私は人知を越えるモノに『異世界戻りの既婚TSおっさんがその妻から緑色の紙を叩きつけられるRTA』をやらされているに違いない   作:劇団おこめ座

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美少女おっさんと黒歴史

 ハクラクと共に屋根の下で暮らし始め、約2週間。

 ミドルティーン美少女偏差値70超えの姿になった元男の私と一緒に過ごして、何も起こらないわけがない。

 もうそれは、毎夜、肉と肉のぶつかり合い。汗が吹き出し、滑らかに指を動かし、お互いの動きに合わせて動き合い、消音魔法がかかった部屋でオーラスを迎えると大きく声が響き合う。

 

「アシストフィギュア拾ってサムスで遠距離ばっか使ってんじゃねーよ!」

 

「勝てばヨかろうナノだッー!」

 

 任天堂Switchでスマッシュブラザーズ対戦だ。

 任天堂とはコンピューターゲームやゲーム機の開発・製造・販売で日本国内では知らない人がいない会社で、京都に本社を構えている。大分年老いた高齢者でさえ、花札を製造していたこともある任天堂にはお世話になったことがあるはずである。その会社のマスコットキャラクター等で殴り合ってマップからの押し出しあいをするのゲームがスマッシュブラザーズだ。

 たまにしかゲームをやらない私は携帯ゲーム機のSwitchを暇を持て余していたハクラクに渡すと、猿のように延々とやり始め、気が付けばゲーム初心者を卒業して、私とも対等に対戦できるようになってしまった。

 しかし、このままでは日本の文化等の勉強、ハクラクにとっての異世界留学をゲーム一色で終わらせてしまう可能性がある。見た目の若いイケメンの引きこもりを作ってしまいかねない。

 というわけで、ゲームは外を出歩かない夜に1時間程度というルールの元で運用することになった。

 ゲームの一時間ルールを申し向けられた年齢数百歳のハクラクは、しばらく泣いていた。

 

「ところで、何で私の持ち家の方で寝泊まりしないんだ」

 

 ハクラクは単身赴任中の私の家に転がり込んで寝泊まりしている。

 まあ、私としてはたいして気にしてない。エルフの里ではよく一緒に行動しているどころか、死ぬ間際には介護してもらう状態だったからむしろ恩しか感じてないわ。むしろ、今は使えなくなった男物の服があるので、サイズはあってないが見た目のイケメンで誤魔化せる。

 でも、血のつながった(エメラダ)と一緒に生活した方が良かったんじゃないだろうか。

 

「いや、触手のえぐいエロ本(聖書)が見られタせいでネ……顔を合わせたら、目をノールックなんダ」

 

「そっか」

 

 触手スキーの道の扉を開けてしまった私は気まずくなって、黙ってゲームコントローラの操作に集中した。スマッシュブラザーズでは標準でついているジョイコンというコントローラの操作はちょっとしづらいので、別売りのコントローラーを買おうかな。

 

「それぞれ、趣味趣向はあるから仕方ないことだし、時が経って(エメラダ)が落ち着くのを待つしかないだろうね」

 

 まあ、そういうわけで、私はハクラクを元気づけることしかできない。

 日本は思想の自由が認められた国なのだ。何が、性的な趣味だとかは咎められる筋合いはないのだ。

 でも、思うことは自由でも、思ったことを行動したり、発信したら犯罪であることはダメだ。

 そうじゃなくても、ロリコンとか露出狂とか、それらは個人的にダメだと思うがね。

 そういう方々はすまんが、来世で性欲という魂を開放してくれ。

 

「そっかー、ハクラクおじさん、エロ本が見つかって気まずくなったから、こっちで寝泊まりしてたんだ」

 

 気が付けばソファーでニヤニヤした由紀(ゆき)がハクラクを見ていた。

 

「い、いつからそこにいた!」

 

「呼び鈴鳴らしたんだけど気づいてくれなかったみたいで勝手に中に入ったんだよね。私もスマブラ混ぜて」

 

