私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない   作:劇団おこめ座

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美少女おっさんとゴブリンの薄い本

 ゴブリンとは何ぞや。

 元いた世界では、14世紀ころから『悪魔、夢魔、いたずら好きで醜い妖精』として使われている名詞が『ゴブリン』である。

 なお、同じような名前のホブゴブリンは、概して気立てがよく、喜んで手助けをし、悪ふざけをするのが好きで、機嫌を損ねると危険な存在らしい。

 元いた世界のいわゆる、ファンタジーな物語に出てくるゴブリンについては、子供くらいの体格で、肌の色が緑色で腰に汚い腰巻きをし、ずる賢い雑魚キャラで、薄い本の名物男優である。

 ちなみに、ホブゴブリンはゴブリンの強い奴とか親分とか、そんな風に使われることが多い。

 私が来ている異世界は、後者。圧倒的後者であり、薄い本の筆頭名物男優である。

 ゴブリンはヒト型の生き物であるが知性は人間ほどではなく、狩猟をしながら生きている。しかし、彼らは非力ではない。森の中で走りまわり、野生の中を生き抜くための狩猟で鍛えられた天然の筋肉。不利な小さな体格を最大限に駆使した斥候、ずる賢い知恵を最大限取り入れた罠。これらで狩猟を行い、外敵からゴブリンの集落を守っているのだ。

 もちろん、彼らゴブリンの狩猟の対象には人間やエルフも含まれる。食べ物としてだけではない。ゴブリンの性別は基本的にオスしかおらず、メスの役割をさせるために他の動物等のメスから産ませるのだ。

 つまり、女の子がゴブリンに攫われたら、食べられるよりも酷い目にあう。自分のお腹からポンポンゴブリンが出てくるのだ。そういう趣味のある方以外は尊厳を失う。

 まあ、男の子も彼らの持て余す性欲の解消のため穴を掘られることもあるあるな話で、その後は食べ物的な意味で美味しくいただかれるのだ。

 いや、もうね、そんなわけだから、ミドルティーンのピンク色の髪の女の子の冒険者が、ゴブリンのいる洞窟型ダンジョンを攻略してくださいと言われるなんて、もう薄い本の2、3ページあたりの内容だと思う。

 もう、そんな話をなろうに載せたら、すぐにでも月光を浴びてノックしてターンしなければ消されてしまう展開だ。

 彼らは神の視点から、いつもキレッキレの冴えた瞳で監視しているのだ。油断してはならない。

 

 何より妻だ。身体中傷だらけでハイライトの失った瞳になった私に、ゴブリンに掘られました、と妻が言われてどう反応すればいいかわからないだろ。ましてや、中学生の娘くらいの見た目だ。その上で、ゴブリンの赤子を連れて、私の子供です、とか言って大事にしていたらもう吐き気すらこみ上げるはずだ。

 家庭でぎくしゃくするのは目に見えているし、ごはん時に顔を合わせても、何も会話の無い一家団欒をしなければならなくなる。想像するだけでマジでつらい。

 

 万全を期してこのミッションをクリアしなければならない。

 ダンジョンに潜る際の装備やアイテムを考えていると、そもそも、何で私がこのダンジョンに潜る必要があるのか、という結論に至ったのだ。

 いや、ね、なんでゴブリンで妊活はらぼてTS美少女なんてやる必要ないでしょ。そういうのマジ勘弁。抜け道を探そう。例えば屈強でゴブリンの殺戮が大好きなエルフの戦士を見繕って代わりに潜ってもらうとか、何かもっと安全に、win-winな関係であと腐れなく和やかに終結する方法。

 しかし、エルフの里の屈強なエルフの戦士筆頭であるジコンでさえ、洞窟内から撤退を余儀なくされている。さらにこれより強い奴とか、異世界チートハーレムなろう系主人公とか指先一つでダウンさせちゃう系とか野菜大好きな金髪野郎みたいな方々だろう。

 でも、彼らが偶然この里に来たところで、それに見合う報酬がない。チートハーレム野郎ならその後ゴブリンよりも身の毛もよだつ薄い本の展開も考えられる。野菜大好きな金髪野郎なら戦いの果てに惑星が破壊されるレベルの戦闘を繰り広げられて、『竜玉があれば大丈夫』みたいな感じで破壊と殺戮をし尽くし、竜玉の力で死んだ人を復活してくれても瓦礫だらけになった里はそのままにされて復興がヤバいことになる。

