薬指の約束   作:もずく

3 / 10
ちょっと過去。


大好き

 アリアとミアは物心付いた頃からの仲だった。関係のキッカケはどちらからなのかと言えば、それはミアの方からになるだろう。何をするにも活発なアリアに引っ付いて動くミアを、それぞれの両親はそれはもう微笑ましそうに眺めていた。

 

 アリアが坂を登るなら後から登り、降るなら先に降る。アリアが父に狩りの前準備を教わり始めた日には「アリアが間違っても教えられるように」と、教わる当人より先に覚えるべき事を覚えてしまう。

 

 引っ付くというよりは新たな保護者のような立ち位置になったミアだったが、しかしある時ミアの発言によって、その関係に亀裂が入る事になる。

 

「……もうあなたとは一緒にいられない」

 

 ミアから告げた唐突な拒絶。それはただ周囲全てを嫌ったからではなく、幼い頃から家族のように同じ時を過ごしたアリアまでもを、周囲に向ける疑いの目で見たくなかったが故の事。

 

 拒絶されたアリアは悲哀を、拒絶してしまったミアは悔恨を。それぞれがそれぞれに違うものを抱えながら、二人はその関係を断った────…はずもなく。

 

「ミアちゃんミアちゃん、これ見て!新しい魔導書!ユーシズのやつだって!」

「……なんで来たの?」

「なんでって……何がなんで?」

 

 アリアは他者の感情に疎い訳ではない。どころか、むしろ敏い方とすら言える。

 

 それはそれ、これはこれ。アリアは確かに感情の機微に目敏いが、だからといって遠慮するような事はしない。おまけに拒絶した当人が悲しげならば尚更だ。

 

 ミアの口振りが気に入らなかっただとか、他人を嫌って一人になろうとしていたのが可哀想だったからだとか、ミアの両親に頼まれただとかではなく。

 

 単に、アリアはお友達(ミア)と一緒にいたかった。

 

「ミアちゃん」

「……やめて」

 

 ただやはり、突き放したミアがそれを気に入るはずもない。だってあんなに苦しくて、悲しくて、辛い思いをして離れたのに。

 

 なのにあなた(アリア)は簡単に距離を詰めて来る。

 

「もう私に近寄らないでっ!」

 

 まだまだ二人は子供だった。苛立ちに身を任せて怒鳴りつけてしまったミアも、当然怒鳴りつけられたアリアもショックを受ける。

 

 それでもアリアは頑なにミアとの関係を断つ事はしなかった。とはいえどうしても関係には罅が入る。

 

 ギクシャクとした関係のままほんの少しの時が経って、ミアが人伝に「アリアが父親に雪そりを教わる」と聞いた直後、魔物が小規模の雪崩を起こしたとの報せが入った。

 

 場所は奇しくも、アリアが雪そりの手解きを受けているであろう小山の中腹。

 

 報せはそれで終わらない。伝えに来た狩人が「フュメーベラの親子が雪崩に飲まれた」と語った時には、ミアはもう屋敷を飛び出す所だった。走る背中に受けた「二人とも無事だ」という気休めの言葉は、たとえ聞こえていてもミアには関係なかった。

 

 子供の駆け足で数分とせずに辿り着いたのは、山道の入口手前にある大きくはない家。表札に『フュメーベラ』と書いてあるその家は、立地と傍の小屋に置かれた道具類を見れば、一目で狩人の家だとわかる。

 

 ミアはその家の玄関にまで辿り着くと、ノックすらせずに扉を開いた。

 

「アリア!」

「あぇ、ミアちゃ────…くしゅんっ!」

 

 ベッドに乗りブランケットに包まれたアリアは、ミアが扉を開いた事で流れ込んだ冷気に刺激されてか、大きくくしゃみをしてしまうものの、濡れた髪を母親に拭かれながら、ミアの方を向いて真っ赤な顔をぱぁっと輝かせる。

 

 あんまりにも間の抜けた笑顔で迎えられたものだから、ミアはその場で腰を抜かしてしまい、今度はアリアとその父母がミアを心配し始めた。

 

 やっと落ち着きを取り戻した頃、ミアはベッドに腰掛けると、自分に擦り寄るアリアを撫でながらぽつぽつと話した。自分が周囲に何を思っているか。何故アリアを突き放したのか。そして、アリアの事をどう思っているのかまで。

 

「あなたの事が大切で、大好きなの。それなのに私、あなたに酷い事を言ったわ。だから────」

「ふぇっくしゅ!」

「……もうっ!アリア!」

「えへへ……ごめん。でも、ぼくもミアちゃんのこと大好きだよ。だから、大丈夫」

 

 まだ震えが止まっていない手で、アリアはミアの手を取る。その手は冷えているはずなのに、ミアにとって何より温かいものだった。

 

「……もう、まだ寒いんじゃない。ブランケットじゃ足りないでしょう?」

 

 そう言ってミアは屋敷を飛び出す時に慌てて掴み、道すがら適当に巻いたマフラーを解くと、アリアの首に巻き始めた。青地に白の刺繍をした、ミアのお気に入りのマフラーを。

 

 思えばこの時だったのだろう。双子の姉妹のような親愛が、重く濃い恋愛に変わってしまったのは。




『アリア父』
腕利きの狩人。雪崩が発生した際、事前に作っておいた緩やかな傾斜を滑るアリアの雪そりに自力で追い付き、傍まで流れて来ていた雪の波は背中で防いだ。その後は普通にアリアを己の足で自宅まで運び、ミアが着くまで介抱していた。

『アリア母』
あらあらうふふ系。娘の心配はしていたが、旦那の方は気にも留めていなかった。何なら『アリアを守れていなかったならトドメを刺してやろうと思っていた』と本人に言ったらしい。

『マフラー』
実はアリアも同じようなデザインで赤地に黄色で刺繍をしたものを持っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。