「ココはプライベートゾーン! 勝手に女の子入っチゃダメ!」

 

 ハクラクは片言で若干意味不明な日本語を発生しながら顔を赤くしている。

 見た目が二十代前半に見えるから、現役女子中学生の由紀に馬鹿にされてもあまり不自然感がない。

 

「ああ、明日土曜日だからこっちに来たのか」

 

「そうそう、遊びに来たのと、お母さん(エメラダ)がハクラクおじさんのこと心配してたから見に行ってほしかったみたい」

 

「ほら、エロ本のことはもう気にしてないみたいだから安心しろ」

 

「エロ本、エロ本イウな! 聖書アルヨ!」

 

 この調子じゃあ、(エメラダ)ハクラク(ド変態)を受け入れてくれるか心配である。やはり、こっちでしばらく薄い本を聖書と言うと一般人からヤバい人認定されるという日本の常識等をしっかり躾けないといけないなぁ。

 

「ところで、ハクラク、こんなしゃべり方じゃなかっただろ。日本語をこんなにしゃべれるようになるのも早すぎるし……」

 

「これハ、翻訳魔法。ワタシの日本語、変なのカ?」

 

 ハクラクは少し戸惑うような表情をしながら私たちに視線を向けた。

 

「翻訳魔法とか、何でもありだね、異世界! 私も異世界で冒険してみたいなー」

 

 由紀のまた異世界を羨望するまなざしをしていたが、異世界はろくなものじゃないので私はスルーした。

 

「いや、外国人だとしたらかなり頑張っている方だけど、(エメラダ)の発音や言葉に比べるとね。でも、来日二週間ぐらいで、日本語初見なら、もの凄く良い方だけど、逆に魔法でやっているならなんか、問題ない?」

 

「翻訳魔法はあまリ使わないかラな、精度は低いヨ」

 

 紳士のようなエルフの言葉使いを知っている私から見ると、凄く不自然な感じである。

 でも、外国人が日本語をたどたどしく一生懸命しゃべってくれている仕草に私は胸を打たれる感じがする。知らない土地で、知らない文化の中、自分の気持ちを一生懸命伝える姿を見ると妙に助けたくなる。まあ、私は元々の姿の男性の姿の時は誰かに道を尋ねられたことも無ければ、逆に道を聞こうとしたら逃げられたりした。うぅ、悲しい思い出があふれてきた。

 

「長くこちらにいるなら、自力で日本語を覚えるか、翻訳魔法を……どうやって精度を上げるか知らないけど精度を上げるといいかもね」

 

「それにしてもさ、ハクラクおじさん、三百歳くらい超えたエルフって本当? いろいろお母さんから聞いたんだけどさ、お母さんもおじさんも全然二十代くらいにしか見えないでしょ。それにおじさん、私より子供っぽいし」

 

 私がエルフの里に行っている(連れ去られる)間に、自分がエルフだとかそういう説明を子供たちにしたんだな。様子を見ていると、何かひどくショックを受けているとかそういう雰囲気がなくて安心した。そもそも、自分の妻がつい最近エルフだったことを知って、子供がハーフエルフになっていたこともそれで気づいたりとか、結構心労があったというか今もある。そして、おっさんの形がどっか行ったTS美少女おじさんだ。どうやって父親としての責任を果たせばいいんだ。教育資金専用ですかね。

 由紀が、エロ本を見られて意気消沈して(エメラダ)と顔を合わせづらいと言っているハクラクをプークスクスと笑っていたが、この人は本当は里でも有数の凄腕戦士であり、衛兵長を務めていた人だ。こっちの世界で言えば警察官の幹部みたいな役職だ。ただの触手スキーな変態の若いオタクの兄ちゃんではないのだ。

 

「由紀、前に記憶を見せただろ。ハクラクは超真面目な秀才で凄腕のエルフだ。見た目もそうだけどやることもイケメンなんだ」

 

