相手が恐れを抱くものの姿に化ける能力を有している。
その正体は古い傘が変化したもので、人間に悪意はないが、時として怨念が蘇る事がある。
優れた鍛冶職人でもあるという。
「…で、どうする?」
「とりあえず、生き残りを確認しよう。そんでお医者様の所に戻って報告、だな」
人々に聞いて回ったが、犠牲者は今変異した者達だけのようだった。
そして、そうしている間にまた騒ぎが起きて…という事もなかった。
「よし、後は戻るだけだな」
「あの占い師はどうする?」
「あいつは別に悪意があった訳じゃないさ。詰める必要はないだろうよ」
「そうか…」
そして、二人は戻ろうとした。
しかし、戻れなかった。
なぜなら、その途中でまた刺客が来たからだ。
「待て!」
声の方を見ると、家の屋根の上に一人の女が立っていた。
それは左右で異なる色の瞳を持ち、青い髪をした、緑のワンピースの女だった。
「誰だ!」
「ん?お前は…」
「私が誰かなんて、あんた達には関係ない!
あんた達は…私がここで殺す!」
そして、女は飛び降りてきた。
よく見れば、手には紫色のボロ傘を持っており、靴ではなく下駄を履いている。
「まるでから傘お化けだな…」
「正解だぜ、姜芽」
龍神が、目線を女から逸らさずに言った。
「…?」
「こいつは小傘…古い傘から生まれた化け物だ」
すると、小傘は龍神の方を向いて怒った。
「化け物!?あんた、今化け物って言った!?」
「本当の事だろうが」
「私は妖怪だ!化け物とか呼ぶな!」
「妖怪でも、付喪でも、化け物でも、何でもいいだろ。
で、何?俺達を殺すって?」
「そう…私は、あんた達を殺す!
そして、その恐怖を喰ってやる!」
「恐怖を…って、お前は全然怖くないんだが」
姜芽がそう言うと、小傘は怪しげに笑った。
「何がおかしい」
「…あんた、本当に知らないんだね。いいよ、見せてあげる。私の能力を…」
そして、小傘は姿を変えた。
球形の黒い体に3つの青い目があり、歪かつ異様な形の手が無数にある、という姿をした化け物。
それはちょうど、ノワールの生体兵器の様でもあった。
それは、龍神からすれば見慣れたものだった。
しかし、姜芽は言葉にしがたい恐怖を感じた。
「…っ!」
「…姜芽!」
龍神に突き飛ばされ、化け物の触手による攻撃を避けられた。
「助かった…。なんなんだ、あいつは!」
「小傘は、相手が恐怖を抱くものの姿に化けられる。
そして、元々貧弱な自分の強さを何倍にも引き上げるんだ」
龍神は、変身した小傘を見つめた。
「まさか、自分から化け物になるとはな。まあいい」
彼は刀に手をかけ、一瞬だけ刀を抜き、そして納めた。
化け物の上半身…頭部とでも言うべきかーの部分に、横に一筋の斬撃が走る。
同時に、おびただしい量の血が噴き出す。
「[影抜刀・切捨]」
龍神は、技の銘を言った。
化け物は悲鳴とも取れる叫び声をあげ、へたれこんだ。
そして、それは元の姿に戻る。
「う、うぅ…」
小傘は額を押さえる。
額からは、とめどなく血が流れている。
「まだやる気か?」
「当然でしょ…次は、こうだ!」
小傘は傘を広げ、技を放った。
「傘符 [バブルバレット]」
「…おっと!」
傘から飛び出した複数の水の球を、姜芽はジャンプして躱した。
火属性である姜芽は、水の攻撃には弱いのだ。
「水か…ちょっと分が悪いな」
すると、代わりに龍神が前に出た。
「姜芽、下がってろ。俺がやる」
龍神は左手に電撃を纏い、手を突き出した。
すると、小傘は傘を広げてそれをガードした。
「随分と強度が上がってるな」
「強化を施してもらったからね」
「強化だと?」
「そう。ある人に協力する代わりに、私の能力を上げてもらったんだよ。
今、私は防御も攻撃も前よりパワーアップしてる」
そして、小傘は傘を閉じ、また開いた。
「だから、外来人だろうと簡単に倒せる。
[レイニーストーム]」
足元から水の混じった竜巻が吹き上がってきたので、龍神は宙返りして躱した。
「なるほど、確かにパワーアップしてるな。
なら、こっちもそろそろ見せてやるか」
