私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない   作:劇団おこめ座

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いつも読んでいただきありがとうございます。
エアコンパワー等のおかげで少し多く書けましたので更新します。


美少女おっさんの護るべきもの 4 終わり

 駅からスーパーに立ち寄り、晩御飯の材料を買う。

 娘が来たのに、一人の時に毎度作るような、豚肉ともやしと玉ねぎの炒め物なんて、ちょっと格好悪くて出せない。初日は塩味、翌日は醤油を足して味を変えてもやしを全て食べ、次に食べる時はカレー粉をまぶして食べるとか流石に見せたくないし、知られたくない。

 そういうわけで刺身の具を買って帰る。娘はしめ鯖とマグロが好きなのだから、それを選び、後は適当に安い生魚を選ぶ。ああ、でも、私の好物のブリがあるからそれは買おう。

 そんな感じに買い物をして、娘と家へ帰る。

 薄暗くなってきた市道に2人の足音と通り過ぎる車の低速のエンジン音が塀を伝って耳に入る。

 人通りが少ないと、妙に不安になる。取り残されたような、存在だけを切り取られたような、そんな気持ちになる。

 前から来た人影を見ると、人の姿に安心してしまう。

 すると、娘が私の服の端っこをつかんで引っ張った。

 

「あいつ、フードコートで絡んできた……」

 

 そう言われて前から来た人影をよく見ると、昼食時に邪魔をした金髪のチャラ男君の中でも凶暴な感じの子ではないか。

 

「おい、待てよ」

 

 どこかの男性アイドルのようにキザったらしくセリフを吐く。鼻につく感じがする。

 変なのに目をつけられたなぁ、と娘の方に目を向ける。娘は娘でこっち見てないでなんかビシッと大人な対応してよという視線を私に投げかける。ビシッとやっても15歳の子供が何ませたことやってんだよと思われるだけだぞ。

 

「昼間はよくもまあ恥かかせてくれたな。俺がよ、ここらでは、超有名なの知らないの?」

 

 なんだよそれ。地元じゃ悪そうなヤツは大体友達、みたいな感じのノリのもっと頭が悪い感じのやつ。

 

「付いてきたんですか? 気持ち悪いです。通報しますよ」

 

 娘が汚物を見るような目をチャラ男君を見ながら、携帯電話を取り出した。

 脅しのつもりか、と鼻でチャラ男が笑っているが、娘はマジだぞ。娘は今のピンクヘッド美少女の私が父親だと理解してくれず、説明している間に、救急車を呼ぶような話をしながら警察に通報しようとしたんだぞ。

 でも、個人的には警察止めてくれないかな。いい思い出がない。

 

「はあ? 通報するだ?」

 

「い、痛い、やめて!」

 

 正面のチャラ男に気がとられていたら、脇道からチャラ男の仲間4、5人が出てきて、娘の携帯電話をつかむ手を、強くねじり上げた。

 

「おお、こりゃ可愛いじゃん。早く車で連れ込もうぜ」

 

「だろ? これはちょっと我慢しても連れて行きたくなるだろ」

 

 鼻息を荒くするチャラ男の仲間たち。その中にはまともそうだと思っていたチャラ男君もいた。

 チャラ男の仲間が私の髪を撫でまわして、

 

「びっくりしちゃって声も出せない? 落ち着けるところで気持ちいいことしよう」

 

と耳元で呟いた。うわあ、端的に言って気持ち悪い。同じ男から言われていると思うと余計に気持ち悪い。それよりもさ、薄汚い手を娘から離せよ。

 

『落ち着けるところってどこ?』

 

 私の髪をなでていた男が、辺りを見回した。

 

「あれ、今、君が言った?」

 

 私の髪をなでていたチャラ男君は私の顔をのぞき込むと、息を飲み手を離した。

 彼の瞳には、目がえぐられて中身が空っぽになり、両目のあった空洞から血を流し続ける腐りかけの女が映っていた。

 

「おい、どうした」

 

 私の髪をなでていたチャラ男君を心配して声をかけた仲間が、何かに気づいて後ろを振り向いて、小さな悲鳴をあげた。

 目をえぐられた真っ白な小さい子供、目をえぐられた日に焼けた薄着の若い女性、真っ黒に焦げて目が無くなった老人だったモノのような塊、目が無くなった仕事を終えた血だらけのスーツ姿のサラリーマンが口から内臓を吐き出し、買い物帰りのような主婦が、やはり彼女も目がなく、手に提げていたエコバックから血の滴った視神経が付いた眼球を取り出して自分の口に放り込んでは咀嚼して近づき、周囲を取り囲んだ。

 

「な、なんなんだよ! お前ら、なんだよぉ!」

 

 威勢のいい金髪のチャラ男君が声を荒げる。しかし彼らは歩みを止めない。彼らの正面に立って顔をのぞき込む。

 

『わからないのか? 教えてやるから代わりに……』

 

 彼らは手を顔に伸ばした。

 

『眼ヲヨコセ』

 

 

 