「それは知っているんだけど、あまりにも実際に会った時の落差が……それにしても、お父さん、ハクラクおじさんに何かしたの? エロ本なんて異世界にないと思うんだけど」

 

 私の脳裏に、私がスマホで触手AIエロ画像や薄い本についてハクラクに説明したことが浮かんだ。

 背中に急に冷たい汗が出て来た気がした。

 

「ハクラク、エルフって、短命の人間に比べると精神年齢の増え方は遅めになるのか?」

 

「お父さん、話変えないで!」

 

「ああ、そうなるネ、異世界の人間に比べて、エルフは幼年期が長いヨ」

 

「おじさん、私の話をスルーさせないで!」

 

「それでね、あっちの世界の人間が15歳で成人とイわれていて、エルフは30歳で成人とサれるけれど、制度上の成人であってまだまだ考え方は幼いネ」

 

「ちなみに娘の由紀は14歳なんだけど、ハクラクの14歳くらいころはその時どんな事をやっていた」

 

「そぉーだねー、ちょっと恥ずかしいけど色んなバカなことしていたネ」

 

「こっちの人間の14歳とは文化も違うだろうからどんなことやってたとか知りたいな。私みたいに記憶を動画みたいに出来れば……」

 

 記憶を他人にVRチックに見せる魔法なんてハクラクは急にできるはずないし、どうするかな、と思っていたら、ハクラクは手元にあったジョイコンを私に見せて

 

「つまり、このジョイコンで、今まで使ってイたスズキのサムスを使ウようなこと?」

 

「まあ、そんなことかな」

 

「オレの頭にリンクさせればできるハず、魔術行使と補助がスズキで、操作自体はオレ」

 

 私たちは思い付きで、ハクラクの記憶を動画化しVR鑑賞し始めた。

 

 

 

 人間だとしたら小学生になったばかりの少年が見えた。

 その少年は絹のような滑らかな長い金髪、そして緑色の瞳で耳が長く、ハクラクをずっと若くした姿なのだろうな、と予想がついた。

 彼は鬱蒼とする森林の中にいた。彼の背中には弓と数本の矢が入った矢筒があり、手には大人の腕一本分ほどの片手剣が握られていた。

 彼の目の前には、2メートルほどのアリがおり、口の前にあるあごをカクカクと動かしていた。

 突如、口から液体が吐き出され、少年ハクラクは地べたに転がりながら液体を避けた。液体が地面に落ちると、ジュワーとよく熱した鉄板に載せたお肉みたいな音を出した。蟻酸にしては酸度高すぎる。

 少年ハクラクは体を立ち上がらせながら、巨大アリに向かって走りはじめ、両手で剣を握った。

 さらに蟻酸が吐き出されるが、それをほんの少し体を傾けて避けて、アリの正面から後ろへ駆け抜けた。

 アリが少年ハクラクの方へ体を向けようとすると、体が傾き、体の上半分くらいが地面に落ちた。

 アリはハクラクの方へ口を向けて相打ちになってまで殺そうと、蟻酸を吐き出すが既にそこには彼はいなかった。太陽の日差しがなくなったと思ったと思って上を向いたら、少年ハクラクが空へ飛びあがり、そして急降下し蟻の頭に剣を突き落とした。

 

 

 

 動画を見終えた娘は興奮していた。これぞ異世界、冒険者だ、みたいなことを言い続けていた。

 

「おじさん、なに、これ、ちょーかっこいい!」

 

 ハクラクは顔を赤らめていた。おいおい、お前14歳の女の子に自慢したくてこの記憶を映像化したのか。

 

「これは、15歳の頃に蟻退治の手伝いをやらされて怒られた時の思い出だ」

 

「これ怒られる場面なの?」

 

「ああ、そうか、戦闘の基本は遠距離だからね。近距離は危険がかなり伴うから出来る限り近距離で戦わないようにと言われていましたね。まあ、私、あっちでは魔法なしで肉壁させられていたけど。ごめん、ハクラクが格好いいところ自慢していると思ってた」

