11月に入り、冬の制服でも寒くなってくる季節。その朝。
僕は自転車を押しての登校中、でかい山田が誰かと一緒に歩いているのを発見する。
上級生……2年生か? チャラそう……あ、でも文化祭で会ったような気もする……。
僕はそれを見て一瞬「彼氏か?」と思うも、どうも様子がおかしい。
「――いつもは友達と何で連絡取ってるの?」
「テレパシーで……」
「山田さんって面白いね。ねぇ、LINE教えてよ」
そこには山田の腕を掴み、しつこくLINEを聞き出そうとするナンパ先輩、略してナンパイがいた。
僕は自転車をその場に止め、二人に駆け寄る。
「ちょっとナンパはやめてもらっていいですか」
「君は……学年2位の市川くんか」
僕はナンパイに名前を知られていることに驚く。
「俺、好きな女性を口説いているだけなんだけど。何か問題でも?」
ストレートに言われ、僕は迷った。どう切り返せばいい? どうすれば山田は助かる? 頭がフルスピードで回転する。
山田のほうを一瞬、見る。
「これは一般論ですが、好きな女性を泣かせるのは良くないです」
「……ッ!」
痛いところを突かれ、山田を見るナンパイ。確かに目元には涙が浮かんでいる。
「山田を泣かせる権利なんて誰にも無いですよ」
「……そうだね。その通りだ。ごめんね山田さん」
カバンを背負い直し、学校のほうへ一人歩き去っていくナンパイ。せ、先輩との言い合いに勝った……。
「あー!山田!どうした!泣きそうな
遅れて現れた小林が、僕らに声を掛けてくる。
「あ、いや、これは違くて!」
僕が釈明しようとすると、その言葉を引き継ぐように、
「2年生にナンパされてるところを、市川に助けられたんだよ」
山田がエッヘンと胸を張ってフォローした。
「そうなのか……やるじゃん市川くん!」
「えぇ……まぁ……」
「やっぱりなんか、ふにゃふにゃしてんなー」
小林が僕をクラゲか何かのように言う。一応、その自覚はあるんだが、陰キャムーブはそう簡単には直らないんだよ……。
山田は僕に、小さく声を掛けた。
「市川には助けられてばっかりだね……」
「ま、まだ二度目だろ」
小声で話していても、小林には筒抜けだったようで。
「二度目って、前にもこんなことあったのか?」
「えっと、夏祭りの時にナンパされ「言うな!」」
小林のツッコミに答えようとする山田に、僕は声を被せる。
いま思い返すと、あのときは我ながら恥ずかしい台詞を言った気がする……「山田は俺のだ!」って何様だよ……山田から借りてる少女漫画じゃないんだぞ! 赤面した僕は、前を向いて、学校までの道を自転車を押しながら歩くのだった。
その後、情報処理部の部活中に高瀬にこの話をすると「自転車は無事だったのか!?」と意味不明なリアクションをされた。自転車は関係ないだろ……。