私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない   作:劇団おこめ座

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美少女おっさんと長男と地味子 3 エルフの里のおもひでえ

 エルフの里で、収穫祭の後、古くなった葡萄酒を大量に蔵から出して、みんな過度に酔っぱらっていた。みんな、前後不覚になっているけど上機嫌で、私みたいな人間にもフランクに話しかけてきた。エルフって保守的なんだけど、お酒を飲み過ぎると笑い上戸になるのかな。いつも酔っぱらっていればいいのに。

 

 収穫祭の後、大きな切り株をステージにして一発芸をエルフがやっていた。

 正直何が面白いのかはわからなかった。

 ただし、無礼講、というやつなのか、長の悪口というか冗談はこの場でやる分ではお咎めがないそうだ。衛兵長のハクラクがそう教えてくれたのだから、本当に問題はないのだろう。それに、長は気を使って収穫祭の後は館に籠るらしく、もう、マジで言いたい放題だった。

 もちろん、あからさまな批判をしているものはいない。長を嫌っているエルフはいないみたい、というものなのか、それともそんな批判をすればこっそり消されるかも、と思っているのかもしれない。

 でも、ベランベランに酔っぱらって、お前らどこの世界の冒険者だよ、って言いたくなるくらいの酔っぱらい方をしているのだ。多分本当に長を嫌っているエルフはいないのだろう。

 ということは、私も実は嫌われていなく、とんでもなくみんなツンツンしまくっているだけではと思ったが、お酒を飲んだ時だけ陽気になるだけなのだ。

 やはり、いつの日か魔法を極めた暁には、里の井戸の水を高濃度アルコールに変換してやろうと思った。

 

 ステージとなる大きな切り株の上に立っていたのは、ジコンという男のエルフで、長身長髪イケメンで、エルフの中では珍しい銀色の髪をなびかせていた。

 そのジコンというエルフは、長の胸に吸い付きたい、ということを熱く語り、むしろ長の右胸になりたいと言っていた変態さんだった。

 そんなジコンさんは討伐隊で隊長をしている。こんなの隊長とかヤベェわ。魔物との戦いで最前線で戦っている私を叱咤激励してくれた。マジでやばい時に何度命を助けてもらったかわからない。

 

 だめだ、ジコンさんのために、ここに病院を建てよう、と隣に座ってゲラゲラと笑っていた衛兵のエメラダに言ったが、笑いすぎていたのとお酒が入りすぎていて聞き取られなかったようだ。

 エメラダはこの時はまだ、私を避けるようなことはしていなかったし、出会った時と大体同じような距離感だったと思う。

 

 ジコンさんは私を指さして、くい、くいっと指を曲げてステージに上がるよう声をかけた。

 

「へい、そこのニンゲン、いつまで長のご機嫌取りしてんだい、カモンッ!」

 

「スズキ、無理していかなくていい」

 

 エメラダはそう言って、私の服の袖をひっぱって止めたが、こういうノリは滑ってもいいから乗らないと、後々里の雰囲気に響く気がした。この里では人間の価値はあって無いものだ。少しでも自分が生きやすくなるために何か手を打つのは大事なことだ。

 私はエメラダに、大丈夫だ、と呟き手を離させ、ステージに向かった。

 

「オウ、マジで来たのか! 長の金魚の糞のニンゲンに長のネタが出来るとは思えねえよな! なあみんな!」

 

 外野が、そうだそうだ、だとか、やれやれ!、ピューと口笛を鳴らしたりしていた。

 切り株の上から降りるようにジコンさんに話しかけ、私はそこに上る。登るとき私の背中をジコンさんが叩いてきて、小声で、

 

「でかいのかましてこい」

 

と言ってきた。煽るフリをしてここに登らせてエルフの輪に無理矢理いれようと……こんなところまで気を使ってくれるのか。いや、お酒が入って陽気になっているだけのエルフのおっさんだ、きっと。

 

「人間、鈴木宏! 長の物真似をします!」

 

 私は、収穫祭の会場の範囲内のエルフに幻術をかけた。

 そして、私はエルフの長と寸分変わらぬ格好でステージに現れた。

 

