魔術廻戦 作:Comet08
オリ主、捏造諸々ご注意ください。
2005年12月中旬。
新宿駅に隣接するデパート、北武新宿店のA館正面は文字通り地獄絵図と化していた。デパートの最上階は燃え盛る炎が不気味な光を発しながら吹き荒れ、あっちこっちから黒煙が立ち込めていた。下階にもその衝撃と爆発が連鎖し、入り口で一際大きな爆発が起きたことを現場が物語っている。
「ゲホッ、北武新宿店の前です...えっと爆発がありました。上の方でなんか赤紫っぽい光?が見えてその階が最初に爆発したんだと思います...それから立て続けに爆発して、、気付いたら吹っ飛ばされてました...」
歩道ではありったけの瓦礫が降り注ぎ、煤と炎と煙が停滞している。街路樹がチリチリと燃えていた。巻き込まれて意識を失い、そのまま動けず倒れ伏す者。何が起きたか分からず、呆然と立ち尽くす女性。ショックと興奮が混じった口調でガラケイに様子を語りながら辺りを撮影する学生など様々だった。悲鳴と怒号が入り乱れ、遠くからサイレンの音も響き、その場は混迷を極めていた。
「正面でも大きな爆発があってそれに巻き込まれたんだと思います。何もかもめちゃくちゃで、、あれなんか音が...!?」
学生が携帯を上に向けた時には[北武]と書かれた巨大な看板が落ちてきていた。1秒を数える暇なく潰されると思った瞬間。
蒼い光に吸い寄せられるように看板が軌道を変えたのだ。そのまま看板は開けた車道に凄まじい音を立てながら落下した。
「クソっ!何がどうなってんだ!」
五条悟は焦燥感と怒りを露わにしながら自分が引き寄せた看板を一瞥すると現場に向き直した。
「状況から最上階を皮切りに起きたんだろう」
そう言ったのは夏油傑。すぐに夏油は手持ちの呪霊達に二次災害の阻止を優先で救助活動をするよう命令すると次々と送り出していった。その声は冷静に努めていたが焦りと緊張が決して隠せない口調であった。
「救助最優先だ。硝子」
倉内瀬理は無言呪文を唱える。握られている杖先から勢いよく水が飛び出し、街路樹の火を消していった。
「私は反転マシーンになればいいんだろ。瓦礫と救助はそっちに任せるからな」
家入硝子は凄惨な現場を前にしながらも頼もしく同級生の声に応えた。その声に僅かな震えがあった事を指摘する者はいない。
「頼む。家の術師数名に硝子の護衛を任せているから彼らが到着するまではこの歩道周辺に限定して治療を行って欲しい。何かあったら必ず連絡してくれ」
倉内は切実な声でそう言い残すと間髪入れずに夏油と五条を連れて姿くらましした。
家入は若干面倒くさいと思いながら分かったよと心の中で返事をするとひとりでも多くの命を繋ぐべく、制服の腕を捲って倒れ伏す歩行者に近付いていった。
* * *
<北武新宿店A館 一階 化粧品コーナー>
流石についさっきまで爆炎を撒き散らしていた入り口に外から学生服をきた未成年が堂々と入っていく姿を見られるのは憚られた一行はデパート内部に倉内の付き添い姿現しで入る事にした。その場で要らぬやり取りが発生するのは面倒なのだ。
一行は辺りを見渡してすぐに動き出した。下階には想像よりも火の手は無い。衝撃により、壁や柱、ショーケースは損害を受けてめちゃくちゃになっていたがどうにもそれが不自然だった。
「ただの爆発じゃないな。爆弾でもガスでもこうはならない」
「やはり上のアレが関係してるのか」
「恐らく、悟もそう判断して動いてるんじゃないか」一直線にエスカレーターを駆け上がっていった五条を思い出して倉内はそう返した。
「なら私たちもすぐに上に上がった方が良さそうだ」
「僕もそう思う。救助を急ごう」
「だがどうする...殆どは視認できない呪霊ならまだしも私達が派手に動けば民間人に“見られる“可能性がある」
人命優先。当然だ。救える手段があるならそれ
を迷わず行使すべきだ。使わずして何が手段だ。しかし、上はもとい呪術総監部はそれを良しとしない。呪術界が世間へ大っぴらに露呈する事は避けなければならないのだ。
