10月を過ぎ、冬服になってからしばらく経つ。高瀬が言うように、自分から行動を起こさなければ、山田とは疎遠になってしまうのかもしれない。そんなのは嫌だ。
「と、途中まで一緒に帰ろ」
「りょ」
山田のほうからLINEが送られてきた、ある日。僕は、自転車を押しながら、山田とゆっくり歩調を合わせる。
すると、当然の権利のようにコンビニに寄り道する山田。まったく、また買い食いか? 山田はいつも山田だな……。
「じゃーん!!」
ドヤ顔で女性向けファッション誌を広げる山田。
そういえば今月号はまだ買っていなかったので、そのまま流れるようにファッション誌の会計を済ませる。こういうとき
どうやら見せびらかすだけで買わせるつもりはなかったのか、ちょっと赤面してあわあわしている山田に、僕は、小さく、
「仕事、好きなんだな」
とだけ声を掛けた。
「……! うん!」
そのあと、モデルの仕事の話になり、やたら饒舌になった山田と、たどたどしい会話のキャッチボールを続けながら、思う。
山田はやはり別世界の人間なんだ。僕なんかが手を伸ばしても――
「ねえ、何考えてるか当ててあげようか?」
「?」
「イソップ童話の、すっぱいブドウの話。賢いキツネは、何度かチャレンジするんだけど、結局ブドウを諦めちゃう。捨て台詞は『どうせすっぱいブドウだったんだろうさ』」
「? な、何を言って……」
「あのブドウって、美味しかったのかな? 誰にも取れないように育てられてたなら、やっぱりおいしい品種だったのかな?」
「それは、ただの寓話なんだから、美味しいか美味しくないかなんて……」
「でも市川は、人間だから、きっと
僕は人間だから。諦めの早いキツネじゃないから。
「ダメかな? ダメだよね……。なんだか、変だよね……今日の私……」
「別にダメではない。山田はいつも変だから、たまにはこういう哲学的な話をする日があってもいい」
「……え?」
「山田のこと、もっと知りたい」
その日、僕は、
その日の夜。山田杏奈の住むタワマンの一室にて。
「今度の撮影に、連れていきたい人がいる?」
「うん。ママと、マネージャーの
「いいんじゃない? 確か初めてでしょ、お友達の中で、杏奈ちゃんのお仕事内容に興味持ってくれた人」
「うん! 市川だよ!」
「……市川くん? 確か、自由研究を一緒にやった、男の子よね?」
「そうだけど?」
「杏奈ちゃんの目の前でファッション誌を普通に購入したのよね?」
「そうだよ?」
「あのファッション誌、け、結構高くなかった?」
「あ……高かった気がする……でも私が止めようとする間もなく買ってて……ぜんぜん迷いが無くて……」
「じゃあ、きっと杏奈ちゃんのファンなのね! 撮影に連れてってあげたら喜ぶんじゃないかしら?」
「……うん!」
かくして、目黒区の夜は更けていく。
祝・9000 UA突破!