アクアとMEMちょ初めての共同作業。
「やめてよ!!」
今ガチ共演者の一人、劇団ララライ所属の女優、黒川あかねのヒステリックな叫び声が撮影現場に響き渡る。
「そうやって男に簡単に引っ付いて、やり口に品がな・・・」
そこまで言いかけて、黒川あかねの言葉が止まる。
向かいに立つ鷲見ゆきの右頬には一本の赤いひっかき傷。追い詰められたあかねがゆきに手をあげたのだ。皮肉なことに、ゆきがあかねに施したネイルのせいで、モデルの顔に傷がついてしまった。
よりにもよってカメラの前で。
モデルの顔を傷つけたことに責任を感じて憔悴するあかねだったが、ゆきが見事に落ち着かせ、慰めてその場は事なきを得た。
学校とかだったらちょっともめてすぐ仲直りみたいなこと良くある話だ。しかし、本人同士では解決したことだとしても、それをネットは許さない。
「アクたん、あかね、マジでヤバいかもね。」
「ああ。がっつり炎上してるな。撮影も休んでるし結構ダメージデカいかもな。」
「あかねは真面目だからね・・・。真っ先に謝罪のツイートしてたし、ひょっとすると批判コメント全部読んでるのかもしれない。」
黒川あかねがTwitterで炎上し、今週の撮影は休んでいる。炎上のエスカレートを恐れてなのか、あるいは本人の精神状態が悪いのか。出演を控えている理由は分からない。
まじめなあかねの事だ。炎上が鎮火するまで雲隠れなんてことは思いつきもしないだろう。となれば残された可能性は、精神を病んで番組出演が出来ないほど弱っているという事。
「あかねのやつ、かなり追い込まれてるだろうな。」
「何もなければいいけどね・・・。」
まさか本当に、ここまであかねが追い詰められているとはこの時は思っていなかった。
・・・
prrr
MEMから電話だ。
「アクたん!あかねが!あかねが居なくなった!」
切羽詰まったようなMEMの声が聞こえてきた。あかねがいなくなった?どういうことだ。
「落ち着いて。詳しく話してくれ。」
「あかねが夕飯買いに行ってくるって出かけたんだけど、帰ってきてないの。」
「は?この台風の中でか?」
「そうなんだよ!ねえ、アクたんもこの辺住んでたよね。おねがい。あかねを探すの手伝って。」
「分かった。」
俺はあかねの住所をMEMに確認し、最寄りのコンビニまでのルートを割り出し、コンビニでMEMと合流する。
「MEM!」
「アクたん!」
「あかねの自宅までの道は分かるよな。急ぐぞ!」
「うん!」
俺とMEMは走った。濡れて足場の悪くなった道をただひたすら。合羽を羽織っていはいるが、この暴風雨の中では気休め程度にしかならない。二人してずぶ濡れになりながらもそれを意に介すことなく、友人の姿を探し続ける。
「まだ走れるか!?MEM!」
「いけるに決まってる!」
そしてMEMとコンビニからあかねの自宅へ戻る途中で歩道橋の手すりの上に立つあかねを発見した。一歩踏み出せば道路へ落下し、間違いなく命を落とすだろう。彼女のやろうとしていることは明確だった。
「あかね!」
「くそ!あいつ何やってやがる!」
MEMを置き去りにして階段を全速力で駆け上がる。間に合ってくれと祈りながら。
胸が苦しい。走りすぎて酸素が足りないせいだけではない。あかねが死んでしまうかもしれないという恐怖が俺の心をかき乱す。
ちょうどあかねが飛び降りようとしたところで無事にあかねを歩道橋へ引き戻し、事なきを得た。一歩間違えれば、取り返しのつかない結果になっていただろう。
体力の限界を無視して走り続けた代償が俺に襲い掛かる。脚が痛い。心臓がうるさい。気持ち悪い。歩道橋に倒れこんだ俺の腕の中には、あかねが居る。どうやら助かったらしい。
しかし、あと数秒遅ければ確実にあかねは死んでいた。
あかねが死ぬ。そう思った瞬間、アイの死に際の光景が浮かんでくる。錆びた鉄のような血の匂いが、あの時の恐怖が、戦慄が蘇ってくる。
「・・・!!ああ、アイ・・・アイ・・・!」
「いやぁ!放して!」
「あかね!大丈夫!?・・・アクたん?どうしたのアクたん!?」
そこから先のことはよく覚えていない。