魔術廻戦   作:Comet08

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短いですが久しぶりに更新です。


6話 搭乗

一進一退の呪文の応酬が続き、部屋はみるみる呪力によって荒れていった。無駄な出力こそないものの洗練された美しさは皆無である。

 

飯沼は冷や汗を拭う暇はなく、絹宮の攻撃を防ぎながらタイミングを見定めていた。

 

その時である。飯沼は簡易の封印が施された出口を壁ごと吹き飛ばすと殺気を収めた。

 

 

「待て青年」

 

 

右手をかざして静止する飯沼に倉内は身構える。術式の発動条件ならば命取りだが呪力の動きはみられない。

 

「...何のつもりだ」

 

 

「行け。今ならまだ間に合う」

 

 

「は?」

 

 

「君に開心術の心得があるなら話は早いのだが、やむを得んな。...この外見は飯沼という男のものだ。あとは分かるな」

 

 

「ポリジュース薬、潜入か」

倉内にも多少の心得はある。だが開心術師を名乗れるほどの域には達していない。あくまで声質や態度から嘘か誠か多少は読み取れる範囲に留まる。呪文の発動はまた別であるが。

 

 

「あくまで個人だがね、私はある死喰い人を追っている。正確には失踪した妻を探しているがこれ以上詳しく説明する余裕はないだろう。離陸まで時間もない」

 

すると飯沼は杖を部屋の遠くに投げ捨ていいから行けと首を振った。

 

 

「飯沼については眠らせたまま高専に引き渡しておく。匿名になるが」

 

 

絹宮は杖を向けたまま吹き飛んだ壁ひいては出口に歩みを進めて確信を得ると杖を下ろした。

 

「感謝する」

 

 

「機会があればまた会おう。こちらにも事情はあったが加担したのは事実だ。君の彼女には申し訳ないことをした」

 

 

「友達ですよ」

 

 

絹見は箒を呼び寄せつつ、全力疾走で空港のエントランスを駆け抜けると飛行場が一面見渡せるロビーに通りかかった。

 

予定にないはずの明朝に日本の航空には似合わない軍用旅客機が滑走路に侵入しようとしていた。既に動き出している。

 

迷ってる暇はないがどうやって止めるか。

 

倉内は五条か夏油に連絡しようとガラケーを取り出そうとポケットに手を入れる。

 

 

 

だがガラス張りの建物を支える柱という柱に何かが取り付けられていた。残穢は微塵もない。

 

何の小細工もない純粋な時限式のC4爆弾である。

 

信号の点滅が止まり、赤く点灯と同時にブザーのような音が重なる。

 

 

 

「まっず!」

 

刹那...

 

連鎖的に爆発した爆弾は空港のメインロビーを木っ端微塵に吹き飛ばした。大きな屋根が大きな音を立てて崩れていく。

 

 

瞬間的に判断してロビーのガラス張りをぶち破り、滑走路に飛び出した倉内はその衝撃に着地を失敗する寸前だった。背後に迫る熱風を防御呪文でいなすことは辛うじてできたがこのままでは地面に顔から突っ込みかねない。爆風の威力までは相殺できなかった。

 

 

 

「Arresto Momentum...!」

 

地面もとい滑走路と肉体が接地する寸前に発動したクッション呪文と受け身を合わせてダメージを抑えた倉内は休まず、立ち上がった。走るしかない。なぜなら、

「箒が巻き込まれたな...」

 

爆弾は呼び寄せ途中のニンバス2500を見事に吹き飛ばしていた。

 

飛行機は離陸寸前である。

 

呪力による身体強化で間に合うかは五分五分、諦めるわけにはいかない。

 

 

倉内は全力疾走と同時に振り返り、上空に杖を向けた。

 

Chain Stupefy Maxima!

 

無駄のないワンモーションと精密な無言呪文により、空からの奇襲足止め御一行は攻撃の準備すら許されなかった。箒ごと墜落する5人組。嫌な激突音がしたがそこまで気を配る余裕はない。

 

Multiple Incarcerous

 

 

「借りてくぞ」

 

墜落した呪詛師に遅れて運転手を失い、空で情けない弧を描く箒をひったくり、飛行機を追う倉内。あと少しというタイミングで滑走路の直線上に到着した飛行機は一気に加速し、距離が離れてしまった。

 

 

「shit…!」

 

悪態が漏れる倉内。離陸はもう止められない。おまけに箒の性能が低く、これでは離陸後の飛行機は追跡ができない。ましてや民間機ですらない。

 

残す手段は、、、「まずったな」

 

機内への姿現しはリスクだ。

 

高速で移動中の物体の内部に入る以上、少しでもタイミングを誤ればバラける。最悪、機体と肉体の座標が重なり、本当にあった怖い話もドン引きの絵面になりかねない。

 

パシュン

「ぐっ、、風やっば!!!」

 

 

倉内は折衷案として咄嗟に機体の外の扉にしがみつく形で姿現しを実行した。箒で慣れているとはいえ自分のコントロールから外れた速度に身を委ねる感覚は高揚感など微塵もなく、顔が文字通り歪む。

 

 

あぶく玉呪文で顔を覆い、右手と扉を呪力で固定すると防御呪文を応用した簡易帳を降ろし、自身の情報を遮断した。

 

 

辛うじて耳の端で捉えた着信音と太ももの振動で着信に気付くとあぶく玉にガラケイを突っ込んで取り出す。

 

表示された文字は夏油傑。

 

* * *

 

『もしもし!』

 

音がこもっている。台風でも来ているかのような風の音がゴウゴウと聞こえてくるのだ。

 

「瀬理だね?メールを見た。羽田に向かってる途中だが状況を教えてくれないか」

夏油はやっと繋がったという一瞬の安堵感となんか風の音というか雑音すげーなという違和感が同居していたが今は無視して状況把握に努めた。

 

『呪詛師は硝子を国外に拉致するつもりだ!自前の飛行機でついさっき離陸した!』

喋りづらそうに倉内は大声で返してきた。

 

「なっ!今空港なのか?!」

想定の数倍はまずい状況だった。

 

『いやその飛行機だ!!』

それにしては全く声を潜めるどころか張り上げている。

 

「乗れたのかい?!」

嫌な予感がする。

 

 

「飛行機に乗れたんじゃない!飛行機の上に乗っているんだ!」

 

 

「まさか...」

夏油はおでこで手を抑えるとなんとか現状を認識しようと気持ちを切り替えようと耳を傾ける。

 

「現在、北上している!板橋の手前で今新宿上昇中だな。太平洋から南米にとんずらというわけじゃないらしい!悟と合流して追っかけてくれ!虹龍ならぎり追いつける!」

 

 

「無茶を言うな!そもそm」

今大丈夫なのかという夏油の言葉は倉内に遮られた。

 

『硝子はこっちでなんとか奪還する!』

硝子が巻き込まれた状況で倉内に聞く耳なし。豚の耳に念仏というのも失礼だが釈迦に説法という話でもない。

 

 

「待て瀬理」

 

 

「頼んd!あぁぁぁぁ...!」

 

夏油の静止も空しく倉内の声が一気に遠く。恐らく携帯を落としてしまったのだろう。

 

「瀬理?おい瀬理!聞こえるか?嘘だろ...」

 

瀬理の携帯は今頃、渋谷区で自由落下中だなと場違いな考えが一瞬よぎった夏油はすぐに悟に電話をかけた。虹龍の速度と六眼による追跡でようやくさっきの頼みが現実味を帯びる。呪霊に更に速度を上げるよう命令し、コール音が耳元で響く中、進路を北に変えた。

 

 




次回予告 空中分解
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