「先生すみません。理科の自由研究の画用紙を家に忘れました。明日持ってきます」
「そうか。市川のことだから自由研究をやってないわけではないよな。ちゃんと明日持って来いよ」
「はい」
夏休みが終わり、始業式の日。僕は自由研究を忘れたと嘘をついた。
「わ、私も忘れました!」
「そうか。山田はすっぽかさないように」
「はい!」
なんで持ってきてないの? という目で見てくる山田を無視して、僕はホームルームの終わりと共に図書室に向かう。
しばらくして、山田もやってくるが――
「あ、自由研究の画用紙! 市川、ちゃんと持ってきてるじゃん!」
ああ、持ってきてはいる。いるんだが……。
「まだ未完成だけどな」
「未完成……?」
「共同研究者のところ、山田の名前書いてないだろ」
「もしかして、私が名前書いてないから未完成なの……?」
「そうだが?」
本文を書いて写真を貼ったのは僕だが、ともかく、共同研究者の名前は大事だ。書いてあるのと無いのとでは、天と地ほどの違いがある。これの有無で研究実績の有無が決まるのだから、当然だろう。ここを間違えると、大喧嘩どころか訴訟も辞さないという研究者もいるくらいだ。
「私が、名前書いたら完成なんだよね? 竜になって飛び立ったりはしないよね?」
「画竜点睛を欠くの故事じゃないんだから飛び立ったりはしないだろう」
「ま、間違えそうで怖い……」
「ちゃんと修正液も用意してあるから」
「うーん……」
「別に婚姻届じゃないんだからさっさと書いてくれ」
さりげなく言い放った台詞だが、なんかめちゃくちゃキモイことを言ってしまった気がする。
「婚姻届って……い、市川?」
「いや、だから名前を書くのにそれほど気負う必要は無いという意味でだな……」
「わ、分かった……書く……書くよ……」
共同研究者 市川京太郎 山田杏奈
「か、書いたよ……」
山田の顔が赤いな。風邪か?
「うん。後は明日提出すれば――」
「市川。今日提出しよう。今なら先生は職員室に居るし、皆は帰っただろうし……」
「何で?」
「共同研究って、なんか恥ずかしい気がしてきたから……」
いまさらか! 山田がぜんぜん恥ずかしがっていなかったから、僕も恥ずかしくないと思い込んでいたが……。確かに皆にバレるのは恥ずかしいかもな……。
「じゃあ、今から、職員室行こう」
「うん!」
それから、自由研究の画用紙を持って、僕らは職員室に向かった。担任の先生に声を掛けて、自由研究の成果を見せる。先生は「ほお……砂糖の研究か……!」としきりに感心していた。
「共同研究かぁ。山田と市川は仲がいいんだな!」
「……山田の家にたまたま料理用の温度計があったので」
「……市川がパソコンで頑張って仕上げてくれたので」
「いや、二人とも謙遜しなくてもいい。よく出来てる。金賞取れるかもしれんな!」
「市川! 金賞だって!」
純粋に喜ぶ山田だったが。
「ぜ、全校生徒の前に共同研究が晒されるのはちょっと……」
僕はだんだん恥ずかしさのほうが勝ってきていたのだった。
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