MEMちょの父親ゴロー先生概念   作:カルビ肉

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片思いの心

あれからさほど時間が経たずにあかねが事務所にやってきた。

今はレッスンルームでルビーに写真を撮ってもらっている二人を遠目に眺めている。

 

「いや、アクたんはもうちょっと近づいてもいいんじゃないの?」

「むしろ居ないぐらいでちょうどいいと思うんだが」

「あはは、アクアくんの言い分もわからないでもないかな。メムちゃんはアイドルだもんね」

 

あかねの言う通りだ。

今ガチの縁の写真だから一緒に映ったが、これでも妥協したほうだぞ。

 

「まぁ、しょうがないかもだけどさぁ」

「悪いな」

 

別にファンとして『アイドルに男の影があってはいけない』とまでは思っていないのだが……。

こればかりはどうもな。

 

「そうそう、そういえばあかね、ライブの時のオタ芸仕上がってたねぇ」

「アクアくんから教えてもらったんだ!」

 

その言葉で俺があかねに押し売りしたのだと思ったのだろう。メムからジト目が向けられる。

 

「あ、無理やりじゃないよ?アイドルのライブはアイドルとファンの双方向のコンテンツだって聞いたから、せっかくだし私もやってみたくって」

「あー、なるほどねぇ?」

「そう、あれは勉強だよ。私もいつか役者としてこってりしたオタクみたいな子の役をやるかもしれないし」

「てっきりアクたんの趣味に染められちゃったかと思って心配したよお……」

 

相変わらず真面目だねぇ、とメムは一人納得している。

 

違う。騙されているぞ。

確かに役の引き出しを増やしたいという一面もないわけではないのだろうが、あかねもライブを普通に楽しんでいた。それは隣にいた俺が保証する。

あとあかねの有馬推しは俺の影響じゃない。

 

「いや、アンタあの恰好で勉強は無理でしょ。普通に楽しんでたじゃない」

 

俺の考えていることをそのまま言う奴がいた。

推された張本人である、あかねの激推し有馬かなだ。

 

「私のカラーのサイリウム振ってたもんねー?あーそうよねー、あかねちゃんは私のファンだもんねー?しょうがないっかー?」

「わ、私は演者として勉強してただけだから!かなちゃんこそ自意識過剰なんじゃない!?」

 

売り言葉に買い言葉とはこのことだろう。いつぞやのように二人は舌戦を始めた。

 

……やはりこの二人が揃うとこうなるんだな。

根が真面目なあかねでは煽りあいには勝てないというのに、同じ土俵に乗ってしまうのは元ファン故なのだろうか。

 

「アクたーん、これ止めなくていいのぉ?」

「平常運転だよ」

 

初見なのだろう。突然始まったバトルにメムも困惑している。

お互い最低限は弁えているしこのまま放っておいても大丈夫だとは思うが、メムに無駄な心配をさせるのは心苦しい。

 

「ああ見えてあかねは有馬を切っ掛けに役者になろうとしたぐらいだからな。今では立派な反転アンチだけど、あれはあれで楽しいんだろ」

「なんで言うのアクアくん!?」

「有馬カラーのサイリウム振り回してたのネットに拡散してるじゃねぇか。諦めて素直になれよ、めんどくさいし」

「~~~~っ!!」

 

そう言うとあかねは顔を真っ赤にして声にならない叫びをあげた。

ちょっと可哀そうな気もするが、この件に関してはあかねが素直になればいいだけの話だしな。

 

「ビジネス上の付き合いとはいえ彼氏に見捨てられるなんて哀れねぇ、黒川あかね」

「こ、これはアクアくんからの気遣いなんだもん!そういうかなちゃんだってアクアくんとの買い物をデートなんて勘違いしちゃって!男の人とお付き合いしたこともないからなんでも誤解しちゃうんだ!」

「はぁ?いつ誰がデートなんて言ったのよ。私はアクアと同じ事務所だし?ビジネスカップルのアリバイ作りしかないあんたとは違って遊びに行くのなんて普通だし?どこぞのかまととぶってるむっつり女と違って健全な人付き合いをしてるだけよ!」

 

話進まねぇ。

いや、見ている分には面白いんだけど。今は7:3で有馬が優勢って感じか。

……立って眺めているのもしんどいし、部屋の隅に椅子があるのでそれに座って眺めることにする。

 

「私も座るー」

 

すると俺の膝にルビーが乗ってきた。

ご丁寧に滑り落ちないよう首に手を回してきているので少し重い。

 

「暑いんだが」

「えー、いいじゃん」

 

