MEMちょの父親が雨宮吾郎だったら   作:座右の銘

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MAMちょは看護師さん その7

先週の出来事が頭から離れない。

 

「MEMさんは高校生ですよ。もしあなたとの子供だとしたら今頃25歳くらいに・・・あっ」

 

あっ、て何。そんなギャグマンガみたいなリアクションして。しかもそれは私と雨宮君しか知りえないはずの情報。どこから突っ込めばいいのか分からなかった。

 

でも、覚えていてくれたのね。別人になって、16年も経っているのに。25年という数字が咄嗟に出てくる程度には。

 

・・・本当にひどい振り方をしてしまった。

 

雨宮君は医者志望で、避妊には人一倍気を使っていた。新たな命を授かること、親になることをどこか神聖視していたようにも見えた。おいそれと踏み込んで良い領域ではない、とても大きな意味を持つ行為なのだと。

 

子どもが出来たと分かれば、彼は必ず子供のために生きるようになるだろう。自分の人生を、夢をかなぐり捨て、罪を償うように子供に尽くすに違いない。私にはそんな選択は出来なかった。

 

「別れましょう。雨宮君。私のお腹には、結婚を前提に付き合ってる彼との子供がいるの。黙っててごめんなさいね。」

 

苦渋の決断だった。出来ることなら雨宮君が抱える心の闇を取り除いて一緒になりたかった。それが叶わないから、次善策を取った。冷たく突き放せば彼が納得することは分かっていたから。

 

アクア君には幸せになって欲しい。自分を認められないまま死んでしまった雨宮君だけど、彼は再びこの世に生を受けた。まだやり直せる。

 

そんなことを考えていると、不意にスマホが鳴った。電話だ。かけてきたのは・・・MEM。

 

「もしもし。お母さん。ちょっとご報告が。」

「どうしたの。」

「アクたんとね、その、良い感じになっちゃった。カメラの前じゃないけどね。」

 

心の中でガッツポーズを決める。もちろん声には出さない。でもなぜだろう。MEMの声から感じる雰囲気は明るさの中に少し影があった。何か問題でもあるのだろうか。

 

「そう、良かったじゃない。でも嬉しいばかりでもないって感じね。」

「あはは、わかる?」

「母親なんだから、それくらいはね。で、何を悩んでるの?」

「実はアクたんがね・・・」

 

アクア君は子供の頃何者かに復讐することを誓って、そのためだけに生きてきた。でも、本当は復讐は辛くてもうやりたくない。自分の人生を歩みたいと。

娘の話を要約すると、こんな感じ。

 

なるほど。復讐。

 

理由は母親の星野アイさんで間違いない。あの事件は記憶に残っている。なにせ、担当した患者が殺害されたのだ。

 

当時アクア君は4歳くらいだろうか。それから今までずっと復讐のために生きてきた。なんてむごい話。彼はまだ苦しまなければならないのか。

 

いや待って。

 

「大体わかったわ。大変な話ね。」

「ほんとだよぉ。」

「でも、彼とは良い感じになったのでしょう?」

「んふふー、まぁねー。」

「距離を置こうとか言われてない?」

「うん、いつもはそんな感じなんだけど、今日に限っては俺なんかでいいのか?とか聞いてきたよ。だから悩みを聞いてあげたの。そしたらもう子供みたいに泣きじゃくってさ。嬉しいやら可哀そうやらでもう気持ちの整理が追い付かなかった。」

 

再び心の中でガッツポーズを決める。

 

あのアクア君が、いや雨宮君が誰かに悩みを打ち明けるところなど見たことがない。ましてや、子供のように泣きじゃくるなど。これまでの彼では考えられない。間違いなく精神状態は良い方向に向かっている。

 

彼は開放されつつある。自分を縛り続けた呪縛から。そしてどうやら、そのきっかけとなったのが娘なのだ。こんな嬉しい知らせがあるだろうか。

 

「じゃあ、そういう事だから。楽しみにしててよ。」

「分かったわ。じゃあまたね。」

 

本当に良かった。やはりMEMとアクア君の出会いは運命なのかもしれない。

 

そんなことを考えていると、再びスマホが鳴った。今度はアクア君。

 

「もしもし、星野アクアです。」

「どうしたの、こんな時間に。」

「ちょっとお礼を言いたくて。」

「お礼?何のことかしら。」

「あの日、自分の幸せにも目を向けろって言ってくれたよな。なんか俺、ようやく前を向いて生きていけそうな気がするんだ。思い切って人に相談するのもたまには大事だと思ったよ。だから礼を言わせてくれ。ありがとう。」

「分かってくれたならいいわ。どういたしまして。」

「じゃあ、そういう事だから。」

「ええ。じゃあね。」

 

アクア君の声は明るい。前に会ったときとは違う、柔らかい印象だった。これが彼の生来の雰囲気なのだろう。

 

もう私の知る雨宮君ではない。やっと自分を許し、人並みの幸せを受け入れたのだ。

 

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