「親父には悪いけど、俺は再婚には『条件付き賛成』だ」
「ライト……」
クリスマスイブの昼。俺がリビングで言い放つと、親父と再婚相手の女性が、同じように困惑の表情を浮かべた。
当然だろう。中学一年生がそんなことを言い出せば、大人からすればただの生意気なガキのわがままに聞こえるはずだ。
けれど、俺の中身は違う。
「条件は2つ。『親父が再婚相手と相思相愛なのを認める代わりに、俺の精神年齢が30才になっていることを認めること』。『家計は二分割して、家事の半分は引き続き俺が受け持つこと』」
「子供の本分は勉強と部活動だろう……」
親父の低い声が響く。俺の言葉を真正面から否定するわけではないが、その言い方には明らかに「お前はまだ子供だろう?」という含みがあった。
実際、親父からすればそれが「普通の考え」なんだろう。
親父の言うことは分かる。
もし、俺が「本物の中学一年生」だったら、再婚相手に家計と家事を任せて、勉強と部活動に専念するのが正解なのかもしれない。
けれど、こちとら精神年齢30才の転生者である。
たかが部活のために、生活環境を完全に他人に委ねるなんて選択肢は、俺にはありえない。
さらに言えば、今の俺は情報処理部で市川との会話を楽しむ身である。マジで邪魔をしないでほしい。
「前者は絶対だけど、後者は様子を見て割合を多少変動させてもいい。そこまでは譲歩する」
「ライトは……本気で自分は30才だと言い張るのか?」
「そうだ。それを信じられないなら、俺もそっちを信じることはできない」
沈黙が落ちる。
もちろん、これは詭弁だ。
普通、中学生が親の再婚に口を挟めるわけがない。たとえぎこちなくとも、時間が経てば再婚家庭に馴染んでいく――それが一般的な「家族」の形なのだろう。
けれど、俺の事情は違う。
いきなり「第二の母親」が生えてきても、俺の感覚では完全に「知らない他人の女性」である。
どう接すればいいのか分からないし、下手に馴染もうとするのもキツい。
生理的な拒絶感すらある。
学校では我慢してるが、子供扱いされると、正直ゾワっとくるんだよ。
「医者が言う、PTSDとかトラウマとかではないんだな?」
親父の視線が鋭くなる。
まるで、息子の異常性を見極めようとするかのような目だ。
「ああ。これは薬を飲ませても改善はしないよ」
「少し、いいかしら」
再婚相手が口を開く。
「意見があるなら、どうぞ」
俺は再婚相手を見つめる。優しそうな眼だ。だが、優しいだけでは「母親」にはなれない。
「前のお母さんは、どういう人だったの?」
予想外の質問だった。だが考えてみれば当たり前の質問だった。
俺は一瞬、考え込む。過去の記憶を掘り起こしながら、慎重に言葉を選ぶ。
「別に。普通だったよ」
「普通?」
「ああ。テストで満点を取ればほめてくれたし、バスケを頑張ればほめてくれた。悪いことをしたり、しそうになったら叱ってくれた」
「……私は、信頼されてないということ?」
「いや、そうではなくて……」
一呼吸置く。
ここで、誤魔化しの言葉を並べても仕方がない。
「一般的に言って、30才の人間が他人を100%信頼することは無いよ。反抗期とかじゃなくて、もう心が子供では無いんだ。上手く行っても、せいぜい80%の信頼度だと思う」
静かな空気が流れる。
冷たい言葉だ。でも、俺の本音だった。
「もしこの再婚に変な希望や、普通の家庭への憧れを持っているなら、それは捨てて欲しい」
「……」
「確かに俺は客観的には頭がおかしくて、変なんだろう。でも、俺はそれを受け入れて、必死に生きてるんだ。『優しさ』を押し付けて、否定を、しないで欲しい」
再婚相手の表情が曇る。
彼女は何かを言いかけたが――結局、何も言わなかった。
そうだ。時には、沈黙が最良の答えになることもある。
父さんの再婚話があるせいで、ばやしことのクリスマスイブイベントが消し飛んでいますが、高瀬は大人なので血の涙を流しながら耐えています。