私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない 作:劇団おこめ座
エメラダ
日本に来た時、年号は昭和から平成に変わる時だった。
この時は、まだまだ色んな個人情報の管理が杜撰で、しかもアナログだったから、私は様々な人間を単純な幻術で操作し、無事に正規の戸籍を作り上げた。
どこにでもいそうな、
山田
と、この世界での名前を作った。
そして、私のエルフという人種の容姿は目立つので、尖った耳を隠し、黒色の髪や焦茶色の瞳に誤認させる幻覚を作り上げて、生活した。
生活に慣れるまで、苦労はした。
時々、危ない目にあい、思わず魔弾を使う場面もあったが、仮にそれを脅しとして使うにしても、相手は魔法なんてものの存在なんて否定された世界なので、相手を殺傷する以外、脅しとして使う場合には使いにくかった。
仕方ないので、エアガンを取り出して、それを照準にして魔弾を放つように使っている。相手には音よりも、穴が開いた事実の方が心底、心に響くみたいですくみ上がって逃げ出した。
でも、脅したりするなら幻術の方がいいよなあ、と思うこともあったが、どうしても風穴を頭に開けなきゃいけない頭の悪いやつを相手にする時はもっぱらこれだ。
もちろん、そんな場面に巡り合うことはあまりないが、こちらの世界で言う、備えあれば憂いなし、というものだ。
しかし、慣れてくると、こちらの世界も住めば都になる。
明かりの消えない街やラジオにテレビ、冷蔵庫にエアコン、パソコン、車に電車、飛行機、あとウォシュレットトイレ。
エルフの里とは全く違う世界だったが、慣れてくると当然のように扱える。最初見た時は魔法によるものかと思って驚いていた。
あ、あと、時間停止おじさんはいなかった。完全なフィクションだった。スズキ、あの世で見つけたらタダでは済まさないぞ。
しかし、異世界生活を満喫することが目的ではない。
スズキの親族に会うことだ。
母からもらったテレポート魔法の座標が書かれた紙を開くと、
平成●●年4月 ●●大学
と端に書かれていた。
この漢字はこちらの言葉を学ばなければ、ただの模様にしか見えなかった。
母も恐らくスズキの記憶の中の文字を見て、何かスズキの親族と出会うためのヒントとなるものを伝えたかったのだろうと思う。あの母ならスズキの記憶から日本語までマスターしていたはずだ。だって、書き順すら間違えていない字体だ。
今の私ならこの意味はわかる。しかし、エルフの言葉でこれを表現して書くことは難しい。こちらの年号とエルフの里の年号を比較して何年後と伝えるのは無理だ。大学に似たような教育機関というものはエルフの里があった世界にもあったけれど、この世界には教育機関の名称がいくつもある。高校や高専と私が誤認する可能性があった。
ならば直接その世界の字で書き、本人が訳せるようになることを祈る他ない。
まあ、その通りになり、解読できた。
少なくともこの時期、その場所でスズキの知り合いと会えるという意味なんだろう。
大学とはこの世界の高度な教育機関のことだ。
優秀な子供を優秀な学者や高度な技術者にし、社会に送り出すのが目的だったはずだ。
でも、現在となると、仕事に就くまでの猶予期間の収容所、酷いところではアミューズメント施設のようなものであった。
せっかくの4年間を無駄に終える者が沢山いるだけではなく、そもそも高度な教育に耐えられない者を無理やり詰め込んでお金を搾り取る機関にも見える。
4年間の時間、4年間の教育費、別の何かに使った方がずっとマシだと思う。
それでも、その4年間に大切な友達やちょっとした目標とか発見ができたのならば、まあそれもいいかなとも思う。
平成●●年2月、その悪徳高等教育機関●●大学で、私は事務職員として仕事をしていた。
まあ、私も偉そうなことを考えても、所詮生活をするためのお金は大事だということだ。
幻術で騙してお金を得るという方法も取れるのだけれど、結局お金を最後に流した口座がどこだ、という記録が残ってしまう。IT技術の進歩に私は悲しくなる。高度な魔法も技術には勝てないことがあるのだ。
私は新規入学生というお金を搾り取る対象の名簿を睨みつける。
多分、この●●大学に平成●●年4月にスズキの親類が入学する、ということなのだろう。
名簿をエクセルデータに打ち込みながら鈴木スズキと書かれた氏名を確認していく。
そこで、ふと、おかしいなということに今更になって気づく。
母が書いた、
平成●●年4月 ●●大学
という文字。
これは鈴木が私たちの世界に来た時から数えて、だいたい100年後のことだろう、と私は思っていた。
でも、よくよく考えると、その頃にはスズキを知っていた人間はほとんどこの世から去っているはずだ。100年は私たちエルフにとっては、長い時間ではあるが、寿命から比較して考えれば少しの時間だ。でも、人間ならば2代、3代くらい入れ替わる。博識な母が、そんなことも考えず、こんな年月を私に指定するなんておかしい。
それに母の特殊能力で見えるのは、その人間等の考えていることや、記憶のはずではなかったか?
そして、母が、こちらの世界に来る前に何かを私に言おうとして、ひっこめたのはなんでか?
母はスズキには人間としてはあり得ないほど寛大な対応をしていたのは、別世界の人間だったから、と思っていたが、そもそもそういうことではなかったんじゃないだろうか。
私は名簿で、ずっと探していた名前を見つけた。
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