迎えた自由研究の日。
僕は一つの大問題に直面していた。
僕は、まだ山田の家の場所を知らないのだ。
山田本人に聞けばいいとはいえ、既に当日の朝。完全に聞くタイミングを逸してしまった。
高瀬……に訊いてもなーーーー。
いや、学年1位の高瀬のことだから何かのツテで知ってそうな気がしないでもないが……それは何か負けた気がするというか何というか……いや別に高瀬とライバル関係にあるというのは恋のライバル的なものではないのだが……。
ピンポーン。
「あれ? 誰か来た?」
おねえがインターホンに向かう前に、僕はダッシュでインターホンに向かう。
「山田!」
「山田?」
モニターに映っていたのは、日傘を差し、肩を出した服を着た山田だった。すらりとした長身が、日傘の影になっている。
ガチャ。すぐに玄関を開ける。
「ど、ど、どうしてうちに山田が!?」
「集合場所決めてなかったでしょ? で、最初はお菓子屋さんにしようかなって思ったんだけど、市川お菓子屋さん知らないかも……って思って」
「いや、そもそもうちの場所は教えてないが?」
「高瀬くんが昨日LINEしてきてね、呼び鈴を押す勇気はあったほうがいいよって、市川の住所を教えてくれたんだ……」
くっ! 気遣いの達人かよ!
「キレイな子……京ちゃんのお友達?」
はっ。しまった! おねえのことを完全に忘れていた。
「や、山田は最近よく話す友達で、今から自由研究をすることになっててだな……お、おねえにも異性の友達くらいいるだろ」
「いないが?」
僕の目は、夏だというのにブリザードが吹き荒れる光景を幻視する。
「おねえ……市川のお姉ちゃん……?」
ああ、そうだな。おねえの紹介をしないと。
「山田杏奈です! 市川きょ、京太郎とは仲良くさせていただいてます。よ、よろしくお願いします!」
「市川香菜だよ。そんなにかしこまらなくてもいいよ。京ちゃんのお友達が来てくれて嬉しいな」
「じゃあ、さっそく行こうか市川」
「え? どっか行くの? うちで自由研究するんじゃないの?」
「目的地は私の家です!!」
「ちょ……ちょっと待って……情報の整理が追いつかん……。もう女の子の家に行くフェーズ? もしかして、もう親に紹介する話になってるの?」
ご、誤解が発生している……。
「はい!!」
笑顔で答える山田。
ご、誤解が確定してしまった……。
「きょ、京ちゃんが大人になってしまう……」
うろたえるおねえ。フラフラとゾンビのように立ち上がると、バッグを漁り、何かを取り出す。
「……念のため、これを持っていけ」
物陰でさりげなく押し付けられたゴムに、僕は顔を引きつらせた。