MEMは大嫌いなお父さんと大好きなアクアに対する感情でぐちゃぐちゃにになりつつ、結局は目の前のアクアが好きなんだろうなーと思いました。
アクアがMEMを助ける展開も良き。
突然私とアクたんの前に現れ、突然消え去った小さな女の子。
不思議な雰囲気を纏い、見た目とは不釣り合いなほど落ち着いた話し方。すべてを見透かすようにこちらをのぞき込む蒼い瞳。
一体何者なんだろう。人間?幽霊?それとも・・・。とりあえずアクたんの言うように疫病神と呼ぶことにしよう。
アクたんはその子を疫病神と言った。彼の復讐に一枚かんでいるとも。何か超自然的な力を持った存在で、彼が復讐を遂げるのを後押ししているようにも聞こえた。
あの疫病神はアクたんが復讐をやめるのを良く思っていない。いや、それどころかあの疫病神の知るシナリオから外れた行動をすることを咎めるような物言いだった。アクたんと結ばれるのは黒川あかねであり、復讐をやめることも無い。それが疫病神の考える本来のシナリオという事なのだろう。
私にお父さんの情報を教えたのは、アクたんがお父さんの生まれ変わりだと分かれば私がアクたんから身を引くと思っての事か。アクたんの動揺ぶりを見るに、どうやら全くの嘘でもないらしい。
「ねえ、アクたん。アクたんが雨宮さん、いや、私のお父さんの生まれ変わりって本当?」
「信じられないかもしれないが、本当だ。俺には前世の記憶がある。お前の母親のMAMと交際していた記憶もある。」
「じゃあ、アクたんは私が前世の娘だって知ったうえで付き合ってるの?」
「ああ。最近MAMと会っただろ。あの時俺が雨宮吾郎の生まれ変わりだとMAMに知られてしまったんだ。そしてお前が雨宮吾郎の娘だってことを知った。」
自分の中に築き上げてきた常識が音を立てて崩れていくのを感じる。なに?生まれ変わり?今風に言えば転生したってこと?アクたんには前から疫病神が現れていて、復讐するように仕向けられてきた?神様の考えるシナリオを外れたからアクたんから身を引け?
荒唐無稽が過ぎる話だが、何もない空間から少女が出たり消えたりする瞬間を目の当たりにした今、これが冗談だとも言い切れない。何より、アクたんはそれを認めている。
「MEM、大丈夫か?」
「うん、あまり大丈夫じゃないかも。ちょっと頭を整理する時間が欲しいかな。」
「そうか。」
・・・
「ふぅ、なんだか不思議な体験だったねぇ。」
「ああ。何度見てもあれには慣れない。」
自宅の居間で紅茶を飲みつつ、帰り道で見たあの少女のことを思い出す。
少し冷静になって考えてみれば、あの疫病神の主張はシンプルだった。言いたいのは『私のシナリオ通りに動け』の一点のみ。それを達成するために、アクたんが復讐をやめたり私とくっつくのを妨害しようというわけだ。
そんなの知ったことじゃない。幽霊だか神様だか知らないけど、私は人の自由意思を信じる。それに、あの疫病神は私たちに話しかけるだけで、直接的な干渉はしてこなかった。不気味ではあるけどそれだけで、実害はないと考えて差し支えないんじゃないかと思っている。
要するに、あいつはどうでもいい。問題は私のお父さんがアクたんに転生したって話だ。
「もしもし、お母さん。」
「あらMEM、どうしたの。」
「ちょっとお父さんのことで話があるの。」
私はアクたんがお父さんの生まれ変わりであるかどうかをお母さんに確認した。アクたんは、お母さんもアクたんの前世が雨宮吾郎であることを知っていると言っていた。
アクたんの言う通り、お母さんは転生の事実を知っていた。思ったより淡々とした反応から、いずれ私にこの話をするつもりだったであろうことが分かる。ついでに、生まれたばかりのアクたんを取り上げたのがお母さんだと知り、少し嫉妬した。
「MEM、あなたは雨宮君のこと良く思ってないみたいだから、なるべく言わないようにしてたの。あなたかアクア君から聞かれなければ、この秘密は墓まで持っていくつもりだったわ。」
「分かったよ。じゃあまた。」
もう認めるしかない。アクたんはお父さんの生まれ変わりだ。私達家族を捨て、お母さんに体が壊れるような無茶をさせ、私のアイドルの夢を奪った張本人。
アクたんの顔をちらりと覗く。ああ、この人が私の大嫌いなお父さん。アクたんを嫌いになるなんて出来ない。でもお父さんは許せない。アクたんは好き。お父さんは嫌い。
目の前の一人の人間に対して、大好きと大嫌いの感情が同時に沸き起こってくる。それを自覚すれば、今度は焦りと困惑も追加される。心の中がぐちゃぐちゃで、何が本当で何が嘘かも分からなくなってくる。
私はどうしたい?私にとってアクたんって何?この感情はどう整理を付ければいいの?
「ねぇアクたん。私、どうすれば良いのかな。」
とうとう漏れ出る弱音。アクたんにだけは漏らすまいと思っていたのに。
「MEM、お前は俺が好きか?」
「うん。」
「なら、それで良いんじゃないか?割り切れないのは仕方がない。俺もそうだった。母さんを殺した奴がのうのうと生きてるってのは今でも許せない。でも目の前の人間と向き合うのも大事だし、自分の幸せも大事だってことを誰かさんに教わったから、俺はMEMと一緒に居るんだ。」
「それで良いの?」
「さあな。何が正しいかなんて分からない。神様じゃないんだから。」
何が正しいかは分からない、か。確かにそうだ。でも一つ確かに言えることがある。それは私はアクたんのことが大好きだってことだ。
もういいや。気持ちの整理なんてやーめた。目の前に好きな男がいて、ここは我が家だ。もうそれでいいじゃん。アクたんがどうしようもないクズ野郎なら、私が改心させるまでだ。
「もう考えるのめんどくさくなっちゃった。」
「はは。お前はそういう顔の方が似合ってるよ。」
結局私はこういう人間だし、私たちはこういう関係だ。やることやって何が悪い。
「今日は泊っていきなよ。拒否権は無しね。」
ふふ、恥ずかしがるアクたんも可愛いなぁ。