 外野の歓声が聞こえてきた。しかし、ステージの側にいたジコンさんは失望したようで、深くため息を吐いた。

 

「おいおい、まさか見た目だけ似せて物真似なんて言わねえよな。俺がてめえが化けた長の胸、ただの見かけ騙しならただじゃおかねえ」

 

 ジコンは顔はクソ真面目な顔をしているが、手をいやらしくグッパーグッパーと握ったり開いたりしていた。

 それ、ただおっぱい揉みたい汚らしいおっさんじゃねえか。さっきいい人かもと思ったが、やっぱり泥酔した討伐隊隊長なのだ。切り株に再度上って来たジコンさんは私の目と鼻の先に立つと、急に酔いがさめたように目を見開いた。

 

「まさか、幻術で長の匂いまで再現しているのか!? まさか!本人!」

 

 ジコンさんの言うとおり、長と近くで話した時の匂いを再現し、体の周囲に触れたならば触覚さえも幻覚により脳が誤作動する。

 ジコンさんの手を取り、長の豊満な胸があるあたりに手を当てさせた。

   

「なんてこった。胸まで……おさああああ! すつれいしやしたああああ!」

 

 ジコンさんは異世界も共通の最高の謝罪の意を示すジャンピング土下座をした。酔っ払っていても、エルフの長の胸を衆人環視の中で揉んだらマジでやばいんだな。現代日本なら捕まるけど。

 幻術を解除すると、ジコンさんはまた目を見開いた。

 

「まさか、ニンゲン、長を視覚、嗅覚、触覚まで幻術で表現するなんて……ボラヴォー! 胸の触り心地といい、俺は長マニアとして、これだけは言える、このニンゲンは俺と同じ長マニアだああああああああ!」

 

 周囲からの拍手喝さいで里が沸き上がった。

 私はさらに幻術を使い、エルフの長に化け、声真似スキルで長の声真似をする。 

 

「まだまだ、これからです。エルフの里の長エリンの物真似で、長が絶対に言わなそうなこと!

『みんなー、私の酒が飲めねえのか! みんな、ジョッキ持てぇー! 酒飲めええ!』」

 

 会場にいたエルフ達やエメラダは鼻水やら涙を出しながら笑い出し、ジョッキを掲げて飲み干した。

 

「次行くぞ!『友達いないので、どなたか友達になってくれませんか』」

 

 腹を抱えながらエメラダ達は笑い転げていた。

 さらに下ネタを織り交ぜた一発芸を終えた後、色んなエルフ達から酒を注がれた。

 酔いがどんどん回ってくるが、これから、このエルフの里で私はうまくいくと思った。でも、気が付けばよかったんだ。蒼白な顔したハクラクの隣に、フードを被ったエルフが一人だけいて、プルプル震えていたことに。

 

 酔いがさめた後、私は牢屋にいた。

 

―――

 

 あれは酒の勢いもあったけれどやりすぎた。もう二度と酒や雰囲気に飲まれてはいけないと心に誓ったのだ。40代で酒で失敗して心に誓う、とか遅すぎると思うけどね。

 

 暗幕をめくって入ったので、会場内は暗いものだろうと思っていたら、ステージ周辺が明るく照明で照らされており、会場の端っこも薄く明かりがあった。

 会場には客は200人近く来ていた。思ったより人が多い。なんかすごい陽キャのライブがあるのかな。

 ステージではマイクを持った男子高校生の一人が最近のアニメのオープニングに使われている有名なポップシンガーの曲を歌っていて、ステージの端っこに設置された台に息子の取り合いをしていた地味な美少女の方が機械の操作をしていた。何の機械かな、としばらく見つめていると、その機械がカラオケの機材であることが分かった。

 男子高校生が歌い終わると会場で拍手が起こり、地味な子がマイクを手に取り

 

「3年A組の須藤君でした! 盛大な拍手と盛り上がりありがとうございます! 次の方は2年D組の井上君! 壇上にどうぞ!」

 

 ステージの横の垂れ幕を見ると、生徒会『全クラス&一般来場者 のど自慢カラオケ大会』と書かれていた。良かった悲しい黒歴史生成イベントではなかった。地味な子、生徒会だったんだ。