暖房も効いているしあまりひっつかれると汗ばむんだが。

まぁ、ルビーが気にしないならいいんだけど。

 

「そこぉ!なに観戦モードで兄妹でいちゃついてんのよ!離れなさい!」

 

そんなことをしていると、目敏くこちらを見つけた有馬のタゲが向く。

さっきまで有馬とやりあっていたあかねの目線も心なしか冷たい。

 

「先輩たちの漫才まだ続きそうだし、私もお兄ちゃんに倣っただけだよ?」

「だからって膝の上に座ることないでしょ!あと何が漫才だってぇ?」

 

打てば響くリアクションとはこのことか。

やはり有馬はアイドルに向いていると思うぞ。……バラドルかもしれないが。

これならひな壇も問題なくこなせるな、なんてしょうもない感想が頭に浮かんだ。

 

「えー、兄妹だしこのぐらい普通じゃないの?」

「普通なわけないでしょ!アクアもアクアよ!兄としてルビーにビシッと言ってやりなさいよ!」

 

あまりにも堂々としたルビーの物言いに気圧されてるな、有馬の奴。

それにビシッとか。

ふむ。

 

「外では気を付けろよ?」

「はーい」

「そうだった、コイツわざわざ同じ高校通うぐらいシスコンだった!」

 

そうだけど?

 

「アクアくんがルビーちゃんを大事にしてるのは知ってるけど、それはちょっと距離近すぎるんじゃないかな……?」

 

あかねからも同じようなことを言われる。

どこか取り繕った感じがするのは気のせいだろうか。

 

……スキンシップ過剰の自覚はあるさ。

ルビーは妹ではあるが、さりなちゃんの事を考えるとどうしてもな。

満足に動くことすら叶わなかった過去を思い出すとこのぐらいの我がままは許してやりたくなってしまうのだ。

 

それにルビーも兄妹として過ごすということに納得してくれているが、それでも雨宮吾郎への感情を持て余してしまっているのだろう。

さりなちゃんの僕への思慕がどれほどのものだったのかは想像もつかないが、そうそう割り切れるものでもないだろうしな。

ストレスになるぐらいなら、こうして少しずつでも発散してくれればそれに越したことはない。

 

「そうよ、あんた好きな人がいるんじゃないの?そんなブラコン拗らせた女と付き合おうとする男なんていないわよ!」

 

ルビーに好きな人がいると聞いて身構えたが、その男は……僕、なんだろうな。

というかルビーのやつ有馬とそんな話をしていたのか。日頃は結構おざなりな対応をしていると思っていたんだが、案外仲良くやっているんだな。

 

「男っ気のない先輩に男を語られても響かないなぁ。それにいいもん、せんせは私がブラコンでも気にせず見守っていてくれるから!」

「クッソむかつくわねこの後輩。どんな業背負ってんのよソイツ……ん?見守る?」

 

有馬が言葉の違和感に気づいたのだろう。このまま話が進むとややこしくなりそうだ。

ルビーの発言は失言というほどでもないが、かといってその男が死んでいるなんて話をしても場が暗くなるだけだ。

ここは話題を変えるべきだろう。

 

「てか有馬はいつまであかねの事いびってんだ?そこまでにしておいてやれよ」

「ライブで突然あんな姿見せられたこっちの身にもなりなさいっての。このぐらいの意趣返しはしてもバチあたらないじゃない」

 

一理ぐらいはあるかもしれない。

そうか、あのライブの序盤で有馬の動きに違和感があったのはそういうことだったのか。

 

「というかアンタにも責任あると思うんだけど?あのイルミネーションみたいな恰好はアンタの入れ知恵?」

「いや、あかねの自前」

「ぷっ、何よそれ。ウケるんですけどー?」

 

有馬に目線を向けられたあかねは真っ赤になって俯いていた。

だから言ったじゃないか、せめてネックレス型のサイリウムは外さないかって。

 

……本格的に可哀そうになってきたな。

どうにかしてこの場を解散させようと考えてみるが、なかなかいい案が思い浮かばない。

そもそもあかねは今日はメムと写真を撮りに来たんだろ。

 

……そうか、写真か。ちょうどいいか?

 

「あかねと有馬で写真とってお開きにするか?」

「その案いただきぃ!」

 

メムもこの場をどう収めるか考えていたのだろう。

俺のぼやき拾ったメムがスマホを取り出し二人に近づいていった。

あかねのスマホで撮ってやった方がいいだろう。俺にもたれ掛かるルビーを立つように促し付いて行くことにする。

 

「えー、誰がこんなのと……」

「さっき自分で言ってたじゃねぇか。お前が育てたファンだろ。ファンサしてやってもいいんじゃないか?」

 

あかねにスマホを渡すよう要求すると素直に渡された。

有馬は不満そうだが、あかねの方はまんざらでもなさそうだな。

 

「ほら二人ともポーズ取って!」

「えっ、ポーズって……わ、私どうしたら……!」

 

テンパり過ぎて今ガチの小動物だった頃みたいになってるな。有馬と写真撮るだけなのに緊張しすぎじゃないか?

