山田の家はタワマンの16階だった。
「ここが私の家だよ!」
山田がカードキーでロックを開けて中に入ると、さっそく山田母が出迎えてくれた。
違うやつは親からして違うな~~~~。
「おかえり杏奈……その子が勉強会で教えてくれた市川くん?」
「そうだよ! 前にも言ったと思うけど、今日は市川と、お砂糖をテーマに自由研究をするの!」
山田の笑顔が眩しい。
「大丈夫? 市川くん、杏奈に振り回されてない?」
「いえ、共同研究をもちかけたのはこちらからなので……今日はお砂糖と調理用の温度計をお借りします……」
そう。山田の家には(なぜかは知らんが)調理用の温度計があるとのことだった。
普通の温度計は50度や120度で打ち止めになってしまうし、砂糖の変化を正確に記録するには、どうしても調理用の温度計は必須なのだ。
「焦げないように少量の水に溶かした砂糖を、厚底のフライパンでゆっくり加熱後、状態が変わったら放置して冷やす。このとき、元の状態に戻るか戻らないか、もし戻らないならどういう状態になるかの記録も重要だ」
「ふむふむ」
「一昔前なら、その都度写真を撮ってやってたのかもしれんが、今はスマホで動画も撮れる時代なので動画も活用していく」
「なるほど」
「じゃあ、まずは実験に使う砂糖水を作ろう。濃度差があると実験にならないからあらかじめボウルで作っておく」
「うん!」
「なんだか本格的なのね……。邪魔しないようにママ、あっちに行っておこうか?」
「えーと、加熱を伴う実験なので、念のため保護者の方にそばに居てもらったほうが安心ですね」
「あ、それもそうね」
山田母に、じっと凝視される。
「杏奈……。彼氏……じゃないのよね?」
「ち、違うよ!」
「ち、違います」
「ご、ごめんなさいね。杏奈が男の子の友達を連れてくるの初めてだったから……ちょっとびっくりしちゃって……」
そ、そうなのか?
「あ、市川。実験の前にエプロン付けないと」
「そ、そうだった。せっかく持って来たんだし、付けておかないとな」
そして実験は進み、105度と110度、140度の状態まで動画と写真に記録できた。
時刻は12時。
砂糖にはあまり詳しくないので分からないが、前半戦は終了、といったところか。
「市川、コーヒーとパンとマーガリン持ってきたから、この実験結果を有効活用しよう!」
「山田……それ単にシュガーマーガリンパンが食いたいだけだろ……」
「えー、捨てるのはさすがにもったいないよ」
「まあ? 食えるものなら食っておいたほうがいいか……?」
そこに、ぬっと2メートルを超す巨人が現れる。思わずパンを取り落とすほどの、恐怖。
「砂糖の匂いがする……料理……誰……?」
振り向いた巨人の眼光が、僕を捉える。
「男の子……?」
ヒィッ!! それが……僕と山田父との出会いだった。