 

「歌っていただける曲は……これですね。あぁ、私のお父さんもたまに聞いている曲ですね」

 

 私の世代ならみんな知っているアーティストだ。キャンキャンわめく犬の名前のアーティスト。インディーズのころは、そういう系、の曲が多かったからそういう名前だったらしいが、メジャーデビュー後の曲はそのようなイメージの曲はほとんどない。明るくてそのまま時が流れていくように感じるのに、朝露が流れて消え去るような切ない感じがする。

 地味な子が曲の説明をし終えると、隣に立った背の高い井上君が困っていた。

 

「この曲違うっす」

 

「え、マジっ!? どうしよう 止めないと…… あ! 会場で歌える方いませんか!」

 

 慌てた地味な子が、いいことを思いついたように咄嗟に声を出した。

 そんなの恥ずかしくて、急に歌うとかできるわけないでしょ、お酒でも入っていないと、と思っていると私の意識とは関係なく、私の右手が上がった。娘が左手で私の右手をつかんであげていた。

  

「お父さん、その曲よく家族でカラオケに行ったら、いつも歌っていたでしょ」

 

 はぁ、いや、だけどさ、他人の前で歌うのは違うよね。

 手を上げたことにステージの地味な子も気が付いてこちらを指さした。周囲も私を興味深そうに見始めた。終わった。

 

「あっ、2年C組の鈴木君の妹さん! ステージにどうぞ!」

 

「違います! おと……お友達の方が歌います! 得意なんです!」

 

「では、2年C組の鈴木君の妹さんのお友達が歌います! ステージに来てください!」

 

 歌わないという選択肢がもうない、という状況に立たされて、苦笑いしながらステージに立ち、マイクを受け取る。会場の目も私の歌唱力に期待しているというよりも、無理やり歌わされてしまった私に対する同情的で優しい視線だった。

 イントロが終わって最初のメロディーが始まっており、歌いやすそうなところから私は声を出し始めた。

 

―――

 

 2年C組 生徒会 眞田舞

 

 鈴木君と付き合いたいがなかなか接近できない。どうやら女性が嫌いらしい。しかし、同性愛者ではない。

 信頼を勝ち取りながら近づき、数少ない女性で話せる立場の人になり、もう少しで彼女の座を得られたらいいなと思っています。

 理由はイケメン! というのもあるけれど、めちゃくちゃ優しいんです。味方だと思っている人たちに特に優しい。女の子には冷たいのだけどね。噂だと女に彼氏が奪われたとか言われているけれど。でも、真実は、野球チームのエースがサッカー部のマネージャーに色仕掛けで落とされて、サッカー部に入部したことによるもので、女の子が嫌いなわけではありません。

 妹さんにも優しいところ、私は知っています。

 

 そういうわけで、冷たくされないポジションの女の子の立場を勝ち取り、女の子として興味を持たれるように立ち回っています。でも、鈴木君はお坊さんにでもなるつもりなのか、煩悩という煩悩を断ち切って、野球もそうだけど勉強も頑張っていて、もう、どうやったらこっちを振り向いてくれるのか困っています。

 

 押し引きすらないフラットな鈴木君と学校祭のクラスの出し物の仕事をしながら、周りの突如カップリングした男女にイラつきを感じながら、鈴木君攻略のために頑張りました。

 今年も結果は全然ダメそう。でも、時々私を見て微笑んでくれる時があって、そんな時は顔には出さないけれど、もう心はふわっふわでやばいよね。なんかふわふわになれるおくすりをキメているんじゃないかと思います。おくすりは使ったことないし、買い方も知らないのでわからないけど。

 

 そんな失意の中、生徒会の学校祭の出し物の仕事の『カラオケ大会』の司会兼機械操作のお時間になり、イケメン鈴木君から泣く泣く離れて生徒会の仕事に服します。

 そうそう、イケメン鈴木君もいい匂いがするんだけど、妹さんも同じような素敵な良い匂いするんですよね。きっと、同じ柔軟仕上げ剤使っているのかな。あれ、でも鈴木君は寮で一人暮らしだったはず。きっと、お母さんが用意してくれている洗剤セットみたいのがあって、それを使っているのかな。