 

 私が謝罪すると、ハハハ、といかにも外国人ぽくハクラクが笑った。

 

「それでも、できる限り見栄えのイイものにしたヨ。もっとひどくお叱りを受ける場面もアルけれど恥ずかしすぎるのでやめてホしい。これは魔力が尽きかけてイて、接近戦を余儀なクされた。もっと、魔力の温存をスるように怒られたのと、矢の残数があったのに剣を使うヤつがいるか、と追加で怒られた。この後、怒られる動画もアるけど、ミル?」

 

 私たちは首を横に振った。

 ハクラクが失敗した話だ、と言いながら見せてくれた記憶は規格外の強さの映像だった。近接で蟻の外骨格に剣が通るとか、いや外骨格を上手く外して関節を切ったのかもしれないが、一瞬過ぎて全然見えなかった。天才というか、異世界現地主人公ものの主人公か何かでしょ、この人。マジヤバい。

 

「おじさんが15歳でこれか……本当に私たちより精神年齢が下だったのかな……」

 

「お父さんもそう思うわー。死生観は明らかに上のような気がする」

 

「ん、ということはお母さんも相当な天才児だったんじゃない」

 

 私と由紀は目をキラキラさせてハクラクを見た。

 

「ああ、あり得るな、ハクラク、何か(エメラダ)の15歳くらいの時の記憶で凄いシーンあるか?」

 

「急に言われてもすぐは……あ、思い出したけど、これはあんまり……」

 

「いいから見せてくれ」

 

 私や由紀の催促の言葉にハクラクはため息を吐いた。

 

「後でエメラダに言うなヨ」

 

 ハクラクはしぶしぶと眉間にしわをよせながら動画を再生し始めた。

 

 

 

 エルフの里の中、少し離れてログハウスが建ち並んでおり、小さな川で水車がしぶきを飛ばしていた。小さな畑があり、キャベツやネギ、大豆みたいな植物が育てられていた。

 鷲のような鳥の鳴き声と森の木々を揺らす風の音が、程よい涼しさを感じさせた。

 ログハウスの側に肩まで伸びた金髪を揺らす7歳くらいの少女がいた。エメラルドがはまったような目がキラキラと輝いて地面を見つめ、両足を交互に上げ続けている。

 ハクラクの話ではエメラダとの思い出のはずであるから、この少女はエメラダなのだろう。

 確かに、エメラダの面影がある。

 それにしてもずっと両足を交互に上げ続けている。

 もしかしたら、太モモ上げ運動という、太ももの付け根(腸腰筋)、お尻(大臀筋、中臀筋)太もも前面(大腿四頭筋)を鍛えるトレーニングをしているのかもしれない。

 しかし、エメラダの視線は足元である。

 エメラダの視線を追うと、蟻がいた。

 無数の蟻をエメラダはニコニコと笑いながら潰して、蟻でできた黒い染みを地面に作っていた。

 

 

 

 きっと、誰もが小さいころにしただろうことだが、同年齢の頃に片や自分よりも大きな魔物の退治をして、もう片方はありんこ潰しに精を出しているとか……

 

「子供って残酷だね」

 

 うわぁ、と呟きながら由紀がそう言った。お前もまだ子供なんだけどな。

 でも、私もちょっと衝撃的な感じがする。一応、15年間生きて、ありんこ潰しやりまくっているんだぜ、うちの嫁さん。

 

「えっと、今の映像もさっきの映像も15歳のエルフで、私の妻……でしたっけ……」

 

 一応、ハクラクに確認すると、ハクラクはうなずくだけだった。

 

「この後、母上に叱られるんだ。そこまで見るか……?」

 

「いや、もうお腹いっぱいだ」

 

「うん、私、墓場まで持って行く」

 

 無邪気な子供の頃の思い出は、大人になって思い出すと黒歴史になっていることが多い。

 それを見てしまったら、『あるあるーwww』みたいな感じでさらっと流す。それが大人の礼儀だ。




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