僕、市川京太郎には、一人のライバルが居る。ライバルというか、一方的に話しかけてくる、敵だ。
同じクラスのイケメンで、成績優秀。学年1位で、全教科満点を連発するスーパー中学生。高瀬ライト(たかせ らいと)。
僕の読んでいる猟奇殺人の本を華麗に無視して、開口一番「こんにちは、ライバル君」と言い放ってきた高瀬は、こう言った。
「俺、中間テスト学年1位の高瀬っていうんだけど、市川くんのこと勝手にライバルだって思っててさ。
俺って頭はいいんだけど、勉強って一人でやっててもつまんないじゃん。切磋琢磨するライバル? 的なものを探してたんだよね。
そこで今回のテストで学年2位になった市川くんに目をつけてさ。君は情報処理部で部活も週一だし、そういうのに付き合ってくれそうだったから、君は今日から俺のライバルってことで」
「……なんか意味あるんですかそれ」
「俺は単なる満点製造機じゃないって自覚できる。君は打ち倒すべき相手が見つかる。悪い話じゃないと思うけど。
それに、俺も情報処理部に入ることにしたから。同じ部活のよしみで仲良くしようよ」
「……別に友達とかいらないんで」
僕は強がりを言う。本当は話しかけてきてくれたことに感謝しているくらいなのに。
「友達じゃないよ。ライバルだ。お互いに競い合う……そうだな、敵って言い換えてもいいか」
「敵……ですか」
「そう。敵。だから仲良くしよう」
おいおい。なんだかだんだん話がおかしくなってきたぞ。
「……それは矛盾してませんか」
「はは。やっぱり言いくるめようとしているのはバレちゃうか。まあ、ライバルになること、一応検討しといてよ、市川くん」
「……善処します」
僕は家に帰って、おねえに最近のことを報告する。
「ん? なんか京ちゃん機嫌いいね? 何かあった?」
「……ライバルができた」
「ライバル?」
「高瀬っていう、同じクラスの学年1位の男子。情報処理部に入部してきて、最近なんかやたら話しかけてくる」
「高瀬さん?」
「お母さん、京ちゃんのライバルについて何か知ってるの?」
「高瀬さんのお家……ううん、私から詳しく話すことじゃないわね。ただ、家族の話はデリケートなことになるから、京ちゃんもお話するときは気をつけてね」
「……あ、うん。気を付けとく」
その後、僕はなんやかんやで、高瀬と話すことが多くなり、担任の先生からこう頼まれることになる。
「市川、高瀬と仲良くしてやってくれ。高瀬の奴、母親が事故で死んだのを必死で受け入れようとしている最中だから」と。
(ああ、僕は、勝手に高瀬のことを完璧超人、何でもできるスーパー中学生だと思ってた。でも、違うんだな。あいつも何かにつまずいて、でもそれをなんとか……乗り越えようとしてるんだ……)
僕は、私立の受験に失敗したことで凹んでいた自分の器の小ささに、少し心が苦しくなった。