翌日の朝食時。
「いやあ林間学校は、色々と楽しかった」
「京ちゃんが……学校行事を楽しんでいる……」
おねえが見たこともないものを見るような目で僕を見る。
「特に山田たちとバスで隣になった時には陽キャと陽キャに挟まれて死ぬかと思ったし、カブトムシとクワガタを探す他の男子より先にカマキリ見つけたし、高瀬はああ見えて方向音痴だったからオリエンテーリングで正解ルート選ぶの大変だったし、飯盒炊爨のカレーライスは美味かったし、キャンプファイヤーの時は何故か山田が話しかけてくるし……」
おねえが情報量が多すぎて処理できないという顔をしている。
「京ちゃん、山田さんと進展あったの?」
「山田との進展というか、僕のほうで進展があったような気がする」
「というと?」
「僕は山田が好きらしい」
「ゴフッ……」
動かなくなったおねえを放置して、僕は学校に向かう。
体育教師のように校門に立って誰かを待つ山田。に、自転車ごと呼び止められて、駐輪場に向かった先で、僕は漫画を渡された。
「あの……これ……」
『君色オクターブ』、略して『君オク』!! アニメ化、映画化もした有名な純愛少女漫画だ。キャンプファイヤーの時は適当に流してしまったが、山田が今ハマってる漫画って少女漫画だったのか!?
でもせっかく持ってきてもらったのに「いや、少女漫画は読まないんで……」とは言えん。高瀬との約束もあるし、ちゃんとプロファイリング捜査しないとな……。
「あ、ありがとう。でも、なぜ登校時間に?」
「今日、早退だから図書室行けないんだ」
「そうか……」
「めちゃくちゃ面白いんだよ。主人公が健気でね。途中で「ネタバレやめろ」あっごめん……」
時間は過ぎて、昼休み。
山田は仕事のため時々早退したり休んだりする。
別に残念に思うことは無い。図書室に山田が来ないことだって……あれ? 最近あったっけ?
「いやいやいや、(山田が僕に会うためにわざわざ図書室に来ているとか思うのは)さすがに自意識過剰すぎる」
「何が自意識過剰すぎるの?」
え? なぜ山田がここに? 今、思考を台詞にしていたら即死するところだったぞ?
「早退だろ!?」
「ちょっと寄ってみた」
じっと見つめる視線の先には、僕の読むグロ小説。
「あ、君オクじゃない!」
「えっ……いや……漫画は家で読む派だから……」
「今 読んで!」
「ちょ……やめ……」
本を引っ張ろうとする山田を、咄嗟に引っ張り返す。その結果。
ぽす。
山田に一瞬抱き着かれ、顔に胸が当たる形になった僕は、思わずヒュッと息を止めた。
「ごめん」
「ごめんね」
山田が謝っているが、ぜんぜん頭に入ってこない。
「ごめんね」
「あ、もう行かなきゃ」
あ、山田が行ってしまう。
「あっ……あの……」
あれ? 何で呼び止めた? 特に呼び止める理由なんて……。
「明日は……学校来る?」
は?
何聞いてんだ僕は。
「うん。行く。図書室も行く、絶対」
とびきりの笑顔で応える山田。
拝啓 高瀬。山田が僕に会うためにわざわざ図書室に来ているとか思うのは間違っているだろうか。