女子の部屋に……入ってしまった……。
僕はちょっと現実離れした状況にキョドりつつも、山田の部屋を無意識に観察してしまう……。
ふわっと甘い香りが鼻をくすぐる。フローラル系の柔軟剤か、それとも山田自身の香りか……。
目をやると、ベッドの壁側には大小さまざまなぬいぐるみが並んでいる。クマ、ウサギ、キャラクターもの……。
壁際にはおしゃれな本棚があり、ファッション誌らしきものがぎっしり詰まっている。
「じゃあ、君オクの話しよ!」
そ、そうだった。今日の主題はあくまで君オク。山田にはやましい気持ちなど一片も無いに違いない。
山田のベッドに座り、君オクの感想を述べあう僕と山田。
「ヒロインの咲良は、濁川くんのどこが好きになったんだろうな?」
前から山田に訊きたかったことを訊いてみる。
冷たくてぶっきらぼうだけど――実はすごく優しくて――たまに可愛くて――不器用で――そんな奴いるわけないだろ!! と思いつつ、そんな奴が山田のタイプなのか? と、考えて悶々としていた時期もあった。
「私が思うに、猫みたいなところじゃないかな?」
「猫?」
「近づきすぎると離れて、でも離れると近づいてきて。そういうところが、猫っぽいかなって思った」
「なるほど。確かに作中で明言はされていないが、濁川くんは猫っぽい属性がある気がするな」
「それで、『ウロチョロウロチョロ……俺の事好きなの?』の台詞とか、けっこう序盤から咲良の好意を見抜いているようでいて、恋愛のほうはなかなか進展しないんだよね」
まあ、そのくらいで恋愛が進展していたら作品が終わってしまう……いやこれはメタい発言か。
「濁川くんは、怖いのかもしれないな」
「怖い?」
「『自分を好きになる奴がいるわけない』って思い込んでるような気がした。クールぶっているようで、そこだけは一貫しているというか……」
「そんなことないよ!!」
「何が?」
「……」
ふっと、会話が途切れる。
部屋の中に、時計の針が動く微かな音が響く。
山田は何かを言いたげに僕を見て、僕はその視線を受け止めきれず、視線をそらす。
女子の部屋での沈黙……非常に気まずい……。
何か……何か話題は……。必死に視線を巡らせると。
「あ、あれはデートの時にあげたぬいぐるみ……」
何で気付かなかったのだろう。ぬいぐるみ中央に、見覚えのあるぬいぐるみが紅茶花伝を持って座っている。
「あっ。ダメダメダメダメ!!」
山田が急に身を乗り出し、視線を遮ろうとする。ぬいぐるみ――山田――僕という構図になっているから元々あまり視線は通っていなかったが、山田が焦った結果、姿勢を崩し……。
どん。
僕は、山田に、ベッドに押し倒されていた。
「こ、これは……じ、自由研究の時の、仕返し……」
僕は顔を真っ赤にした山田の言い訳を聞きながら、冷静に思考する。
あのとき僕が見られたくなかったのは、山田が載っているファッション誌だった。
じゃあ、今日の山田が見られたくなかったものとは?
僕があげたぬいぐるみが、僕があげた紅茶花伝を持っているところ……????
ぐいっと、山田の身体を引っ張る。
軽く山田をベッドに倒し、今度は僕が上になって、逆にベッドに押し倒す形になる。
「え!!??」
いともたやすく体勢が逆転したことに、山田は驚いているようだった。
「俺も男子なんだから、あ、あんまり信頼しすぎるな……間違いが起こってからでは遅いんだぞ」
「でも、私は……市川が優しいの、知ってる……」
それを聞いて、僕は山田の上から身体をどけて座り直し、はー、とため息を吐く。
やはり山田は男子のことを何ひとつ分かっていない。
「男子には、欲望を前にして、理性が
「そ、そっか……気を付けるね……」
改めて、二人で山田のベッドに座る。
ん……あれ?……どうして僕が山田に説教しないといけないんだ?