プロローグ・始まり
幻想郷周辺 スキマにて
「…?あれは…?」
スキマの妖怪は、それを見て目を留めた。
そこにあったのは、見慣れぬ形の飛行船。近づいてみると、それは明らかにこの世界のものではなかった。
(外の世界のものか…。でも、こんなものは見たことがない。自力でここに入り込んだのか? 忘れられるような存在には見えないし…何かあるかもしれない)
そう考え、ひとまず乗組員に話を聞いてみることにした。
入り口らしき場所はすぐに見つかったが、扉は開かない。仕方なくスキマを使い、内部へと足を踏み入れた。
歩きながら船内を見渡す。ぱっと見はどこにでもある飛行船のように見えるが…。
「内装自体は特に変わったところはない。でも、自力でスキマに入ってきたくらいだから、ただの船ではないはず」
独り言を呟きながら進んでいくと、大きな扉が目に入った。
近づくと、自動で開く。
その奥には制御室らしき部屋があった。機械が並ぶ中、一番大きな椅子に座った人物がいた。女性のように見えるが、何やら慌ただしくモニターを操作している。
「ねえ、貴女がこの船の船長?」
「!?」
女はひどく驚き、勢いよく振り向いた。
「な、何者だ!? どうやって入ってきた!?」
「心配しなくても大丈夫。私はこの空間の主で、いつも通り見回っていたら、貴女の船を見つけたの。気になったから声をかけただけ。…で、貴女はここで何を?」
「…そうか…」
女は一度うなだれた後、ぱっと顔を上げた。
「よかった!なら、私とこの船をここから出してくれないか!?」
「…?どうしたの?」
「私は
彼女は、状況を語り始めた。
「この船は《ベイトーア》と言って、私が7年かけて作り上げた、空間と時空を超えることができる船だ。試運転も兼ねて、様々な世界を巡っていたんだが…突然ワープ機能が暴走して、闇雲にワープを繰り返した挙げ句、ここで停止した」
「へえ…」
「しかも、その後調べたら船自体が完全に壊れていた。だから、この得体の知れない空間で立ち往生していた、というわけだ」
スキマの妖怪は、その話を聞き終え、ひとつ呟いた。
(空間と時空を超える船…ねぇ。そんな代物があったとは驚きだけど、確かに見た感じ動けそうな様子じゃないし、多分この人の話は本当。偶然ここに迷い込んだのね…)
(…まあ、このまま放っておくのもかわいそうだし、何よりこんなところに居座られても困る)
そう考えた彼女は、凛央に提案する。
「なら、貴女…幻想郷に来る?」
「…げんそう…? それは何だ?」
知らないのも無理はない。
「この空間のすぐそばにある世界。私もそこに住んでいるわ。悪い人には見えないし、帰るのを手伝ってあげる。うちの庭で、船の修理をしなさい」
「本当か!? それはありがたい…感謝する!」
「お礼はいいから。さ、行きましょう」
こうして、妖怪はその船を幻想郷へと招き入れた。
「おお……これが……」
幻想郷の風景を前に、凛央は息をのんだ。
「素晴らしい……なんと美しい世界なんだ……」
そして、ふと思い出したように口を開く。
「そうだ…貴女の名前は?」
「私は八雲紫。さあ、こっちよ」
こうして、異界の旅人・凛央は幻想郷へと迎え入れられた。
——しかし、この時はまだ誰も知らなかった。
彼女がこの世界に来たのは、決して偶然ではなかったこと。
そして、この出会いが——この世界を、地獄へと変えていくことを。