魔術廻戦   作:Comet08

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久しぶりの更新です。


5話 追跡

五反田の市街地は夜明け前の静けさに包まれていつもと何ら変わらない景色であった。ビル群から少し離れた一角に帳が降りている事を除けば。

 

<盤星教五反田支部・星の子の部屋>

 

「状況は」

 

「既に施設を囲む形で帳が降りています」

 

「これは参りましたね」

 

「そうですか」

赤井と部下の飯沼は速足で廊下を進み、客人を迎えに急いでいた。

 

「園田さんからの連絡がもう少し早ければ良かったんですけど」

 

「口を慎みなさい飯沼」

 

「総監部と直通が聞いて呆れm、、」

 

「慎め...!ここを何処だと心得る」

 

「はぁ、、所詮、私はただの雇われですよ。信仰心だの教義だの...私は金が入って高専に嫌がらせ出来れば満足です」

 

「チッ、そうでしたね。あれは解けますか?」

赤井は窓の外を指差しながら聞いた。

 

「さぁ私は知りませんね」

鼻で笑うかのように飯沼は返事をしたが赤井はそれがかなり気に入らなかった。

 

「貴様...」

 

「そう睨まないでくださいよ。さっきから口調も崩れてますよ赤井さん。あの帳は恐らく英式の防衛呪文と組み合わせた二重構造。高専の術師に闇祓いの混成部隊でしょう。生身ではとてもじゃないですが...」

正面から相手するのは真っ平ごめんだと言わんばかりに飯沼は顔を背けながら言った。

 

「高専と魔法省が総力を挙げて奪還しに来たということですか...ならばあの車を出しましょう」

 

「あれをですか?乗りたくないんですが」

 

「無人で飛ばすんですよ」

 

「そいつは、、囮にしては随分と豪勢ですね。未だ3台しか完成して無いでしょう」

 

「我らの目的は星の為、穢れなき天元様をお守りする事です」

 

「急に何ですか」

 

「直ちにお客様を羽田までお送りしてください。応援は直送しておきます」

 

「はぁ」

 

「足止めはこちらでやる...」

 

「ではもう会う事はありませんね。好きな花とかあります?墓参りの参考にしますよ」

飯沼なりの挨拶である。

 

「........スプレーカーネーション」

 

「集団美ね...」いい年して気持ち悪いと飯沼は赤井に背を向けて走り出した。

 

*  *  *

 

施設の制圧。呪術高専一年、家入硝子の救出と呪詛師の拘束。それは速やか且つ穏便に行われる筈だった。だがいざ突入の瞬間、それは一気に崩れ去った。教団施設の正面から飛び出してきたのは大勢の呪詛師...では無く、銃や刃物で武装した黒装束の出家信者達だった。殆どが”非“術師である。これには事が済んでから警察へ引き継ぐ腹づもりだった高専側も驚きと焦燥を禁じ得なかった。倉内瀬理の父である倉内家現当主から持たされた情報により、潜伏している呪詛師あるいは盤星教信者(非術師)からそれなりの抵抗に合う可能性は示唆されていたが明らかにそれは想定を超える抵抗だった。

 

「おいここ日本で合ってるよな!」

日本に来てまだ日が浅い闇祓いが叫ぶ。

 

「その筈です。Expelliarmus!!」

塀に身を潜めていた闇祓いのひとりが防御を担当し、もうひとりが手首を効かせて杖を左右に振ると赤い閃光が疾った。小銃を乱射していた男2人は武装解除と同時に情けない悲鳴をあげながら吹き飛ばされた。

それとほぼ同時にありったけの弾丸を浴びた乗用車が爆発。あちこちで怒号と悲鳴と爆発、銃声。銃弾の吹雪は止まず、無血開城には程遠い状況に陥っていた。

 

極め付けは地下駐車場から現れた謎の車。空に浮かぶ3台の車である。

降ろした術師が健在のまま完成している帳を破るのはそう簡単な事では無い。閉じ込めることに特化した結界を生身で魔性面から破るには覚醒した無下限呪術の使い手でも連れてくるしか無いだろう。更には内側の強度を底上げする為に展開された防衛呪文も合わさって敷地外への逃走は物理的に閉ざされている筈だった。

