僕ヤバ世界のヤバイやつ   作:クラゲ大好き侍

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僕は梯子を使った

 10月を過ぎ、冬服になってからしばらく経つ。高瀬が言うように、自分から行動を起こさなければ、山田とは疎遠になってしまうのかもしれない。そんなのは嫌だ。

 

「と、途中まで一緒に帰ろ」

 

    「りょ」

 

 山田のほうからLINEが送られてきた、ある日。僕は、自転車を押しながら、山田とゆっくり歩調を合わせる。

 すると、当然の権利のようにコンビニに寄り道する山田。まったく、また買い食いか? 山田はいつも山田だな……。

 

「じゃーん!!」

 

 ドヤ顔で女性向けファッション誌を広げる山田。

 (のぞ)き込むと、そこにはいつもと違うモデルとしての山田杏奈の姿があった。クールな顔をして、大人びて、でも、それも山田の一側面でしかなくて、僕はいつも分からなくなる。

 そういえば今月号はまだ買っていなかったので、そのまま流れるようにファッション誌の会計を済ませる。こういうとき高瀬の家(たかせんち)でのバイト代が役に立つ。

 どうやら見せびらかすだけで買わせるつもりはなかったのか、ちょっと赤面してあわあわしている山田に、僕は、小さく、

 

「仕事、好きなんだな」

 

 とだけ声を掛けた。

 

「……! うん!」

 

 そのあと、モデルの仕事の話になり、やたら饒舌になった山田と、たどたどしい会話のキャッチボールを続けながら、思う。

 山田はやはり別世界の人間なんだ。僕なんかが手を伸ばしても――

 

「ねえ、何考えてるか当ててあげようか?」

 

「?」

 

「イソップ童話の、すっぱいブドウの話。賢いキツネは、何度かチャレンジするんだけど、結局ブドウを諦めちゃう。捨て台詞は『どうせすっぱいブドウだったんだろうさ』」

 

「? な、何を言って……」

 

「あのブドウって、美味しかったのかな? 誰にも取れないように育てられてたなら、やっぱりおいしい品種だったのかな?」

 

「それは、ただの寓話なんだから、美味しいか美味しくないかなんて……」

 

「でも市川は、人間だから、きっと梯子(はしご)を使うよね。そしたら、味も分かるんじゃないかな……なんて……」

 

 僕は人間だから。諦めの早いキツネじゃないから。

 梯子を使っても(ズルをしても)……いいのか? 寓話の前提をぶち壊して、高望みしても……いいのか?

 

「ダメかな? ダメだよね……。なんだか、変だよね……今日の私……」

 

「別にダメではない。山田はいつも変だから、たまにはこういう哲学的な話をする日があってもいい」

 

「……え?」

 

「山田のこと、もっと知りたい」

 

 その日、僕は、梯子を使って(少しだけ勇気を出して)、ブドウに手を伸ばしてみた。

 

 

 

 

 その日の夜。山田杏奈の住むタワマンの一室にて。

 

「今度の撮影に、連れていきたい人がいる?」

 

「うん。ママと、マネージャーの諏訪(すわ)さんの許可を取ってからだけど……」

 

「いいんじゃない? 確か初めてでしょ、お友達の中で、杏奈ちゃんのお仕事内容に興味持ってくれた人」

 

「うん! 市川だよ!」

 

「……市川くん? 確か、自由研究を一緒にやった、男の子よね?」

 

「そうだけど?」

 

「杏奈ちゃんの目の前でファッション誌を普通に購入したのよね?」

 

「そうだよ?」

 

「あのファッション誌、け、結構高くなかった?」

 

「あ……高かった気がする……でも私が止めようとする間もなく買ってて……ぜんぜん迷いが無くて……」

 

「じゃあ、きっと杏奈ちゃんのファンなのね! 撮影に連れてってあげたら喜ぶんじゃないかしら?」

 

「……うん!」

 

 かくして、目黒区の夜は更けていく。




祝・9000 UA突破!
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