夕方になり、山田と別れて帰り道を歩く。僕の手は、まだジンジンと熱い。
「なぜ陰キャの僕なんかと……」
いや、分かってはいる。クリスマスイブ前日に関根の魂の叫びを聞き、自分も誰かと一緒にクリスマスイブを過ごしたくなった山田。
さりとて、周囲には気の許せる男子はおらず、たまたま知っていた僕のLINEに連絡を入れた……そう考えるのが自然だ。
「――本当にそうか?」
僕の心のもやもやが実体化し、濁川くんの形になり、少女漫画のようなセリフを吐く。
「山田にとっての一番は、市川京太郎なんじゃないか?」
そうであって欲しいという願望は、そうであるという現実にはならない。
山田は顔が広い。芸能界デビューもしてる。僕よりも魅力的な男なんて星の数ほどいるはずだ。
「手を握り返してきた山田は、嘘か?」
違う……山田は……そんな嘘をつくやつじゃない。
「だったら、信じてみてもいいんじゃないか? 山田との可能性を」
「僕は……っ!」
振り向くが、そこには誰もいない。当たり前だ。心の中で自問自答していただけなのだから。
気付くと、家の前に着いていた。玄関のドアを開ける。
「メリークリスマス!京ちゃん!」
おねえが作り物のトナカイの角をつけている。ハロウィンかな?
「お母さんさっきねー」
「やめろ!」
咄嗟に姉を制する僕。イジられるのは苦手だ。それも山田絡みとなると、苦手中の苦手だ。
「えー。これ言っちゃダメなやつ?」
「ダメだ。記憶から消去しろ」
断言して、僕はテーブルにつく。ホールケーキ。山田は三等分して食っているのか、あるいは四等分して二個食っているのか。たぶん後者だな。
「京ちゃん、ケーキ切ってくれるかしら」
母さんが、僕に大役を任せてくる。
いや、というかアレか? 一年前まで「一番大きいやつを食べたい」とか言ってた食欲全開のピュアボーイだった僕に配慮して、好きな大きさに切っていいよという意味で言ってるのか? まわりくどい優しさ……。
「もう中学一年生だから、普通に切るよ」
素直に、四等分する僕。
「パンパカパーン♪ パンパカパーン♪」
「それは結婚式のやつ!」
このボケとツッコミがやりたかっただけかよ!!
「じゃあメリークリスマスのチョコのプレートは京ちゃんにあげるね。私はこのサンタのやつをもらおうかな」
反抗期だからか、姉のちょっとした気遣いにもイラっとしてしまう。まあチョコは好きだが……。
「……山田は二個食ってそうだな」
思わずぼそっと呟いてしまった僕は、しまったという顔をする。
「こんなときまで杏奈ちゃんのことを考えて……これが本物のラヴってやつか……」
汗を拭うおねえ。ニコニコする母さん。無表情のようでいて、どこか機嫌のいい父さん。
直接イジられはしないが、地獄のクリスマスが幕を開けた――。