午前中の休み時間。
「あー、彼ピ欲しいー」
「最近萌ちゃんそればっかりだな……」
教室内で関根がまたいつもの台詞を言い、吉田が呆れている。
そして、小林の上に座る山田。いつもの女子たちの光景。
「そういやイッチ、今週あたり三者面談あるじゃん。成績とかどうよ?」
関根から突如振られた話題。
「が、学年2位はキープしてるし小テストの結果も悪くないが、逆に言うとそれだけだな。あ、あんまり積極的に授業には取り組めてはいない。体育は見学に回ることも多いし……」
そう。地獄の三者面談……。母さんが学校に来て、担任の先生と話す……。そういうイベントだ。
あれ? じゃあライバルの高瀬は? 気になって視線を向けると。
「ん? 市川。心配しなくても大丈夫だぞ。三者面談には父さんが都合付けて来てくれるらしいから、俺のことは気にするな」
「あ、ああ」
でも、僕には分かる。口では強がっているが、高瀬が大丈夫じゃないときの表情をしているから。
僕は忘れていたんだ。三者面談に母親が来るということ。それ自体が、環境に恵まれている証拠なのだということを……。
放課後。
「あ、市川のお母さんだ」
廊下にある待ち合いの椅子。柱の陰から出ようとしたところで、山田の声が聞こえる。
山田の「や」と市川の「い」……。普通、名字の順序的には一緒にならんだろ……。なんでこうなった……!?
「山田杏奈の母です」
キリっとした教育ママ的な姿を見せる山田母に対して、
「市川京太郎の母です」
特におめかしもしていない普通の母さん。き、気まずい……。ご、合流しづらい……。
柱の陰に隠れて、僕は親同士の遭遇をやりすごす。
「それにしても京ちゃん遅いわね……」
「そこの柱の陰に隠れてたりして!」
山田!! なんでそこで的確に僕の行動をトレースしてくるんだ!! ますます登場しづらくなるじゃないか!!
「次、山田杏奈さん」
「あ、呼ばれたので行ってきます!」
山田と山田母が呼ばれた直後、僕はスッと柱の陰から現れ、着席する。
「あら、京ちゃんホントに柱の陰に居たのね……」
「やめてくれマジで恥ずかしい死ぬ」
そしてしばらくして呼ばれ、始まる地獄の三者面談。
「まず、市川京太郎くんは、非常に良い成績を維持しています。授業の予習復習もしているようですし、そちらについては心配していません。
体育は苦手で、見学に回ることもあるようですが、得意なことと苦手なことがあるのは普通のことです」
「はい」
「ですが、これだけは言っておきたい。市川京太郎くんには、いつも助けられています」
先生はいったんそこで言葉を区切る。
「というと?」
母さんが身を乗り出して訊くと、
「数年前に母親を亡くしたばかりの、高瀬ライトくんの良きライバルとして、同じ部活動の友人として、心の支えになってくれている。これはなかなか出来ないことです」
先生が僕をほめる。
「た、高瀬のほうこそ、僕の心の支えになっています。ライバル宣言をされたのは高瀬からですし、林間学校に行くように強く勧めてくれたのも高瀬です」
「それでも、です。どんな事情があっても、クラスメイトと対等に接することができる。それだけでも、とても立派なことです」
「僕は……ライバルの高瀬と、これからも切磋琢磨していきたい。それだけです」
「京ちゃん……」
ここまでは褒められてばかりだが……これはあれか? 上げて落とすパターンか?
「また、最近の市川京太郎くんは、具体的に誰とは言いませんが、別のクラスメイトともよく会話するようになってきています」
や、山田のことか~~? 先生には全部筒抜けか~~??
「担任の私としては、市川京太郎くんに『学校に行くのが楽しい』と思ってもらえるなら、本人にとっても、他のクラスメイトにとっても、良い影響があるのではないかと思っています」
確かに、最近の僕は学校が楽しいと感じている。それは高瀬が居て……山田が居るから。
もっというなら、恋というものを知ったから。
「が、頑張ります」
そして、地獄の三者面談は終わった。
「京ちゃん、高瀬くんと仲良くやれてるみたいね。別のクラスメイトっていうのも気になるけど……もしかして女の子かしら?」
「学校でそういう話をするな! 恥ずかしいだろ!」
「恥ずかしいってことは女の子なのねー。あらあらうふふ」
「誘導尋問よくない!」
そんなやりとりをしていると、下駄箱の前にいる山田が目に入った。振り向いた山田と目が合って。
「あ、市川! また明日ね!」
「お、おう」
隣に母さんがいるにも関わらず、僕は山田の笑顔に
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