 

盤星教施設の地下駐車場から飛び出した車、計3台。異質なエンジン音を吹かして地上への坂を猛スピードで駆け上がった車はそのままの勢いで空を飛んでいく。航空機の離陸かのような角度と速度で昇っていった車は帳に激突すると思われた。

しかしその直前、不自然なスピンを始めた車は次の瞬間には帳の外へ。それは座標が変わったような瞬間移動というよりは、その位置が文字通りズレていた。これは後に判明するのだがタネは“移動キー”だった。結界1枚だけの極めて短距離の移動という縛りで車全体を移動キーとして成り立たせていた。本来移動キーでは起こり得ない入り口と出口の隣接が生んだズレは帳に歪みを生ませ、一時的にだが穴を開けていた。そのタイミングで箒に跨っていたり、黒い靄に包まれた呪詛師がシンクの小蝿のように飛び出して車に続いていったのだ。

逃亡を現在進行形で試みている空飛び車は計三台。それぞれが別方向に走り去ったのを視界に捉えた直後、真っ先にそれぞれ追いかけたのは待機命令をガン無視した五条、夏油、倉内。

一点の曇りない命令違反だったが排気口から火炎を噴き上げながら凄まじい速度で飛び去っていく車の追跡を単独で即座に行える人材としてその3人はうってつけだった。

やむ得ずに夜蛾学長の指示の元、学生達を追いかける形で術師も後に続いた。

 

* * *

 

「チッ、どけ!Impedimenta!」

倉内は呪詛師Aの攻撃を頭を下げてスレスレのタイミングでかわしたと同時に手首を捻って呪文を放った。普段の無言呪文を放つ冷静さは闇夜へ消え、怒りがそのまま呪文の威力に上乗せされていた。

偏差撃ちで妨害呪文が直撃した呪詛師は黒い靄を纏ったまま緩やかに落下していく。

倉内はそれを一瞥する事もなく、箒の柄を握り直すと体を傾けて一気に次の目標へ距離を詰めていった。先ほどから呪具による油断ならない遠距離攻撃を行ってくる呪詛師Bを捕捉したのだ。倉内が操るのは発売前のニンバス最新モデルであるニンバス2500。世界各地でテスターによる最終調整を行なっており、倉内もその1人に選ばれていた。実力とコネである。ファイアボルトシリーズと凌ぎを削りあっている次世代機だ。

 

接近に気付いた呪詛師Bは残り少ない蝿頭を急いで装填し始めた。その手が握っている呪具は蝿頭を弾丸として発射する厄介な代物である。大陸側で開発され、日本に流れてきた呪具でその速度は音速に達する為、呪力で防御すれば何ら問題ないが気を抜けば致命傷になり得る強力なものだ。投射呪法など高速で移動、攻撃を行える呪術師への対抗手段として一時期、闇市場で多く取引されていたが実は今では見る影もない。事態を重く受け止めた高専側が呪具の摘発と並行して蝿頭の管理を厳しくした事で野良の数が著しく減少した事が主な要因だが呪具そのものの質が悪く、暴発した際に使用者の命を脅かす点も大きかった。詰まった蝿頭をトリガーに凄まじい爆発を引き起こすのだ。耐久性にも難あり。

 

呪詛師はすかさず呪具を構えたが時既に遅く、倉内は一瞬、ハンドルを切るとその勢いで体を投げ出し、片手で箒に掴まったまま強烈な回し蹴りを繰り出した。側頭部に蹴りが直撃した呪詛師は箒ごと仰け反ったが加えて腹部に痺れるような衝撃を受け、気付けば体は箒を離れていた。ほぼゼロ距離の失神呪文で吹き飛ばされていたのだ。

 

「うぅアアアアアアアア!!!!」

 

