市川の家と高瀬家(うち)は、中学校を挟んでほぼ反対方向にある。
そんな理由もあって、俺が市川の家を訪ねることはなかなか叶わなかったのだが、今回俺は秘密兵器を用意した。
自転車である。
父にはスーパーに買い出しに行くためと言ってあるが、事実上の市川家急行用自転車だ。
ちょっと高い買い物だったが、推しに貢ぐのは実質無料ってそれ一番言われてるからな。それに、俺はちゃんと計画的に推しに金を使っている。違うのだよ、普通のオタクとは(倒置法)。
市川とはまだLINEを交換していないので、放課後の学校で新品の自転車を市川に見せびらかしたついでに、今日、今から市川の家に行くから。とさっそく前回手に入れた交渉カードを切っていく。
市川は嫌なことは嫌と言うタイプではあるが、ライバルの顔見せイベントを拒否るほど嫌われてはいないので、問題は無い。帰りのために道順を確認しつつ、一緒に自転車で市川の家に向かう。
「おー、ここが市川の家かー」
「普通の家だが……?」
「あら? 京ちゃん、その子は?」
市川母の登場に、俺はかしこまって自己紹介する。
「市川くんのライバルをやらせていただいている、高瀬ライトといいます。手土産も無く、急に家に伺ってすみません」
「あー、あなたが高瀬くんなのね。京ちゃんから話は聞いてるから、これからも仲良くしてあげてね」
「はい! お邪魔します」
ババアー!!という顔をしている市川を無視して、玄関で靴を脱ぐ。推しと同じ屋根の下。感無量っていうのはこの時のためにあった言葉なんだな。
「あれ? 京ちゃん、友達連れてきたの?」
うおっ。今日はおねえまでいるのか。大当たりだな。
「市川くんのライバルをやってる、高瀬ライトです」
「あー、ライバルってホントに実在したんだ……。私は京ちゃんの姉の香菜だよ。京ちゃんのことよろしくね」
おねえー!!という顔をしている市川を無視して、俺はずんずんと市川の部屋を目指す。
「あ、ちょっと待って、部屋片づけるから!! すぐ片づけるから!!」
市川が先に部屋に入り、ドアを閉めてドタバタ音がする。たぶん、ゴミ箱に使用済みティッシュ等が無いか確認したり、本や雑誌を隠したりしているのだろう。
「も、もう大丈夫。入っていい」
「そうか。山田が載ってるファッション誌はちゃんと隠したのか」
「な、なんでそれを知って……!!」
「カマをかけただけだが?」
「~~~~ッ!!」
というやりとりの末に、俺は市川の部屋にとうとう侵入した。
さあ、ここからが本番だ。覚悟はいいか? 市川。林間学校、絶対行きたくさせてやるからな。