そして、龍神は刀を抜く。
「刀技 [バイスブレード]」
最初に、刀を強化する技を使う。
それを見た小傘は、目を見開いた。
「へえ…ずいぶん立派な刀だねぇ」
「なんだ?…そうか、お前は刀鍛冶でもあるんだっけか」
「そうだよ。…その刀、結構な業物だね。それを鍛えた人は、きっと確かな腕があったんだろうよ」
「まあ、そうだな。こいつは俺らの世界にいたとある賢者が、生涯をかけて鍛えた刀でな。そのままではそこまででもないが、魔力を流せば最強格の刀になる」
「ふーん…気になるねえ」
そして、小傘は身の回りに複数の小さな魔法陣を展開した。
「それ、もっとよく見せてもらうね。…あんたを始末した後で、ね」
魔法陣から一斉に弾幕が放たれた。
龍神は、それらを刀で受け止めた。
そして、攻撃が止むとすぐに小傘に飛びかかった。
「刀技 [メドールスラッシュ]」
小傘の腹を切り裂き、続けて術を使う。
「雷法 [グロウサンダー]」
電撃を切り裂いた部分に打ち込む。
そして、小傘はあっさり倒れた。
「あっけなかったな」
「電気に弱かったのか…?」
「いや、そういう訳ではなかったはずだ…」
と、突然小傘の体が震え始めた。
そして痙攣するようにして跳ね起き、目を見開き、歯をガタガタ言わせながら、紫の液体をあちこちから撒き散らして変異し始めたー
「…な!」
見る間に小傘は全身が元より二回りほど大きくなり、目は血走り、右手は傘と一体化した、怪物の姿になった。
「こっからが本番か…!」
小傘は咆哮を上げ、龍神にタックルをかました。
「ごほっ…!」
「龍神…!」
「だ、大丈夫だ…。
パワーが、すごい事になってんな!」
小傘は、姜芽の方を見た。
そして傘を振りかぶり、殴りかかった。
「うおっと!」
姜芽はそれを躱し、魔弾を放つ。
「[フレイムレイト]」
しかし、小傘にはさして効いていないようだった。
「傘は硬いか…なら!」
次は頭を狙って魔弾を放つ。
これは効いたようで、小傘はうめき声を上げて膝をついた。
今だとばかりに飛びかかり、頭に斧を振り下ろす。
しかし、小傘は姜芽を掴んで投げ飛ばし、龍神もその巻き添えを食った。
追撃されないうちに立ち上がり、龍神は電撃を撃った。
そして、小傘を痺れさせて動きを止め、その間に姜芽が技を繰り出す。
「斧技 [火炎割り]」
炎の力を込めて叩き割る技で、小傘の体を頭から真っ二つに斬り裂く。
小傘は、大量の紫色の血と共に倒れた。
「よし…」
「これで、終わったよな…?」
「と思う。まず、今のうちに行こう」
そして…
「おーい」
「あ、あなた達は…」
「あんたに言われた通り、行ってきたよ。
まあ、こっちでも色々あったけどな」
二人は、これまでに何があったかを話した。
「そんな事が…
あと、その妹紅…って、誰?」
これには、龍神が反応した。
「えっ?あんたのお友達だろ?」
「まさか。私に友達なんていないし、そんな人知らないわよ」
「はあ…?いや、だってあいつを変えたのは、あんただろ?あんたがあいつに薬を飲ませて、不老不死に…」
「何のこと?不老不死の薬なんてあるなら、私が欲しいくらいなんだけど」
「…。ま、まあいい、気にしなさるな」
龍神は、もはや諦めたようだった。
「それより、あなた達には行って欲しい所があるの」
「どこだ?」
「危険な場所なんだけど…ここより北に、紅魔館って所があるの。さっき、そこから使者が来てね…あなた達を、領主が呼んでるらしいのよ」
「領主…?そりゃまた、なんでだ?」
「それはわからないけど…あなた達が行かないなら、こちらから無理にでも連れていく、なんて言ってたわ。だから、どうか…」
「そいつは何者なんだ?」
「あそこの主は、確か吸血鬼だったはず。
相手の運命が見えるとか…」
「能力持ちか。まあいい、吸血鬼だろうが何だろうが、敵対する奴は倒す」
「本当に大丈夫…?」
「心配ない。それに、龍神は今まで何回も吸血鬼と戦ってきたしな」
「いや、ノワールのとは訳が違うんだぞ?でも、まあ…」
「…よくわからないけど、行ってはくれるのね?」
「ああ。すぐに行こう」