情けない悲鳴を聞き流しながら倉内は左手で指を鳴らした。パチンと綺麗に指の音が鳴ったのを合図に持ち主から離れていた呪具が大爆発。その衝撃で呪詛師の箒は持ち主の方に目掛けて吹っ飛んでいき、呪詛師の額に柄が直撃した。

 

間髪入れずに放たれた倉内の拘束呪文で鎖が飛び出し、意識を失った呪詛師は自分の箒に括り付けられると緩やかに墜落していった。死にはしないだろう。

 

「次...」

 

それから5人、10人と取り巻きの呪詛師を片っ端から撃墜しながら追跡を進め、車に手が届く、その時だった。

 

突如として車は禍々しい靄に包まれ、怪しい光を放ちながら爆ぜたのだ。同時に辺りは星空を塗りつぶすような黒い雲が押し寄せ、一気に冷え込む。咄嗟に距離を取った倉内は得体の知れない寒気に襲われた。

 

即ち、吸魂鬼である。

 

爆ぜた車から大量のディメンターが湧き出したのだ。寒空の下、最も近く唯一の生ける者である倉内は格好の獲物だ。家入が乗っている可能性があった車の爆発に倉内は少なからず動揺してしまった。故に反応が一歩遅れ、杖を構えた時ににはディメンターの口が眼前に迫っていた。

 

吸われる...!!と不快感を覚悟した倉内はキスの前に守護霊を呼び出そうとやむなく回避行動を諦めた瞬間だった。

 

閉じかけた倉内の目に映ったのは白銀の波動に吹き飛ばされ、背を向けて飛び去る吸魂鬼の姿だった。同時に冷え切った気道と肺を温かな光が包むように熱が駆け抜ける。

倉内を庇うように姿を見せたシロフクロウの守護霊は強烈な波動を何重にも展開し、ディメンターをあっという間に吹き飛ばすように追い払ってしまった。

 

「硝子...?」

それは家入の守護霊だった。つい先日である。ついに守護霊が実体化してのだ。シロフクロウが身の回りを飛び回る姿に顔を輝かせてにかむ硝子の姿に倉内が惚けていると後ろでで五条が

「うぉーーーみてみて俺もできた!!」

と叫んだ。気付いたら真横に白銀のハンガリー・ホンテイルが倉内を見下ろすように鎮座していた。

 

五条の守護霊、もといドラゴンと目が合う。

「マジかよ...」

 

刹那、ハンガリー・ホーンテイルは咆哮を上げ、思わず目を瞑るほどの眩い光というかドラゴンブレスを噴き上げると倉内の体を通り抜けると飛び去るように霧散していった。

 

その迫力に硝子もすっかり圧倒されてしまい、実体化したシロフクロウはとっくに消えてしまったのだ。まだ集中していないとすぐに実体も消えてしまう段階で発展途上にある。

 

「あ、消えちゃった...五条!」

五条は自分の守護霊にテンション爆上げで家入の声が全く耳に入っていなかった。

見た今の!!?と夏油にだる絡みしている背中に家入のローキックが炸裂した。

脛に的確な角度で打撃が入り、五条は痛みで飛び上がって事態を把握すると夏油を盾にしようとした。が今の五条が出した守護霊の余波により、手元で遊ばせていた呪霊が祓われたことに気付いた夏油も笑顔のまま額に青筋を立てながらローキック選手権に参加してしまい、五条は弁解しながら逃げ回るしかなくなったのだ。倉内も途中参加した。特に動機はない。

 

その騒動の時以来に見る硝子の守護霊が倉内の目の前で翼をバタつかせながらじっと見つめているのだ。すると羽は指差すように、頭を捻ってこっちだと言わんばかりに訴えかけてきた。

 

「硝子の居場所が分かるのか」

 

コクコクと守護霊は頷く。

すると後ろからおーい!と呼ぶ声が重なって聞こえてきた。父の声だ。

 

「瀬理!大丈夫か〜!」

 

「父さん!」

 

「ご無事ですか坊ちゃま!」

父の横に控えていた本家の執事と高専の術師に闇祓い。応援である。施設は制圧したがもぬけの殻だったとのこと。

 