「大丈夫だ傑。補助監督は数名が既に渋谷駅に到着している。忘却術師も既に複数派遣が決まっている。だから今は救える命だ」
目撃者が出るのをお構いなしに倉内は魔法を駆使して屋内での火事を消し止め、建物の崩落を防ぐべく、屋内に限定して修復作業も開始していた。
「だが確か忘却術師の派遣は来月でその上、限定的な派遣に留めると聞いている」
「前倒しになった。本家というか父がさっきの連絡を受けて即決したらしい。総監部には事後報告で責任は俺が持つって連絡がきた」
倉内瀬理はそう言うと携帯を夏油に見せた。そこには倉内瀬理の父、倉内家現当主から直々に送られてきたメールが画面に表示されており、先の内容に加えて家からも増援を送る事とここにいる三名と外で反転術式のアウトプットによる治療に奔走している一名への激励が書かれていた。
「それなら遠慮なくやらせてもらおうか」
夏油は残っていた呪霊のうち戦闘に特化している特級やサイズが大きすぎる呪霊を除いた全てをデパート内に放ち、救助活動を始めた。
五条も無下限を生かして炎に包まれたエリアもお構いなしで進んでいき、救助を手伝いながら六眼だけに映る異質な呪力を追っていた。
そもそも高専の1年組が現場に居合わせたのはいくつか理由がある。最も大きいワケとしてその日は偶然にも呪術界限定の祝日日で高専が丸一日休み。年末手前に関東周辺の術師達が集まる行事があるのだ。儀式と交流会を兼ねたようなもので噛み砕いて言えば呪霊の数が減るように祈ったり生存祈願したりしてから酒を交わす古いんだか新しいのかよく分からん会である。本来ならば高専の生徒も参加できるのだがあまりにも問題児すぎる1年は夜蛾先生の判断により、参加を辞退させているのだ。
倉内が転校してきて既に3ヶ月が経っている。倉内本人と元々の3人組は良い意味でも悪い意味でも親和性があり、すぐに打ち解けていた。本人の能力もそれぞれ相性が良かった。圧倒的な火力や決定打を持たない代わりにあらゆる事象改変能力とも言い換えられる万能な魔法術式、通称「魔法」は五条にない繊細な部分で遺憾なくサポートを発揮し、手数や種類に限ればその性質が似ている呪霊操術との連携、治癒魔法や魔法薬は家入の反転ワンオペを解消し、負担軽減となった。
直近では夏油の呪霊玉がクソ不味いという話で何とか味変できないか寮の調理室で色々と4人がやっている事も夜蛾は知っていた。茹でたり焼いたり、天ぷらにしようとしてはキッチンを爆発させているからだ。夜蛾は壊すたびに倉内が自分で修復するので怒るに怒れずに放置していたが先日、何を血迷ったのか彼らは呪霊玉をぬか漬けにする暴挙に出た。数日もしないうちに冷蔵庫から禍々しいオーラを放ち、それを本人達が開封したところ、ぬか床がウニョウニョ動き出した。4人の絶叫が高専に響き渡ると五条によって同時にぬか漬けは窓から容器ごと校庭の空高くに吹き飛ばされ、倉内はそれを正確な狙いで呪文を放ち、爆発させた。窓ガラスが強く揺れる爆発と同時に未登録の呪霊が即死する形とはいえ爆ぜたことにより高専にアラートが鳴り響いたのだ。倉内に五条程の粗暴さや夏油程の腹黒さがある訳では無いが悪ノリするとどうも全員で赤信号を渡ってくる節があるのだ。そんな4人をあの集まりに混ぜるのは危険そのものと言えた。
そしてその夜蛾先生の判断は英断であり、もし仮に4人が参加していれば儀式そっちのけで五条を筆頭に禪院家当主の息子を発端に高専を半壊させる家族ぐるみの大喧嘩になっていた。
そんな訳で夜蛾先生は4人に新宿のデパートで一般の企業が企画したオカルトテイストの強い呪術展があるから行ってこいと建前の課題を用意したのだ。チケットをきっちり人数分渡して集まりが終わるまで帰ってこなくて良いと4人を新宿に追い払ったのである。
これ幸いと4人は新宿で呪術展に行く気全くゼロで街中をのんびり歩いていたのだが突然、五条が「何か呪力が爆ぜた...!」と駅に向かって戻ろうと駆け出したのだ。それを3人が不審に思いながらも追いかけ始めた所でさっきの爆発が起きたのだ。