 私の部屋の302号室に戻ってきた。

 古いアパートからなかなか取れないヤニ臭さと、元の私ではない今の体の少し甘い匂いを感じた。

 私は部屋に戻ると、すぐに買って来たものを冷蔵庫の中に入れ始め、娘はゲラゲラと笑いながらソファーに飛び込むように座った。

 見た目は艶のある黒い髪に紫のインナーカラーで染め、薄っすらと乗せた化粧が、お母さん譲りの顔に合わさって、とっても美少女なのに、百年の恋も冷めるような態度がいただけない。折角見た目はエルフで言えばエメラダ並みの美少女なのに、勿体ない。

 全国のお父さんは娘の家での態度に辟易しているのだよ。でも、妻も若いころはこんなふうだったと思うと、まあ自分の子供なので許せる。

 まあ、何が言いたいかというと、若い男子たちよ、学校で見える一部分の姿に騙されるなよ。

 

「あいつらのビビり方って本当に面白かったね。これで懲りるといいね」

 

「そうだね」

 

 娘の言葉に頷いたが、私は嘘を言った。

 あの幻術は数か月間見せ続けるように細工をしたものだ。

 多分、まともではいられないだろう。

 彼らは自殺すると思う。永遠に化け物に追いかけられて、頭がおかしくなって、普通の生活はできなくなり、耐えられなくなる。

 彼らとはほんの一瞬話しただけのようなものだったのだが、きっと彼らチャラ男君らによって私たちの他にも酷いことをされた人が大勢いるんだろうな、と確信した。

 確認することはできないが、あの言いっぷりからすると、それが真実なんだろうと思う。

 私だけなら、仮にいつ襲われても魔法でなんとでもなるが、娘は無理だろう。

 ずっとチャラ男君たちに追いかけられていたのだから、当然娘の顔は覚えられているはずだ。憂いはしっかり断たなければならない。

 中途半端な幻術の脅しによる終わり方をすれば、娘はいつか酷い目にあうこととなる。

 そんなわけにはいかない。お父さんとしてはそんなことは絶対に許さない。

 家族に降りかかる火の粉は私が払いのける、それがお父さんの護るべき矜持(きょうじ=プライド)だ。

 

「あれ、私でもできるの?」

 

 短冊型に切られたマグロを切ろうとまな板の上に置こうとしている時、由紀がそう言った。

『あれ』とは何だと思って由紀の方を向くと、両手を前にして、デロデロデロデローと効果音を口に出していた。

 

「あの幻術のことかい?」

 

「うんうん」

 

 由紀は大きく開かれた目がキラキラ輝いていた。

 

「そんなに簡単に使えない。幻術はお父さんに向いていたから使えるだけだし、由紀が何に向いているかはわからない。」

 

 由紀はつまらなそうに、えー、と声を出す。

 

「そういえば由紀、さっき掴まれた腕、まだ痛いか?」

 

「まだちょっと痛いけど、病院に行くとか、薬を塗らなきゃいけないとか、そういう感じじゃないよ」

 

 それならば、と生活魔法レベルのもので治癒魔法の真似事ができると思い出した。

 

「あっちの世界だったら誰でも使えた生活魔法で腕の治療をやってみるかい」

 

「ええ! そんなことできるの!?」

 

「できるかどうかはわからないけど、教えてみるからやってみなよ」

 

 私はあちらの世界の発音で『癒しよ』と唱えて見せる。

 白く淡い光が右手の掌に現れた。

 

「成功するとこういう光が出る。それを患部に当ててやればいい」

 

「うわ、すごぉ! でも、ちょ、なに、■◇□◆〇◇って」

 

「生活魔法の治癒を使う時の言葉だよ。発音をすると成功しやすくなる」

 

「魔法ってイメージじゃないの!?」

 

「イメージでなんでも魔法を使えたら、世界中の全ての人が魔法を使えるよ。至る所で中2病の子供たちが核ミサイルみたいな魔法を飛ばしまくりだ。基本は発音、らしいよ」

 

 まあ、得意な魔法だったら無詠唱もできなくもない。私は幻術と一部の生活魔法ぐらいしかできない。

 

「世の中上手くいかないね。いやぁ、流石にその発音は無理だ……癒しよ!」

 

「そんな簡単に日本語では発動しないし、そもそもこっちの世界の人間はMPがないんじゃないかな」

 

 娘の右手の掌に白い淡い光が浮かび上がっていた。

 

「え? 私、出来たんじゃね?」

 

 私はあんぐりと口を開けていたと思う。そんな馬鹿な、と。

 

「とりあえず、痛いところに……右手首が痛いのにどうやれば……白い光が視線で動いてくれる! これ凄いね! あぁー! 痛み引いてく!」

 

『癒しよ』の効果範囲の移動なんて、私できた記憶ないのですが。何この子。

 私のあのエルフの里での苦行はいったい何だったのだろうか。

 いや、そもそも何故さっきヤカラのみ対象に使った幻術を娘は見れた?

 目に魔力を込めて見なければ見れないはずだ。

 センスの問題なのか?

 

 娘のキャッキャと騒ぐ声で大きめの壁ドン1回されて、すかさず娘は大声で、すみませーんと謝った。

 男の声でもにょもにょと、わ、わかればいいんだよ、みたいな弱々しい声が聞こえてきた。

 まさか、そんなに元気な声で謝られると思っていなかったのだろう。私の時と明らかに態度違う。

 私は静かに料理の支度に戻りながら、世の中の不条理に涙した。




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