倉内が守護霊を説明しようと口を開こうとするとその前に倉内父は全て了解したという顔で

「ディメンターの追跡と封印、車の確保はこちらでやるから行け!」

と肩を叩いて有無を言わさぬうちに敗走したディメンターの処理に一行を引き連れて飛び去っていった。下手に倉内に部下をつけても箒の性能の違いで足手纏いになる特殊な状況に即決の判断。

 

流石に呆気に取られた倉内だったが気持ちを切り替えて守護霊の案内に従って箒を走らせる。

品川上空を通過し、次第に海沿いへ近づくとシロフクロウは降下し始めたのだ。

 

「羽田空港か...まさか」

国外に拉致されれば奪還の難易度は跳ね上がる。倉内は柄を握り直して速度を上げた。

 

*  *  *

 

家入は薄暗い倉庫のような通路のような妙に小綺麗な空間に拘束されていた。後ろ暗い連中のアジトにしては清潔すぎてそれが逆に気味悪かった。

 

「部下の失礼の段、ご容赦頂きたい。一向に日本語を覚えようとしないのですよ。多少は教えたのですが脳が足りないようでして」

 

「...........」

これには反応しない。というかできない。

 

「あまり抵抗はしないように。手を縛るのみに留めているのは貴方への信頼の証ですよ」

 

「はぁ、、」とっても気持ち悪い。どうやら目の前の扉に鍵はかかっていない。いっそ正攻法で逃げ出してやろうか。

 

「そこから逃げようとしても別に構いませんよ。勿論、五体満足で確保できるのが望ましいですが最悪、脳さえあれば言い訳は効く。まぁこの場で脳を取り出すのは少々、面倒ですから首を落とす事になりますが」

 

しまった。少し考えれば分かることだ。こんな事に手を染めてる奴がマトモである筈がない。

 

「貴女のような美しい女性を手にかけるのは私としても避けたいのですよ」

黙れ。

 

「っ...世辞と脅迫を一緒にやられても嬉しくない。それで何処に行くって...」

 

「それは言えません。ただ日本を離れる事になります。大人しく着いてきてくれれば命は保証しますよ」

 

「喜んでとは言えないけど」

日本から連れ去られるのは話が違う。恐怖がジワジワと押し寄せる家入にできることは平静を保つことと守護霊への意識を忘れないことだけだった。

 

「でしょうね。私がその立場なら泣き叫んでますよ」

あぁ可哀想にという表情がただただ腹立たしい。

 

「そう思うんなら解放してくれてもいいんじゃない?」

 

「ふふふ、そうやって強がるのも時間稼ぎのうちですか?その健気さは嫌いじゃありませんが飛行機の給油がもうすぐで終わりますから」

やはりここは空港か。

 

「だから無駄な抵抗はするなって?」

 

「えぇ、なんせこの場所を特定するのは不可能と言ってもいい。赤井さんはよくやってくれました」

 

「………」

 

「大抵の術師には見破れないように術を施していますし、彼らが気付くのは我々がとっくに日本かr......」

 

その瞬間、白フクロウの守護霊がスゥーと部屋に入ってきて家入の肩に留まり、頬擦りするように動くと霞となって消えた。

 

「何をした!」

さっきまでの丁寧な喋りは何処へやら激昂する呪詛師リーダー。

 

「さぁ、どうだろうね」

安堵感に期待が混じった声で返す家入。

 

「立て!」

強引に腕を掴まれると同時に部屋に響く爆発音。

 

「高専の術師です!!」

と血相を変えて呪詛師部下が部屋に入ってきた。

 

扉を蹴散らしながら入ってきたのは倉内だった。しかし、家入は呪詛師リーダーに銃を突きつけながらその部屋から出される直前だった。

 

「硝子!」

 

「瀬理、!」

 

扉が閉じられ、立ち塞がるように飯沼が袖から杖を抜いた。

 

「どけ...!」

 

「損な役回りだ」

飯沼が杖を構え、瞬間的に呪文を放つと倉内の呪文も同時に放たれると空中でそれはぶつかり合った。




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