あかねの有馬への厄介オタク度を見誤っていたのかもしれない。

 

「チェキなら二人の手でハートマーク作るやつとかいいんじゃない?」

 

ルビーがお手本でハンドサインを作る。

 

「は、ハート?こうかな……?」

「おー、いいねぇ!ほら撮るよー!」

「ちょっと、まだファンサするなんて言ってないわよ!」

「悪あがきすんな。はいチーズ」

 

撮られることへのプライドか、掛け声をするとすぐに有馬もポーズを決めた。

俺がシャッターを切るのと同時にメムも連射モードで撮影する。

 

「……はいチーズって、アンタおっさん臭いわよ」

 

うるせぇ。何と言われようがこの掛け声が一番しっくりくるんだよ。

有馬の毒を受け流し撮影した写真の確認をする。手振れとかは問題ないな。

 

あかねは恥ずかしそうに片手で半分のハートマークを作っていた。

なんというか、ファン感出てるな……。

 

一方の有馬は流石といったところか。

直前まであれだけ文句を言っていたが、撮影した写真ではそんな素振りを欠片も感じさせないような仕上がりになっていた。

画面の中の有馬はとてもいい笑顔をしていた。アイドルとしてファンと撮影する完璧な写真といえるだろう。

その手がグッドマークじゃなければ。

 

有馬の奴、ハンドサイン変えやがった。

 

「かなちゃんどうして!?」

「なんで私があんたなんかとハート作らなきゃいけないわけ?ただのファンにはこれで十分よ!」

 

あかねのクレームに欠片も堪えた様子がないのはさすがだろう。むしろ笑みを浮かべる姿には余裕すら感じる。

……ほんとイイ性格してるよ、お前。

 

「にゃはは……でもこれはこれでアリ、かも?」

「有馬っぽさが出てるな」

「うわー、なんかこってりした感じの写真になったね。先輩の需要にぴったりじゃない?」

「私の需要ってそういう層なの!?」

 

ほら、あかねが有馬に向ける感情もこってりしてるし……。

以前ルビーが言った『有馬はこってりしたオタクに受けがよさそう』という評も、最近はあながち否定できなくなってきた。

 

「せっかくかなちゃんとツーショット撮れたのに……」

「有馬の捻くれっぷりは今に始まったことじゃないだろ。そんなにショックなら消そうか?」

「…………欲しい、です」

 

言えたじゃねぇか。

少し離れたところでしょぼくれているあかねにスマホを返してやると安心したように微笑んだ。

熱心にスマホを見ているところを見ると、なんやかんやでやっぱりファンなんだなと思う。

 

 

後日談だが、あかねのインスタを見たゆきユキコンビとケンゴの今ガチメンバーからもライブを見に行かせろと連絡が来たり、その3人にあかねの有馬推しがバレてメムがいじられたりしたのは余談である。

 

 

 

 


 

 

少しでもB小町の宣伝になって、メムちゃんにお返しできれば。

そんな気持ちとは別にアクアくんとB小町の皆の今の距離感を知りたいという目論見があった。

……その目論見はかなちゃんのせいでほとんど吹き飛んでしまったが、それでも収穫はあった。

 

以前、ちょっとの年の差と言っていたので自信が持てなかったけれど、ルビーちゃんが好きな人は雨宮吾郎と確認できた。

 

アクアくんとの兄妹とは思えない距離感は恋人に向ける愛情の代替なのだろうか。

メムちゃんが二人に対して特に何も言わないのはその関係を受け入れている……いや、あれは尊重している感じかな。

 

ただ間違いないのはアクアくんもルビーちゃんも確実に雨宮吾郎と面識がある。

まだまだピースは足りていないがそれでも一つ、ハッキリとした予想ができてしまった。

何故そうなったか、まではわからないがその仮定が現状に対して最もフィットしているように思う。思ってしまう。

 

 

「アクアくんは雨宮吾郎になろうとしている……?」

 

 

もしそうなら、本当のアクアくんはどこにいるんだろう。

やっと自由になれたと言っていたハズなのに。

 

――その生き方に私の居場所はないんじゃないか。

そんな漠然とした不安が頭を過った。

 

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