東方訪問記   作:白い花吹雪。

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古くから館に仕えてきた妖怪。
どこのものともつかぬ拳法を扱い、鍛えられた肉体と優れた技を持つ。
外でも有名な存在だが、その出自と正体は誰も知らない。


4-1 北の大地

里を出て北へ向かうと、荒涼とした大地が現れた。

 

「この先に、館があるんだな?」

 

 

 

「そうらしい…」

 

 

 

見渡した限り、しばらくはほとんど何もない、平坦な道が続きそうだ。

「しばらく暇そうだな」

 

「ぽいな…」

 

化け物が出てくる可能性もあるが、岩などの影にだけ気をつければいいだろう。

 

「せっかくだし、なんか話でもしてくれるか?」

 

「いいぜ。何を話そうか…」

龍神は少し考えて、手を叩いた。

 

「そうだ、ならこの土地の化け物にまつわる話でもするか」

 

「面白そうだな。聞かせてくれ」

 

「わかった。まずここは、吸血鬼、って呼ばれる化け物が支配するエリアだ」

 

「吸血鬼…ねえ」

ノワールにも吸血鬼と呼ばれる存在はいる。

アンデッドの仲間である負の吸血鬼と、魔人という種族の一種である正の吸血鬼がそうだ。

「んで、奴らは妖怪の一種なんだが、普通の妖怪より少し強いって言われてる。あ、普通って言っても、ゴロゴロいる奴らの中の強い部類に入る奴らな」

 

少々わかりにくい表現だ。

龍神には、生まれつきある種の特性があり、人にわかりやすい説明をするのが難しかったり、狭い範囲の事にだけ強い興味や独特なこだわりを持ったりする…らしい。

昔、本人がそう言っていたのを思い出した。

 

「吸血鬼ってのは、基本的にはレアな妖怪で、数は少ないらしいが…基本的には、みんなやたら長生きだ。すごいのだと、数十万年生きてる奴もいるらしい」

 

「そりゃすごいな。ノワールにもそんなに生きてる奴いないな」

 

「ああ。んで、俺らがこれから行こうとしてる所にいるのもその吸血鬼の一人なんだが…まあ、言ってしまえばまだお子様の吸血鬼だな」

 

「子供の吸血鬼、ってことか?」

 

「吸血鬼としては、な。俺らからすれば、十分な間生きてるよ。なんせ500年は生きてるって話だからな」

 

「十分過ぎるくらい長い時間だけど、確かに何万年も生きてる奴と比べるとちょっと幼いかもな…」

 

「ま、そうだよな。で、その方が向こうの主なんだ。

確か、両親は何者かに殺された…って話だったと思ったな」

 

「じゃ、一人暮らしなのか?」

 

「いや…何人か、部下やらお友達やらがいたはずだ。

あ、あと妹もいたと思ったな」

 

「妹…?」

 

「5歳下の妹な。ま、ご本人と同等かそれ以上におっかないバケモンだけどな」

 

龍神がそんな事を言っても、正直説得力がない。

というのも、彼はノワールにおいて吸血鬼やアンデッドを倒す事を生業とする組織、「吸血鬼狩り」の最高権威で、しかも元々の戦闘力が高い「殺人鬼」という種族。

口では相手を化け物だ怪物だと言っていても、大抵はわりとあっさり倒してしまう。

 

「龍神の言うバケモンって、どんなレベルのバケモンなんだ…」

 

「んー、ちょっと難しいな。あいつはどちらかと言うと、力を抑えられなくて怪物になってるタイプだからな。あいつ自身は、悪い奴ではなかったと思ったな」

 

そのタイプか。

ノワールでも見たことがあるが、大抵は悲惨な結末を迎えている。

なぜなら、本人の力を外的に制御するのはとても難しい事であるからだ。

 

「それで、その姉はどうしてるんだ?」

 

「狭い牢獄に監禁してるのさ。殺さないあたり、あくまでも妹だから…って思ってるんだろうな。

…ったく、化け物姉妹が」

 

龍神は、最後の方は吐き捨てるように言った。

 

「…で、その館ってのはあれだよな?」

少し遠くに、立派な赤レンガの屋敷が見える。

 

「おっ。そうだよ、あそこだ」

 

 

 

 

 

 

門の前に着いた。

龍神は警戒しろと言っていたが、人の気配はない。

 

「誰もいないな」

 

「珍しいな。まあいい…」

門を開け、入り口をくぐろうとしたその時…

 

 

 

 

 

 

何者かが奇襲してきた。

 

「おっと!」

姜芽は間一髪避けたが、当たっていればそれなりのダメージを受けていただろう。

 

振り向くと、赤い髪に緑と白の服を着た女が立っていた。

それは、どこかの拳法のような、独特の構えを取っている、

「何者!」

 

「お前こそ何者だ。ここの門番か何かか?」

 

「そうだ、私はここの門番だ!

見かけない顔だな…この館に、何の用だ!」

 

「俺達は外来人だ。お前のご主人様に用がある」

龍神がそう言うと、女は独特の構えを解いた。

「…そうか。ならば入れ」

 

「やけに素直だな」

 

「お嬢様は、お前達が来ることを知っておられる。

もし来たら、決して傷つけずに通せと言いつかっている」

 

「そりゃ、またなんでだ?」

 

「それは知らない。私はお嬢様の命に従っているだけだ。

さあ、通れ」

 

よくわからないが、素直に入れてくれるならそれに越したことはない。

 

「なるほど、だから起きてたわけだな」

龍神の言葉を聞いて、女は怒った。

 

「…何!?まるで、私がいつも寝ているみたいな言い方だな!?」

 

「いや、実際そうだろ。んで、誰かさんに刺されて起きて、キレられるまでがテンプレだろうが」

 

「…!貴様、なんでそんな事を…!」

 

「気になるならお嬢様に聞きな。俺もお前みたいな奴と遊ぶ気はないんでね」

 

「なんだその言い方…私をバカにしてるのか!?」

 

「どうだろな。あ、そうそう。お前に会えたら言いたい事があったんだ」

 

「…何だ」

 

龍神は、おもむろに言った。

「工作时时不松懈、美鈴(たまにはサボらず働け、美鈴)」

 

それを聞いた女は、驚きつつ怒った。

 

 

「っ…!き…貴様ぁ…っ!!」

 

「なんて言ったんだ?」

 

「たまにはサボんないで働け、って言ったのさ。

こいつは確か中国出身だから、せっかくだし…な」

姜芽には中国語はわからない。

人間界にいた時はもちろん、ノワールでも使わない言語であるため、学ぶ機会がなかったのだ。

 

「そっか、中国語はいけんだもんな…」

龍神は、なぜか中国語、ギリシャ語、セルビア語とノワールではほぼ、あるいはまったく使われない言語ばかりマスターしている。

なお姜芽は、ノワールでもよく使われる英語、フランス語、ロシア語、ドイツ語を話せるが、あくまで日常会話ができる程度だ。

 

「ま、まず行こう」

怒りに震える女を横目に、二人は館の入り口をくぐった。

 

 

 




『紅魔館』
この世界の北の果てにある、怪物とも悪魔とも呼ばれる化け物が住み着く屋敷。
その外見とカラーリングから、常に異様な存在感を放っている。
世界の北方を散策している時に、赤レンガ造りの見事な館を見つけても、近づいてはいけない。
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