僕ヤバ世界のヤバイやつ   作:クラゲ大好き侍

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僕はしおりを描いた

 林間学校の実行委員に、当然のように高瀬は立候補した。

 そして僕は、林間学校の副実行委員として立候補する。

 

 足立が「市川、真面目かよ!」とか言って茶化すが、そんな台詞は今の僕には届かない。

 

 林間学校(ワルドシューレ)。高瀬が教えてくれた超カッコイイ学校行事だ。絶対行かなくてはいけないし、成功させなくてはいけない。ドイツ由来のワルドシューレのもともとの歴史を鑑みるに、このイベントの元来の主役は、僕のようないまにも結核にかかりそうな虚弱児童(きょじゃくボーイ)なのだ。

 

 高瀬は言う。

 

「現時点での最重要ミッションはしおり作りだ。市川は俺より絵に理解が深い。美術部員に掛け合って、しおりの表紙絵やイラストを描いてもらってくれ」

「分かった。俺は原さん等に当たってみる」

 

 適材適所。このときは、僕はそれが最善だと思っていた。

 

 

 

 

 女子のグループのほうに向かうと、山田たち仲良し女子グループに遭遇する。

 

飯盒炊爨(はんごうすいさん)で絶対フタ取るバカ出てくるよね」小林が言うと、

「それって確か、はじめちょろちょろなかぱっぱ。赤子泣いてもフタ取るな! ってやつだよね」山田が知識を披露する。

「山田よく知ってんなー」吉田は素直に感心し、

「ふふん。ごはんについてはプロフェッショナルだからね!」山田が何故か勝ち誇る。

 

「ごはんのプロフェッショナル……」

 

 プッ! ちょっとツボに入った。

 

「あー、市川、いま笑ったでしょ?」

「わ、笑ってない」

「笑ってたよ!」

「……わ、笑ってたかも」

 

 山田に笑い顔を見られてしまった……。

 

「そうだ、原さんに用事があるんだった」

「原さん?」

「ああ。林間学校のしおり用の表紙絵やイラストを、美術部員の原さんに描いてもらおうかと思って」

 

「ふーん」

 

 山田が目を細める。

 あれ? なんで僕は今、山田に対して罪悪感みたいなものを抱いているんだ?

 

「……市川は描かないの?」

「なっ」

 

 いきなりの無茶振りに僕は固まる。

 

「私は、しおりの表紙に色々なバリエーションがあってもいいと思うなー」

 

 山田から案が出る。

 

「おっ、いいね!」小林がそれに乗る。

 

「萌もそれいいと思うー」と関根も声を上げる。

 

 ま、まあ山田の案も悪くはない。というか、しおりにバリエーションをつけるというのは、けっこう良い案だ。採用してもいい。

 

「じゃあ表紙については、美術部員も含めて、応募制にしよう。トップ4までを採用して、4種類のしおりを作ろう」

 

「おっ。イッチもノリノリじゃん!」関根がノってくると、

 

「その案いいんじゃないか? きっと色んな表紙案が集まるし、全部写真に収めたら、いい思い出になるよ」吉田が保証する。

 

「それじゃあ、いったん持ち帰って、方針を高瀬と共有して……」

 

 そそくさと立ち去ろうとする僕を、山田が袖を掴んで引き留める。

 

「私も描くから、市川も描くんだよ?」

 

 ぼ、僕も描くことは確定事項なのか? 僕の内面(こころ)の殺戮衝動が解き放たれてしまうぞ?

 

「あ、ああ。分かったから手を放してくれ……恥ずい……」

 

「あっ」

 

 山田が手を離す。

 

「うーん、この距離感よ……」

 

 関根が渋い顔をして何か言っているが、何かの勘違いだろう。山田は友達なら誰にでも距離が近いやつなんだ。

 

 

 

 

「京ちゃん、さっきからうんうんうなって何を描いてるの?」リビングで、おねえに訊かれる。

 

「林間学校のしおりの表紙イラスト」

 

「え? そういうのって得意な人がやるんじゃなくて?」

 

「トップ4が正式に採用されるけど、応募自体は美術部員じゃなくても応募できるように決まった。で、思い出作りのために、描くことになった」

 

「……思い出作り? 京ちゃんが……学校行事を楽しんでる?」

 

 なんかおねえに幽霊でも見るような目でこっちを見ている気がするが、描くのが優先なのでスルーする。

 

「山田が描けっていうんだ。ああ、くそ。線が定まらん……」

 

「山田って、あの自由研究一緒にやったキレイな子?」

 

「他に誰がいるんだ」

 

「え? ……もしかして付き合ってる?」

 

「付き合ってないし、なんなら……嫌われてるまであるかもしれん……」

 

「ど、どういうこと? なんか京ちゃんから複雑な恋愛模様を展開しているオーラが出てるんだけど……え? マジでどういうことになってんの? ちょっと詳しく!」

 

「俺にも分からん……自由研究をパソコンでまとめてるときに山田の載ってるファッション誌見られて、『ちゃんと見ててくれたんだ』とか言って泣かれた……」

 

「そ、それで?」

 

「必死で誤魔化そうとして『まあ、山田は……可愛いし』とか言ったら、いきなり帰られた……」

 

「ああ、あのときの突然の帰宅ってそういう……」

 

「その後、夏祭りに呼び出されて社会的に抹殺されるのかと思ったら、山田がナンパに遭ってて、彼氏面して助ける羽目になったし……」

 

「え? あのときも会ってたの? 彼氏面って、具体的には?」

 

「男子に囲まれてたから、割り込んで『山田は俺のだ!!』とか言ったような??」

 

「はいアウトー。中学1年生でそれは致死量(アウト)だよ京ちゃんー!!」

 

「ん? 何が?」

 

「完全に山田さんに異性として意識されちゃってるじゃん!!」

 

「え?」

 

 こんなキモイ根暗陰キャの市川京太郎に、学園カースト頂点の陽キャでモデルの仕事もやってる山田杏奈が恋愛感情を?

 

「……無いだろ」

 

「そこは同じ女としての私の直観を信じろよ! ああー、京ちゃんがモテてしまう~~」

 

「……無いよな?」

 

 俺はなんとなく天井を向いて高瀬の顔を思い出し……その高瀬は、ぐっとサムズアップを決めていたのだった。




1000字から投稿できるけど、実は2500字以上が推奨されていることを初めて知りました。が、がんばります……。
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