 まあ、いずれにしてもそんな彼らが来てくれる可能性は天文学的数字の2乗くらいの確率に違いない。

 自分の力で何とかできないものかホテル馬小屋の暖炉の火を見つめながら考え続けた。

 魔法で暖房と同程度の効果を得るのは簡単だが、常時とか、寝ている時も、というのは少々難しいし、私みたいに頭一つ二つ、おかしなMP保有量になっていても無意識で使い続けるというのは中々維持は出来ない。まあ、長のエリンみたいな魔力制御もMP保有量も頭おかしい一部のエルフは別だけど。

 暖炉の中はエルフの里の森の中にある間伐材だ。大きく立派な木を育てるために、間引きしたり、逆に古くなり過ぎた木を切ったりして出来たものだ。工芸品を作ったり家を作ったりするにはあまり向かないが、燃料として考えれば十分なものだ。人との交易が増えたせいで、林業も活性化しているに違いない。

 エルフは木を大切に扱っており、日本みたいに一部がはげ山になっていたり、逆に人が手入れをしなくなった雑木林みたいにはなっていないのだろう。きっと、木を素早く育てる魔法とか、そういった素敵魔法もあるのだろう。そんな魔法でも手に入れて日本に戻ったら、田舎の山を買って林業をやろう。お高い(ひのき)だとか高級木材の材料となるスネークウッドを量産しまくって、クソみたいな会社員生活とおさらばして自由な生活をしてやるんだ。

 くそ、でも育てることができても販路とか知らないのでお金に換えられない。薪にして家で焼く以外の使い道が思いつかない、ビクンビクン。

 いや、ワンチャンこのTS美少女姿で営業で回りまくれば……いや、営業で回るとかまさに会社員じゃねえか。営業なんてやったことないから、ストレスで尻から血が出そう。美少女がストレスで痔を患うとかどこに需要あるんだよ……。最終手段というか、モラルを無視して枕営業アタックなんか……いや、私には無理だ。元々男だからまじ無理。想像するだけでゲロが出そう。むしろ、枕営業をして木材を売ってきたとか、妻に知られたらどうなることか。

 だから、既婚者がTSして美少女になってもろくなことにならないのだ。事業で林業をしてもろくなことにならない。きっと、林業を始めても家で使う薪にしかならない。

 ああ、そうか、薪か。

 私は、薪に灯った火を消して、ホテル馬小屋から飛び出した。

 

 

 

 私はエルフの森の中にある、間伐材となる木々を入手した。もちろん、量としては数トンを超えるような木々の塊である。それをエルフの民の協力を得て、それをダンジョンに押し込み、火をつけダンジョンの入り口を魔法で封鎖した。

 空気の比重と二酸化炭素の比重を比べれば、二酸化炭素の方が重たい。ほら、理科の実験で下方置換で二酸化炭素を採取した人いたでしょ。試験官を普通に立てて、そこに二酸化炭素を抽出していくと、酸素や水素は上の方に行って採取できないのだが、二酸化炭素は下へ流れて試験管の中に溜まるのだ。

 洞窟タイプのダンジョンなら空気は限りがある。下の階層の空気はどんどん上の階層で発生した二酸化酸素で押し込まれていき、最下層は二酸化炭素でいっぱいになる。ほぼ全ての動物植物は酸素を必要としている。光合成をする植物が洞窟内に仮にあったとしても光合成をすることはできない。太陽光等の明かりがないから。洞窟内では光合成による酸素の発生が考えれないから、モンスターは息ができなくなり、死んでいく。ダンジョンコアが死んだモンスターの補充のためにモンスターを二酸化炭素が充満したダンジョン内に呼び出したとしても、モンスターがまた窒息死を繰り返す。それを高速で繰り返し続けると……

 

 数日後、ダンジョンのあった場所には大量のドロップアイテムと色を失ったダンジョンコアが吐き出されていた。

 

 ハクラクが、

 

「こんな結末を薄い本に描かれていたら、その場で本を焼かれて殺されかねませんね」

 

とえらく真面目に言っていたが、私は聞こえなかったことにした。




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