘のように、心地よい涼しい夜風の中、鈴の音を奏でる虫の音が響く夜だった。
ハクラクが、酒だ、と持ってきたキンキンに冷えたブドウ酒よりも、口に合うかわからないが、とちょっと顔を赤くして渡されたハクラク特製料理の方が私はありがたかった。残念ながら、私たちはウホな関係ではない。ハクラクは自分の手料理を披露するのが少し恥ずかしいだけなのだ。
「スズキ殿はここよりも進んだ世界から来たと長から聞いた。そこで、あんたなら良い知恵があるんじゃないかと思って聞きたいんだが……。最近のエルフの里から旅立つ若者が急に増えてな」
手料理を皿に盛り付け、ぶどう酒には拳大の氷を魔法で生み出してコップに落とし、私の前に差し出した。
「なんというか、色々と外の世界を経験させること自体は悪いことではないですよ」
「でも、外は危険なんだよ」
ハクラクは料理を口に含み、ため息を吐いた。
「危険なのはわかっていますが……。危険を回避できるくらいの力があれば外を見る分には良いんじゃないですか? 例えば、私の世界では役人が優秀な商家や工房に何年か勤めるという仕組みがあってですね。なかなか役人側は仕事の仕組みや技術が古くても変えられないので、最新のものを見て役人側もどんどん改革してもらおうとする仕組みなんですよ。私はエルフの世界しか体験したことがないのでわかりませんが、人間や他の種族により良いものがあるならばそれをこちらに根付けさせてもいいんじゃないですか」
「ふむ。例えば貴殿から見て何かないのか、その、貴殿の世界であったもので、このエルフの里をもっとよくするものは」
「ご飯食べながらではいう話しではないのですが、トイレのロープなんですけど……」
「ロープを外して尻も拭かずパンツを履けと?」
ハクラクは、野蛮人のクソ人間が、糞だけに、とでも残念そうなことを言いそうな顔をしていた。
「いえ。そりゃ斜め下にヤバいっす。共用するのはまずいです。用便からはいろんな病が感染ります。私のいた世界では使い捨ての紙で拭いて捨てていました」
「紙なんて高価なものを?」
「私の世界は紙を沢山作る技術があったんです」
「すごい技術だな」
「私のいた世界には魔法がないですからね。その、紙で尻を拭く前にぬるま湯で尻を洗浄する機械があってですね」
「用便の度に尻を洗う? しかもぬるま湯で? そなたの世界はみな天上人みたいな生活をしているのか?」
「いや、ほとんどの労働者がそういう生活をしています。私はまだ出来ないですけど、冷水ならそれに近いことは魔法でもできます」
「勢いを間違えると尻が大変なことになりそうだな」
「エルフの子供が撃ち合って遊んでいる水鉄砲を意識していただければ」
「ああ、あれか」
「あれを使って洗浄した後、尻を乾燥魔法で軽く乾かせば、魔法でも快適で衛生的な生活になります」
「隊長、食事中にそういう話題は……」
呆れた顔をしながら馬小屋の窓からエメラダが顔を出した。
ちなみに窓は壊れて外されているので、隙間風どころか突風がダイレクトアタックする斬新なデザインで匠もびっくりだ。
「なんだ、エメラダ。こんな時間に」
「隊長のご飯が食べられる気がしたので、というのは冗談で、そのスズキに質問があって」
そう言って、エメラダは馬小屋の入り口から入ってきた。
こんな時間に私に用件か。
「ほら、今流行っているでしょ。エルフの里から外に出るという話。人間の世界ってどんなところかなとスズキに聞こうかと」
そういえば見た目通りエメラダも若者で、実年齢も私より少し歳下であった。
「エメラダもその口か……まさかお前も里から出ようと……は……長が戸惑うぞ」
ハクラクがエメラダを、そして次に私を切長の目でギロリと睨んだ。
慌てて、エメラダは手を振って違うなどと説明していたが、顔が赤くなっていたし、こりゃあ嘘だなと私は思った。
ここで私は危険察知のスキルが、身の危険を知らせたようだった。
ハクラクはそのきつい視線で、私にエメラダを上手く説得しろと言っている、できなければエルフの里に対する策略とみなして殺す、と言っているに違いない。
この数ヶ月生活をして、エルフの里の住人は性欲が少ない。性生活の乱れまくった数多くの文化や二次元を愛する人々や、男と男が絡む話にジュンとする方々がいらっしゃる日本から来た身分からすると、まだまだ発展途上の性文化の世界だ。
それに、人間に性奴隷とされたエルフの話に強い嫌悪感を示していた。それならば性欲の強い人間の話をすればドン引きして、里から降りようとする気にならなくなるに違いない。
「エメラダさん、ここだけの話だがな、人間にはな特殊なやばい奴らがいる」
「またまたー、そんなこと言って私を脅かそうとしているんでしょ」
私はグラスの氷が溶け始めたブドウ酒を口に含み、飲み込んだ。
「そいつらの名前は、種付おじさんと時間停止おじさんだ」
アルコールで饒舌(じょうぜつ)になった私は、ロリコンで避妊具等使わない恐ろしい種付おじさんと、高難易度の時を止める魔法を自分の性欲を満たすためだけに使うキ◯ガイの説明を事細かく説明した。
すると、エメラダは案の定ドン引きしていた。ちょっと露出していた肌を、私の目から隠そうとした。あの、私性犯罪者じゃないんですけど。ちなみに、ハクラクは唇を紫色にして身震いしていた。ハクラク、お前が私にやれと言ったんだろ! むしろ、なんかトラウマがあったりするのか。それならマジすまん。というか、衛生兵!衛生兵ー!
数日後、エルフの里から出ようとする若者の数が著しく減った。
これは、私が話した種付おじさんと時間停止おじさんの話題は、娯楽の少なく、狭いコミュニティの中で素早く知れ渡ることとなったからだ。
心配していたエルフの里の長から金一封をもらってもいいと思うが、長からは、この牧草ロール、燃やすととても高い炎をあげて楽しいんですよね、という視線を私に向け、
「必要以上に私たちの子供たちを脅さないであげてください」
とお言葉を頂戴した。
なんか、やっちまったんですかね!
やっちまったんですね!
私は、きっと長く住めと言われそうな、ホテル馬小屋の修繕を進めることとした。
それとトイレのうんこした後の共用ロープは外された。
たまにトイレから男、女の声で、
「アッーー!」
「アメージーング!」
等と叫ぶ声がしばらく聞こえた。神じゃなくTOTOに感謝しろ。
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