自分知らないところで不幸になった人間がいてアクアは罪悪感を感じるはず。
でも運命的にMEMと会えたので、これからはMEMのために生きる決意をすると面白いなーとか思った。
ちなみにこのアクアはMEMルート確定になる。さりなちゃんでも多分勝てない。
「ちょっとルビーのこと見てあげてくれないかな。落ち込んでるみたい。」
仕事で事務所に来ていたMEMが話しかけてきた。なんでも、MEMの父親は16年前に失踪していて、生きてるかどうかも分からないらしい。その話を聞いてルビーは落ち込んでいるようだったから気になっているという。
「ちょっとルビーにはきつい話だったみたい。ルビーだってお父さんを知らないっていうのに、アレは配慮が足りなかったよ。もし家に帰ってても落ち込んでたらフォローしてあげて欲しいな。」
「言われなくたってルビーが落ち込んでたらフォローくらいする。大事な妹だからな。」
俺は無力で価値のない人間だ。さりなちゃんを救えず、アイを目の前で死なせてしまった。
だからルビーは、ルビーだけは何としても守り抜く。もうこれ以上大切な人を失いたくない。何もできない自分に後悔したくない。
「ルビーがうらやましいなぁ。こんなに優しくて頼れるお兄ちゃんがいるんだもん。」
「そんな事ねえよ。兄なら当然だろ?」
「相変わらずのシスコンだぁ。」
いつものやり取りだ。だが、今日に限ってはMEMの声と表情にいつもより感情がこもっている。
「もしお父さんが居たら、私もルビーみたいに甘えてみたかったな。もうこんな年だからアレだけど。でも会ってお話してみたいなぁ。」
意外だ。MEMが父親に未練を持っているとは。少し気になる。
「何とかして探して会うことはできないのか?探偵とか使えば見つかるかもしれないぞ。」
「いんや、無理だとおもうよぉ。だって警察が探して見つけられないんだもん。」
そういうとMEMはとあるネットの記事を見せてきた。
雨宮吾郎。宮崎の病院に勤務していた産科医。16年前に突然失踪。
「ほら、記事にもなってるんだよ。」
記事の内容を見て、一瞬思考がフリーズする。
俺だ。前世の自分だ。ということはMEMは俺の娘?そんなバカな。
嘘だ、そんなことあるはずがない。だって俺に子供なんて居なかったはずだ。何かがおかしい。
「確かにその人なのか?その・・・人違いって可能性は?雨宮さんが失踪したのは16年前なんだろ。MEMのこと知ってたら連絡の一つくらいしただろう。」
「人違いはありえないよ。間違いなくこの人がお父さん。お母さんは妊娠したこと隠してて、お父さんは私のこと知らないんだよ。」
そんな、まさか、本当にそうなのか。
MEMは25歳。ということ妊娠したのは俺が東京で大学に通っていた頃だ。
・・・彼女か。別れたと思ったら突然大学を辞めて音信不通になってしまった人がいた。
あの時すでに身籠っていたのか。くそ、なんで教えてくれなかったんだ。
「なんで妊娠を隠したんだ?父親がいないせいで母親もMEMも苦労したんだろ?」
「お父さんはお医者さんを目指してたらしくてね。でもすごい優しい人だから、もし妊娠を知ったら自分の夢をあきらめてでも責任を取ろうとしたはずだからってお母さんが言ってたよ。」
俺のためを思って。いや、俺のせいで。
「それくらい大好きで、大事な人だったんだろうねぇ。」
何だよ、それ。俺はさりなちゃんやアイだけでなくあの人まで救えなかったっていうのか。
彼女には体を壊すほどの心労をかけ、MEMからは、娘からは夢を奪ってしまっていたのか。
俺が彼女の妊娠に気付いてやれなかったばっかりに。
「どうしても考えちゃうんだぁ・・・。もしお父さんが居たら、お母さんが無理して体を壊すことも無かったのかなって。」
すまない。本当に・・・。
「私もアイドルの夢を諦めることは無かったのかなって。」
俺が不甲斐ないせいだ。
「まあ、YouTuberとして成功したし、憧れのB小町にもなれたんだけどね。あはは。」
そうやって俺を気遣ってごまかしたように笑う姿は、確かにあの人に似ている。確かに俺とあの人の娘だ。
「もう、本当に君は優しいなあ。もう前を向いて生きてるんだから、そんな辛そうな顔しないでよアクたん。」
後悔の念に押しつぶされそうだ。知らず知らずのうちに一人の女性の、一つの家族の幸せを奪っていたなんて。
「私はアクたんのおかげで憧れのB小町になれたんだよ。アクたんは私にとって夢を叶えてくれたヒーローなんだから。本当に感謝してるんだよ?」
そういえばそうだったな。でもあの時は打算で動いていた。有名なインフルエンサーがアイドル志望だと知って、都合が良かったから誘っただけだ。
しかしMEMが娘であると知った今、この出会いが偶然とも思えない。アイを殺した父親を捜す為に芸能界に入ったら、前世の自分の娘に再会し、図らずも夢を叶えることになったのだから。
「はは、ヒーローか。悪い気はしないな。」
前世では運命や神なんてものは信じていなかったが、今は違う。転生などという不思議な現象の当事者なのだから、そういったオカルト的な事象が存在することに疑いの余地はない。
もし、この出会いが神の導きだとしたら?
過去に囚われず、今生きている人間のためにその命を使えというメッセージだとしたら?
そのために星野アクアに生まれ変わってMEMと再会したのだとしたら?
もう前世の後悔や復讐は忘れて、星野アクアとして目の前にいる女性のために生きるべきじゃないのか。
今度こそ、一人の女性を幸せにするために。