 今度、洗剤とか柔軟仕上げ剤教えてもらって、部屋に鈴木君臭に近い服をセットして幸せ気分になりたい。

 

 カラオケ大会の司会をしながらカラオケの機械を操作していると、コード番号を間違えて、犬の名前のアーティストの有名な曲で、私のお父さんが車でCDをかけている曲でした。

 この曲を知っている人は多分、私のお父さんの年くらいの人、30代から40代の人かな。学校の先生が、うんうんと頷いてイントロ部分で懐かしんでいた。失敗は成功の元ということで盛り上がりのために学校の先生に、むちゃぶりして歌ってもらうかな、もしかしたら会場にいる保護者もきっと歌える人いるんじゃないかな。男性のアーティストにしては標準キーが高いから低くしてあげればきっと大丈夫。

 

「会場で歌える方いませんか!」

 

 そう私は声を上げると、手を上げた人が会場にいた。

 黒色のロングヘアに紫色のインナーカラーのある、大きなつり目が猫みたいで可愛い鈴木君の妹さんの由紀さんだ。

 よく見ると、隣の女の子と一緒に、というか隣の子の手首をつかんで上げていた。

 隣の女の子は、ピンク色のボブヘアの女の子。鈴木さんの妹さんに負けない美少女だ。でも、きっと、子供が二人くらいいるロリババアのはずだ。前に、自分の子供がどうこうと言っていたのだ。

 流石にこんな特徴的な女の子の変なセリフは簡単に忘れない。

 そのピンク色の髪のロリババアが歌う流れになり、私はマイクを渡した。

 

 歌は、さすがに鈴木君の妹さんが推薦するほど上手かった。

 むしろ、上手すぎる。涙が止まらない。

 なんだろう、経験したことない青春の数々が頭の中を駆け巡って、胸が締め付けるように苦しくなり、目頭が熱くなる。

 例えば、鍵が締められていて入れない校舎の屋上で友達とキャンプしたり、まだ行っていない修学旅行でネズミのシマランドで偶然一緒に回るはずの班員とはぐれた私と鈴木君で巡って、最後にパレードを一緒に見たり、私体育系の部活したことないのに苦しい練習の末に大会で怪我をしながら優勝したり、私はなぜか密林の中自動小銃を持って歩兵小隊の一員として走り回り、急ごしらえの塹壕の中で敵の迫撃砲の雨に震え、時々仲間の頭や腕が吹き飛び、全てに絶望した時に急に全ての音がなくなって不思議に思って空を見上げると空から白い羽根が降り注ぎ、敵も味方も銃を下ろした、といった謎の記憶が現れて、震えて泣くほど感動してしまう。

 会場の人もみんな、涙を垂れ流し、体育館を見上げて鼻を抑えたりしていた。

 あまりの歌の上手さに、みんな放心していて、携帯電話で録画している者はみんな地面に携帯電話を落としていた。 

 歌声が止まると拍手が止まらず、アンコールされ続けていた。そんな会場の人に若干ひいているように見える引きつった笑い方をしたピンク髪の女の子に助け舟を出すため、この後予定ありましたよね?、と尋ねると頷いたので、ステージから去ってもらい、本来流すはずだった音源のコードを打ち込んだ。

 

 本当に歌が上手い。ボイストレーニングをきっちりしている人を超えているプロの領域だ。そんな人は私たちの若い世代にあまりいない。

 それに、感情移入させる歌い方、そのアーティストをとことん知っている人じゃないと無理。マニアなのか。

 違う。こいつはきっと正真正銘のロリババアで齢50歳OVERくらいなんだよ。

 アーティストはその時の世代の流行りでファンだっただけで、歌唱力は長年鍛えた物。そうじゃなきゃあ、あの魂がこもっていて包容力があって滑舌のしっかりした歌声は説明つかない。そして、あの感動……。悔しいほどの感動。

 

 鈴木君を狙うロリババア、あの容姿に歌声……あまりにも強大な敵だ。

 鈴木君と鈴木君の妹さんをどんな手を使ってでも守らなければ。




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ジコンについていくつか書き直しました
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