* * *
倉内と夏油が五条を追いかけて上の階へ上がっていった頃、家入は歩道での治療をあらかた終えると正面から人々が出てきた。倉内が消火と安全確保をして夏油が避難誘導したお陰である。既に応急処置を倉内から受けている人が多かったことで家入は重症者の治療に専念できた。何人か反転術式を施して立ち上がった時に若干の頭痛が走り、家入は呪力の減りをひしひしと感じ取った。だがそんな言い訳をしている場合では無い。眉間を指で揉みながら視線を戻すと血まみれの男が女性を抱えて出てきたのだ。男は下腹部を抑えていたがよろけると壁伝いに座り込んだ。家入はやや重たくなってきた足を言い聞かせながら駆け寄る。
「アンタ...その格好は高専の術師か」
すると家入に気付いた男が口を開いたのだ。
「えぇ...そうです。ご存知なんですか」
家入はどこか底がしれないこの男の存在感と発言に少したじろいだが隠さず返事をした。
「オレの実家がそういうでちょっとな...やっぱ爆発はそれ関係か...?」
「分かりません。私達も偶然、現場に居合わせただけなので。すぐに治療します」
家入は抱えられていた女性にまず反転術式を施した。出血量が恐らく相当だろう。傷口を塞いで然る医療措置を受けられるまでの応急処置が精一杯かもしれない。
だがその様子に男は酷く驚いたと同時に少し希望を見た様で目に僅かながら光が差した。
「反転術式か...!アウトプットできる奴はそういねぇ」
「そう聞いています。あとは輸血が間に合うかどうかです...ごめんなさい」
「謝らなくていい。アンタがいなけりゃその可能性すら無かったんだ。ありがとな」
「いえ...」
「オレは大丈夫だ。たいしちゃ傷じゃない。このまま妻を病院に運ぶ」
「でも、、」
「その呪力は他のやつに使え。今日は恵の...息子の誕生日が近くて。何かいいのがないか見にきたんだ。そのせいでコイツが死んだらオレは...」
「分かりました。どうかお気を付けて」
家入はその悲痛な声と怪我を感じさせない男の姿勢の良さに気圧される形で同意した。一礼して背を向けて次の負傷者を探す。
「アンタも気を付けろよ。場合によっちゃこれはキナくさい話だ」
「それってどういう...」
後ろからの声に振り返った時にはさっきの男はギリギリ目の端で捉えられるぐらい遠くに走り去っていた。
「こっちに負傷者だ!すぐそこなんだが動けなくて、、誰か来てくれ!」
話を聞くと歩道を外れた少し先の裏通りの方からだった。まだ瀬理の家の術師は到着してない。時間からしてものの数分もしないうちに来るだろうが。だがその数分が生死を分けたらどうする。少しの迷いはあったが家入はその場を離れてその裏通りに向かった。それは人として正しく呪術師としては間違った判断だった。待っていたのは怪我人では無く、目出し帽や能面を被って顔を隠す呪詛師集団だったのだ。
* * *
「一番被害がでかいのはやっぱここだ」
遅れてやってきた夏油と倉内に五条は静かに告げた。
「原因が何かわかるか」
「呪力が乱れているというより...残穢がめちゃくちゃになっているんだ。まるでゲームのバグみたいだ」
「他にわかることは」
倉内は続けて五条に問うた。
「恐らくいくつか展示されていた呪具が無くなっている」
「ここの呪具は本物か」
「あぁ、全部本物だ」
「全部?本物が混じってるとかじゃなくて」
「全てだ」
「まさか...」
「何か分かったのかい瀬理」
「最悪な心当たりがある。中南米の呪詛師グループ関係だ」
「詳しく聞かせろ瀬理」
五条がそう言った時に倉内の電話が鳴った。
「はい倉内です。えぇそれで、はぁ?!えぇ、はい。分かりました。いえその場で民間人の警護をお願いします。では」
倉内は乱暴に携帯を切ると再び口を開いた。
「硝子が行方不明だ」
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