12月31日。僕は拉致されていた。
まず、高瀬がなぜか深夜に最寄りのコンビニに来ていて、「レッドブル飲みながら一緒に年越しジャンプするか?」という馬鹿話をしたのが25分前。相変わらずハイテンションな感じの高瀬。
次に、山田から「今日はにゃあの家でお泊り会!」というLINEが来たのが20分前。お泊り会……女子にしか許されない聖なるイベント……。
最後に、
そして現在。関根と高瀬と間宮先輩とナンパイとウェイが居るファミレスで、僕はなぜか、逃げられないよう関根と高瀬の間、中央に座らされている。
「そういや、3人は同じクラスだっけ」
正面向かいのナンパイがジャブを放ってくる。
「そーだっけ?」「そうですね」
関根がとぼけるが、高瀬が肯定する。
「あーー。そーいえば、山田さん何してるかなーーーー」
あ゛? そういう話か?
「またその子の話?」「好きだなー」
「いや、市川くん仲良いんスよ……ね?」
ナンパイの視線が僕に突き刺さる。
間違いない。ナンパイは、僕を囮にして、山田に近づこうとしている。
「……」
「山田さんのLINE知ってたりする?」
「……」
ぴろん。タイミング悪く、スマホが鳴る。
「やまだあんな」
画面に浮かび上がる文字を見たナンパイの顔が、興味深げに歪む。
「なんだ知ってるじゃん」
「山田さんのLINE教えてよ」
「……嫌です」
僕ははっきりとした声で答えた。
「なぜ?」
「……ちょっと前までなら、『山田に迷惑がかかるから』とか、そういう言い訳染みたことを言ってたかもしれません。
でも今は、単純に俺がムカつくからです」
「何に対してムカつくのかな?」
ナンパイの表情がわずかに険しくなる。
「自分の弱さに対してです」
大きな声を出す僕に、関根がビビる。
「ちょっとイッチ……」
「俺はまだ中学一年生で、文化部で、もし先輩方と殴り合えば一方的に負けるでしょう。正直ビビっています。そんな自分の弱さにムカついています。
山田を守らなきゃいけないのに、逆に自分が山田の弱点になってしまっている――こんなに自分にムカついてるのは初めてです」
「ふうん」
「だから絶対に教えられません」
「……」
関根が、ちらりとこちらを見る。
「萌、このあとお泊り会行かなきゃいけないんだけど……ちょっと夜道怖いから送ってってよ、市川くんと高瀬くん」
「あ、それなら俺が――」
「いや、大丈夫です。うちら、
「はー、先輩とフラグ立てられるかと思ったけどベキベキに折れた……」
「間宮先輩も居たし、元から立たなかったんじゃ?」
高瀬が茶化す。
「正論パンチやめーい!」
関根がツッコミを入れる。
「まあ、一回先輩にはガツンと言っといたほうがいいかもねー。まだ先輩も2年生なわけだし、素直に杏奈のこと諦めてくれそうにないし」
「ああ……ちゃんと言っておく」
僕がそう返すと、関根がにやりと笑った。
「ていうかイッチ、ちゃんと声が出るようになったじゃん」
「え?」
「前はもっと吹き出しがへにょへにょしてた気がするけど、なんかあった?」
「何って、俺は秋田に帰省して、帰ってきただけだが……?」
「めちゃくちゃテンプレラノベ主人公っぽい台詞だ……」
高瀬が笑っている。
「じゃあ、萌の目的地ここなんで。護衛ありがとね」
関根がビルの中に消えたことで、僕は高瀬のほうを見る。
無言で、電話しちゃえよとジェスチャーする高瀬。僕は、LINEの通話ボタンを押す。
ピロリロリロリン。ピロリロリロリン。
「もしもし……?」
「お、おお」
「ど、どしたの? そっちから掛けてくるの、珍しいね」
「えっと……あ、あけましておめでとう!」
「えっ。もうあけてた? あけましておめでとう!」
山田の声を聴けて安心して、僕はすぐに通話を切った。
「改めて、あけましておめでとう、市川」
ビニール袋を持っていた高瀬に、フタを開けたレッドブルを差し出されて、僕はそれを受け取る。高瀬も缶を開け、僕らは眠気覚ましに、カフェイン入りの炭酸飲料をぐいっと飲んだのだった。