思うに、図書室というものは良いものだ。
まず人気(ひとけ)が無いし、無料で難しい本が読める。普通だったら手が出ないような分厚い本も読めることは、勉学にいそしむ中学生にとって明確なアドバンテージと言えるだろう。
というわけで、最近の僕は、昼休みや放課後に図書室に向かうことが多い。これは決して友達がいないからというわけではなく、冷徹で合理的な思考の結果なのだ。
「ハ、ヒヒハワフン」
だが、昼休みの図書室には思わぬ先客が居た。
「ハ、ハレニモイハハイヘネ」
今僕が最も殺したい女、山田杏奈が、1つ目のおにぎりを頬張りながら全く聞き取れない声を発していた。
「あ、ああ。うん」
よくわからんが同意しておくと、山田は良かったーと一息ついたあと2個めのおにぎりを頬張り始めた。
いや、給食とは別に、2個も食うのかよ! っていうか図書室でおにぎりを食うな!
心の中で鋭いツッコミを入れつつ、僕は冷静に本棚の後ろに隠れる。
山田との接点は全く無いというわけではない。前回、高瀬の家に遊びに行ったときに(高瀬に僕が指名されたことで)なぜか一緒だったし、まあワンチャン顔見知り程度には認識されているのかもしれない。
「お、同じクラスの、学年2位の市川くんだよね!」
「そ、そうだが?」
がっつり認識されていた。本棚ごしに話すのも変なので、スッと山田から見える位置に移動する。
「理科の授業で発表するんだけど、どういう風に作ったらいいと思う? あ、私は山田杏奈っていうんだけど」
知っているが? むしろその身長とモデル業をやっていることの知名度で、同じ学年で知らない奴がいるのか?
「ま、まず普通に構成を決めて、鉛筆で軽くタイトルとかの下書きをして……」
「ふむふむ」
「サインペンでタイトルを清書して……」
「なるほど」
「次に資料を切り取って……」
「あ、カッター無いや」
「……カッターならここにあるが」
お前を殺すためにいつも持ち歩いているやつがな!!
「貸してくれるの?」
「こ、この流れで貸さないやつがいるのか?」
「カッターやったー! ありがとう」
山田が僕の鋭利なものを使っている……。っていうかお礼を言われた。山田ポイントをちょっとだけ稼いだのか!?
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、山田は僕のカッターを筆箱にしまう。って、僕のカッターが!!
「山田ぁー! どこ行ってたんだよ?」
小林がぷんすかしている。
「理科の発表するやつ書いてたんだよ」
「お菓子1人で食ってたろ?」
「きょ、今日は食べてないよ? ね、市川くん」
「お菓子は食べてないな」
おにぎりはめっちゃ食ってたけどな!
「ほ、ほらね!」
なぜ山田は自慢気なんだ。僕が口裏を合わせてなければ死んでいたんだぞ。
「理科の発表、うまく行くといいな」
ボソッと呟いた台詞が、思いのほか廊下に響いてしまった。
「え、何? 市川くんに手伝ってもらったの?」
「え、えーと。す、少しだけ……」
こっちを見る山田と目を合わせるのが恥ずかしくて、僕は、思わず目をそらしてしまった。