俺は、週一の情報処理部で市川と話すようになった。推しの!!!!市川と!!!!話すようになったんだ!!!!
幸いなことに、話題はけっこうあった。
学年1位のたしなみとして、教科書は最初に見た日に全部読破し暗記していること。休み時間に宿題をしていること。
学校帰りに、スーパーで特売の食材を買って帰ることが多いこと。
家事全般、特に炊事、洗濯、掃除、などなどで忙しく、運動部をやっている時間が無いこと。
本当は小学校からやっていたバスケを続けたかったこと。
あれ? だいたい俺の身の上話だな? 市川にも、もっと喋ってほしいが、おそらくまだ警戒されているのだろう。
「つらくないのか? いや、その、忙しすぎてつらいー? みたいな意味で、だが」
「忙しいほうが助かる、かな。あんまりぼーっとしていると、暗い気持ちになっちゃうから」
「そ、そういうものか……」
「そういや市川くん……いや、市川ってさ」
俺はさりげなく切り出す。
「なに?」
「気になってる女子とかいるの?」
「な!?」
「俺は一応いるんだけど……たぶん『またまたー、冗談きついよ高瀬くん』とか言われそうで告白できてないんだよね」
「ふ、ふーん……」
「バスケ部の女子なんだけど」
「へー……バスケ部……」
市川がガタガタ震えだす。あー、これはたぶん盛大に勘違いしているね。
「ぶっちゃけ小林なんだよね」
ブッ!!!! 市川が噴き出し、むせてゴホゴホ言い出す。
まあそうなるよな……。バスケしてるときのばやしこのかっこよさを知ってるのは俺くらいだからな……(ドヤ顔後方彼氏面ムーブ)
「あれ? そんなに意外かな?」
「バスケ部っていうから、て、てっきり山田狙いかと」
「ふぅーん、市川は山田狙い、と」
「い、言ってない!!!!」
「……じゃあ、今日は何も聞かなかったことにしておくから、小林の好きそうなもの教えてよ」
「こ、小林は同小(おなしょう)だったから少しは知ってるけど……昆虫が好きって言ってたような」
「おっ! いい情報ありがとう! 今度、昆虫のキーホルダーでもあげてみるか……」
俺はさっそくばやしこ攻略のための戦略を練り始める。
「高瀬は、や、山田のことはどう思ってる?」
お、市川のほうから恋バナに食いついてきた。うーん、どうしようかな。
「そうだなあ。俺が言わなくても市川なら気付くと思うけど……山田は外見は大人びていると思う。でも、心は市川と同じ、中学生……の女子だと思う」
「中学生の女子?」
「そう。中学生の男子が青春したいように、山田も中学生の女子っぽい青春を夢見てる。だから俺なんかはぜんぜん似合わない。何しろ精神年齢30才のおっさんだから」
「……精神年齢30才のおっさんって……高瀬もまだ中学1年生だろ」
「そう見える? まあ、それならそれでいいんだけどね」
俺は推しの市川と話せる。そのことに、けっこう上機嫌になっていたのだと思う。
だから気づけなかったのだ。徐々に俺の行動が、原作クラッシュに繋がっていきつつあることに。