「パパ!」
パパ? ああ、この巨人が山田のお父さんか。
「い、市川京太郎です。今日は夏休みの自由研究をしに来ています」
「自由研究……?」
こ、怖い……。
「パパ、この前話したと思うけど、塩じゃありきたりだから、お砂糖をテーマにしようって話になったんだよ」
「砂糖……自由研究……センスがいい……」
ほ、褒められている!?
「私がテーマを決めて、市川と一緒に実験して、共同研究ってことにするの! さっきまで前半戦をやってたんだけど、加熱するときはママが見ててくれたから大丈夫だよ」
「共同研究……?」
ヒィ……また睨まれたような気がする。
「パパ! 寝起きのテンションだと市川が怖がるから、顔洗ってきてよ」
「そうする……」
さすが山田……山田父の扱いを心得ている……。
戻ってきた山田父は、髪の毛をヘアゴムで束ねていて、シュッとした感じに変身していた。
こうしていると美形なんだな……。さすがは山田の父ということか……。
「そのパンに塗ってあるのが実験結果?」
「うん。温度が低い方から3種類までは調査したんだよ!」
「なるほど……それはコーヒーとパンに合うかもね」
ああ、これは……"""""知っている"""""顔だ。
自由研究の大敵、実験結果を知っている大人。それが今ここに居る。
「あ、あの……」
「どうしたの? 市川」
「僕たちの自由研究なので、アドバイスは無しでお願いします。もし失敗しても、それもまた実験結果なので……」
僕は真剣な表情で山田父を見つめる。しばらく時間が過ぎる。
「杏奈……。彼氏……じゃないよね?」
「違うよ!」
「違います」
あれ? このやりとり、さっきもやったな?? やはり似た者夫婦ということか????
「……実験結果、期待してる」
そう言って、山田父は奥の部屋に消えた。
シュガーマーガリンパンを食べ終え、さあ、後半戦だ。
165度……砂糖があめ色に色付き始める。冷やすとアメ状になった。たぶん、これがアメの原料だと思う。
170度……茶色になってきて、香ばしい匂いがし始める。冷やすとプリンにかかっているソース状になった。確か、名前はカラメルソースだったか。
190度……185度を超えて、匂いも無くなり、そろそろ焦げてしまうか? と思ったが、それはそれで実験結果なので、続行。結果、190度付近で黒っぽい色になったので実験終了。冷やしても黒っぽい色は変わらず。
つ、疲れた……。だが、この結果を画用紙にまとめれば、夏休みの自由研究は完了だ。
時刻は夕方。
山田母は最後の加熱実験が終わった段階で買い出しに出かけている。
また、山田父はお仕事があるということで同じく出かけてしまった。
「市川、疲れたけど、楽しかったね」
「うん。山田と研究できて、楽しかった」
「……画用紙にまとめるのも、一緒にやりたいな」
「や、山田のスケジュールが合えば、別の日にうちでやってもいいが?」
「いいの? 嬉しい!」
山田の笑顔は、やっぱり眩しい。
そんな山田の家で、今二人きりになっているという事実に、僕は少しドキドキしていた。大丈夫か?? 胸の鼓動はさすがに聴こえてないよな??
が、その直後、ポケットの中のゴムの存在を思い出し、間違って一線を越える前に早く帰らねばという思いを強くするのだった。