一年の間に色々ある学校行事。その中のメインイベントともいえる存在感を放つもの。それが文化祭だ。
クラスの出し物は色々な案が出たが、GoogleMapを情報処理室で印刷し、皆で貼り合わせて作る巨大な航空写真もどきという無難なものに落ち着いた。
地味と言えば地味だが、前日に準備が終われば、他のクラスの出し物を見て回る余裕が出来るのが良い点だ。
この案でほぼ決まりになるかと思いきや、山田たち女子のイツメン(いつもの面子の略)が、思わぬ変化球を投げてくる。
「画用紙を丸めて作った指人形に、似顔絵を描いてさ、自分の家のところに置いて行こうよ!」
「萌もそれいいと思う!」「なんか楽しそうだな」「いいねー!」
文化祭実行委員の俺こと高瀬ライトは、中学生の柔軟な発想を舐めていたらしい。この案はなかなか面白いことになる可能性を秘めている。
だが、文化祭副実行委員の市川は、山田の家バレについてかなり心配しているようだった。そこで俺は発言する。
「うん。すごくいい案だと思う。自宅に置きたい人は置いて、置きたくない人は……そうだな、いつも登下校してるルートに配置するとかどうだろう」
「な、なるほど。じゃあ、自宅か登下校ルートに配置するということで、問題なさそうなら採用で!」
市川がほっとした表情でこっちを見てきたので、軽く頷いて返す。
「やったー!」
山田は自分の案が採用されたことを素直に喜んでいる。あとは市川が、芸能人である山田の家バレ問題についてクギを刺しておけば大丈夫だろう。
文化祭当日。
中学二年生のナンパイこと、南条ハルヤは、目黒区一の美人である山田杏奈にアタックをかけようとして、阻止されていた。
ディフェンスに定評のあるばやしこが、山田の前面をガード。次いで、山田の右を関根が、山田の左を吉田が固める、堅牢な布陣。
写真は1人1枚まででお願いしますー。終わったら退いてくださいー次が控えてるんでー。と交通整理するばやしこは、かなり頼もしい。
半ば押し出されるような形でクラスの中に入ったナンパイ。
「こちらの展示物は航空写真もどきになります。クラスの皆の指人形も置いてあります」
市川の案内を聞いて、目当ての家の場所が分かると思ったのか、床に広がる巨大地図をまじまじと見るナンパイ。
「へー。山田さんの指人形はどこかな?」
「ここですね。ここがよく山田が買い食いするコンビニです」
市川の呼び捨てに気付いたのか、ナンパイが顔を上げる。
「そういう君は……?」
「山田と同じクラスの市川です。俺の指人形はここ。いつもこのへんを登下校しています」
「ふーん……」
市川を値踏みするかのように、じろじろと眺めるナンパイ。そこに「あ、市川!」と声がかけられる。
「ずっとそこで応対するの大変じゃない? 変わろうか?」
「山田がここにいたら人だかりになるだろ……」
「あ、それもそうか! じゃあ、また後でね」
ごく自然にお互いを呼び捨てにし、親しげに話す市川と山田に、脳が破壊されたのか、ナンパイは作り笑いを浮かべる。
「山田さんと仲いいんだね。連絡先とか知ってたりする感じ?」
転んでもただでは起きないナンパイ。あらゆる手段で目当ての女子に近づこうとするものの――市川はブレない。この手の状況は事前にLINEで想定、対策済みだ。
「山田は芸能人なので、ノーコメントということで……」
「変わろうか?」
俺が声をかけると、「すまん助かる」と言って市川はその場を離れる。
「山田さん、クラスの男子と仲良いんだね」
「いや、山田さんは基本的に男子とは距離置いてますね。たぶん市川が例外なだけです」
「え……そうなの?」
ナンパイが意外そうに目を見開く。原作知識を持っている転生者である俺は、ナンパイがこの後、何をして、どうなるかをおおよそ知っている。だが、それを言うのは野暮というものだ。
「俺は学年1位の高瀬です。勉強面では学年2位の市川のライバルをやってますけど……市川はなんというか……『強い』ですよ」
俺はふふん、とドヤ顔をキメる。
ナンパイは市川が出ていった出入り口を眺めて「学年2位の……市川くんか……」と、噛みしめるように口に出していた。