僕ヤバ世界のヤバイやつ   作:クラゲ大好き侍

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僕は祝った

 9月10日から行われる期末試験。いわゆる国語・数学・理科・社会・英語の5教科に加え、副教科と呼ばれる音楽・美術・保健体育・技術家庭の4教科が加わり、全9教科となる。当然ながら、範囲が広い分、きっちり勉強を進めないといけない。

 

 期末試験の前の週から試験中にかけては昼休みや放課後に図書室に行けない事は山田には伝えてある。

 その代わりに、帰りに合流することが多くなった。LINEで待ち合わせ場所を指定して、そこで落ち合う感じだ。

 

「と、途中まで一緒に帰ろ」

 

 山田のほうからそう言ってきたのには驚いた。自転車を押しながら色々喋り、ゆっくり帰る時間は、嫌いじゃない。

 

「テスト、いけそう?」

 

「今回は学年1位を目指す。でも満点連発の高瀬に勝てるかは分からん……」

 

「そ、そっか」

 

「あ、山田から借りた『君オク』もちゃんと読んでるから」

 

「え? テスト勉強は?」

 

「テスト勉強しながら、君オクも読んでる」

 

「市川は器用だね……」

 

 

 

 

 迎えた期末テスト初日。いい感触で国語その他のテストを終え、今日もまた帰りに合流する。

 今日が9月10日だ。誕生日プレゼントを、ちゃんと渡さなくては。

 

 無言で帰り道にある自販機に硬貨を入れ、ガコンと出てくる飲み物。

 

「市川も買い食い? 珍しいね!」

 

 何かを誤解している山田に向き合う。

 

「えーと、これは漫画を貸してくれたお礼というか……いや、違うか。誕生日おめでとう」

 

 紅茶花伝。女子に人気の、ド定番の飲み物だ。

 なんかちょっと前に「ミルクティーが飲みたい」とか言ってたのを聞いた気がするのでチョイスした。

 

「……」

 

 反応が無いな。実はあんまり好きじゃないとか……? やらかしたか……?

 

「……あ、ありがとう……市川」

 

 山田を見ると、顔どころか耳まで真っ赤にしている。

 

「あの……誕生日だって言ってなかった気がするんだけど」

 

「偶然インスタのプロフィールで誕生日を見て」

 

「偶然……」

 

「誕生日今日だなって思って」

 

「うん……」

 

「だから、ミルクティー」

 

 うん。全く付け入る隙のない、自然な理由だ。

 

「そ、そうなんだ……」

 

「飲めば?」

 

「あ、えーと、今は喉が渇いてないから……」

 

「そっか。じゃあ、家で飲むといい」

 

「あ、うん。そうだね……大事に飲むね……」

 

 以下は高瀬に言われて検索してみた結果だが――

 

 紅茶花伝の名前には、紅茶と花の自然な結び付きが込められている。有名な「能」の書物である「風姿花伝(ふうしかでん)」をもじって付けられた名前で、花伝には、四季折々の花を通じて、時の移り変わりを感じとるという意味が込められているのだという。

 

 また花伝書にはこうある。「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」

 

 僕が山田を好きだという気持ちは、まだ秘密だ。でもそれが秘密のままだからこそ、誕生日プレゼントがサプライズになる。

 

 僕はいつか山田に()()を伝えられるようになりたい。

 

 でも、それとは関係なく、今の僕は純粋に、山田の誕生日を祝うのだった。

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