朝のタワマンの16階。前回の自由研究のときは山田に案内されて入ったから、インターホンを押すのは、これが初めてだ。
インターホンを前にして、僕は一瞬ためらう。
……本当に押していいのか? いや、呼ばれたんだから押すのは当然なんだが。これじゃ、高瀬の家のインターホンを押せなかった山田を笑えないな。
僕の指がボタンに触れ、軽く押し込む。
ピンポーン。
「市川京太郎です。漫画を借りに来ました」
しばしの静寂。鼓動が少しだけ速くなる。
「市川! 入っていいよ!」
開錠されるドア。大人びた服装の山田の姿。玄関で靴を脱ぎ、廊下の突き当り、リビングへと向かう。
「あれ? ご両親は?」
「今日はパパとママはいないよ?」
え?
僕の思考が一瞬止まる。
いや、ダメだろ!?
両親が居ない家に男を上げるな!! 何か間違いがあったらどうする!!
「山田……今度は親がいる時に呼んでくれ」
「え? それって親への挨拶……的な?」
「いや、それもあるが……僕も男なんだから多少は警戒心を持ってくれという意味だ」
「そ、そっか。じゃ、そこで待ってて。卒アル持ってくるね」
卒業アルバム開示タイム……。躊躇が無いのは強者の余裕か、山田だからか……。たぶん山田だからだな。
「じゃじゃーん」
山田は卒業アルバムを胸の前で持ち、得意げに笑っている。
「さて、私はどこでしょう?」
ウォーリーを探せか??
嬉しそうにページをめくる山田。本人は余裕の表情だが、こっちはそれどころじゃない。小学生時代の山田……? いったいどんな感じだったんだ?
「これだろ」
周囲から浮いている山田の完成度よ。
「ここと、ここと、あと、ここ」
「……すぐ見つけるなあ」
あっ。キモい動きだったか? そう思って固まっていると耳元で山田が囁いた。
「……今度は市川の卒アルも見せてね?」
僕が赤面して倒れていると、ふと視線を感じた。
ん?
視線の先には……茶色い毛並みの小さな犬が、じっとこちらを見つめている。
え、犬!?
次の瞬間――
「ワンワンワンワン!!」
「うわっ!!」
至近距離で吠えられ、思わず仰け反る。
「わん太郎、ふせ!ふせ!」
「ワフーン!」
伏せの姿勢を取る犬。
「こちら、わん太郎。犬だよ」
犬なのは見てわかるだろ……。
「えっと、ずっと『ふせ』させておくのも可哀想だし……部屋、いく?」
「ああ……」
何気なく答えたものの、言葉の意味を理解した瞬間、再び僕の思考が止まった。
部屋……って、まさか……山田の……!?
脳内で警報が鳴り響く。心拍数が上がる。
いや、待て待て待て!! 女子の部屋って、男子が入っていいものなのか!?