「アクたんがお父さんだって思ったら恋愛周りのことまったく安心できなくなったんだけど?」
散歩から宿への帰り道、ふとメムが思いついたかのように話しだした。
「信用ねぇな。仕方ないけど」
正論の暴力だ。
彼女から見た俺は……まぁ、ダメ男になってしまうのだろう。
「いちおう聞くけど……ママとは、その……よリを戻そうとは考えてないんだよね?」
「ああ、そりゃな。今の俺は星野アクアだ。……彼女に彼女の人生があったみたいにな」
それに考えてみろ。
いきなり40越えの未亡人が俳優やってる未成年と結婚を前提にした付き合いをしてみろよ。
それはもうホラーだよ。犯罪超えてるよ。
「この際聞くけど、なんであかねを宮崎まで連れてきたの?こう、かなちゃんだって……その……」
「有馬が俺に好意を持っていることか?」
「気づいてたの!?」
「まぁ、あれだけ分かりやすければな」
有馬は基本人に対して当たりが強く捻くれていて、ともすれば暴君じみた人物だが俺に対しては素直なところがある。
正直、チョロ……。いや、なんでもない。
ともかく、なぜ有馬が俺に好意を向けているのかはよくわからないがそういうことだろう。
それにあかねを連れてきたワケか……。
いろいろ理由はあるが、まさか自分の死体を探してもらうためだったなどとは言えない。
「もしかして……あかねを連れてきたのって別れ話のためなんじゃあ」
察しがいいな。だが。
「違うぞ」
「えっ」
メムになら、まぁ、言ってもいいか。
足を止めて彼女に向き直る。
「あかねに改めて告白しようと思ってるんだ」
「は?今の流れでなんで?」
「有馬はアイドルだ。男の影があればそれだけでリスクになる。俺とあかねが付き合っているとはっきりさせれば有馬も諦めがつくだろ」
信じられないものを見る目で見られた。
「あかねの気持ちは?ビジネスじゃなくてガチで付き合うってことはあかねのこと本気で好きになったんだよね?」
「…………好きだよ?」
「疑問形じゃねーかよお!」
いや、だって。
「たしかに数日前までは別れようと思っていた。それにあかねには俺に恋愛感情がないことはバレているんだ」
「うそお」
「あかねも俺への気持ちが恋愛感情なのかどうか持て余しているようだし、いつまでも俺の都合に付き合わせるのも申し訳ないしでここらで清算するべきかと思ってたんだけどな」
そう、数日前までこれは旅行デートという名のお別れデートだったハズなのだ。
「ただまぁ、あかねが俺を好きになろうとしているのは伝わってる。悲しませるのも悪いし、有馬のこともあってな」
だから、改めてあかねと付き合おうと思うんだ。
「それはやっちゃダメなんだよお!娘としてもダメでーす!」
「なんでだよ」
「私とかなちゃん。仲間、友達。OK?」
「だからこそだ。これも有馬のためなんだ」
たとえ傷ついたとしても、有馬なら立ち直れる。
散々利用する形になってしまったあかねも悲しむことはない。
完璧なプランだとは思わないか……?
「わかってない!無駄にいい顔で何言ってんのさ!?」
「先日の買い物で有馬と一日過ごしてわかった。やはり彼女は見るものを魅了する、輝くものを持っている。……僕はそんな有馬を応援したいんだ」
「それでこんな応援の形になるの?!かわいそう……かわいそうがすぎるよ、かなちゃん……!」
「なんでだよ。ちょうどいいだろう?」
すると、メムはいきり立ち俺に顔を近づけてきた。
心なしか頭の角も伸びているような気がする。
「この恋愛クソボケがぁああああああ!!」
絶叫。
えっ、そんなに怒らせるほどダメなのか、これ?
「ちょうどいいってだけで恋愛してんじゃねーよお!!どうしてそう泥沼関係を自分から生み出そうとしてるの!?」
「いやいやいや、そんなつもりは……」
「そんなことされたらかなちゃん死んじゃうよ!今度は口きいてくれないとかそんなレベルじゃないよ!!応援したいって言ってるのになんで脳破壊しようとしてるの!?」
また、有馬が話を聞いてくれなくなる、か……。
たとえそうだとしてもだ。
――あの日、腕の中で冷たくなっていくアイがフラッシュバックする。
「――わかってないな。アイドルに男がいることを許せない奴らも必ずいる。もしそんな奴が暴走してアイみたいなことがまた起きれば、俺は……」
今度こそ、もう無理だから。
「はぁー、アクたんの気持ちはわかったよ」
俺の真剣さが伝わったのか、先ほどまでの様子から一転してメムも真剣な顔をして俺を見ている。
「でも、乗り気じゃないかなちゃんをアイドルに誘ったのだってアクたんでしょ。モチベのために責任取って付き合え、っていうわけじゃないけどさあ。傷つけたくはないんでしょ?」
それは……勿論だ。
有馬を傷つけたいわけじゃあ、ないんだ。
また、ため息。
「ママとだってさ、自分の気持ちを素直に伝えないからあんなことになったんでしょ?」
ほんと、素直じゃない人。
ママも離れていったわけだわー、とあからさまにあきれているのが見て取れる。
なんならそこらのゴミでも見るような目で見られてる感じがする。
どうしよう。胸がえぐられるようだ。
そうか、やっぱり僕はダメな男なんだな……。
「あかねの事も応援したいけどさあ、かなちゃんのために付き合うのはさすがに違うじゃん?今すぐさ、結論ださなくてもいいでしょ。もうちょっとビジネスカップル継続したほうがいいんじゃない?あかねも、かなちゃんも私の大事な友達だから。……手伝ってあげるからさ。ね?」
そうかな……。
いや、やはりいつまでもビジネスカップルなんて曖昧な関係に甘えたりせず、はっきりさせておくべきなんじゃないのか?
「でも……」
「返事は?」
その言葉には有無を言わせぬ圧があった。
「……はい。善処します」
空を仰ぐ。
俺はメムには勝てない。なるほど、世間の父親というやつもきっとこうなんだろう。
あとでスイーツでも使って機嫌を取ろう。
そう、思った。
別題「クソボケアクアくん」
重曹ちゃんの脳は守られた。
原作は意図的にアクアの心情を描写していないのか、このあたりのアクアのムーブをつかみ切れていないので独自解釈。
相談できる家族がいるって素晴らしい。
だからMEMちょ、アクアの恋愛相談は頼んだぞ!
次はあかねちゃんかルビーのお話。