東方訪問記   作:白い花吹雪。

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幼き頃に主に拾われ、心を壊された人間。
普段は館内での雑務をこなし、侵入者を見つけた場合は無慈悲に排除する。
感情も理性も持たず、主の命に従ってのみ動く、生きた人形と呼べる存在。





4-2 館内

中に入り、姜芽はまずその内装に驚いた。

壁、天井、床…それら全てがとにかく赤いのだ。

床にはカーペットが敷かれているが、それも赤い。

 

「うはぁ、何もかも真っ赤っ赤だな…」

 

「ここの主は赤色にこだわりを持っておられるからな。

ま、こだわりなら俺も負けちゃいないが」

龍神の言う「こだわり」とは、何だろう。

何があっても働かず、ニート暮らしをしている事か。

決まったルーティンを、毎日的確に守っている事か。

一度決まった物事を急に変えると、異様に怒る事か。

 

そのどれか…いや、あるいは全てなのかもしれない。

癖の強い奴なのは知っているが、彼の全ては知らない。

 

「主、ってのはどこにいるんだ?」

 

「たぶん上階にいる。地下には間違ってもいかないはずだからな」

 

「そうか…なら、上の階に行こう」

 

そして、目の前にある大きな階段を登った。

 

その先にはエントランスのような広い場所があり、その先に2つに分かれて通路があった。

「なんか、どこぞの森の館みたいだな」

 

「は?どこがだよ」

 

「なんか…雰囲気がな」 

相変わらず、龍神は独特なセンスを見せてくれる。

 

「…そうか?」

 

「うん…ま、ここにいるのは斧じゃなくて槍を持った化け物だが」

 

「槍?」

もしそうなら、姜芽にとっては好都合だ。

槍や薙刀のような武器を持った相手には、斧で立ち向かうと何かと有利に立ち回れる。

 

「あ、あと魔法使いもいるな。確か…全属性だっけか」

 

姜芽は魔法…というか術はそこまで得意ではない。

一応、火や炎、溶岩などを意のままに操れる[炎操]の異能を持っており、火と光、地の術を使えるが、姜芽はどちらかというとパワータイプで、武器を用いた技を使う事が多い。

逆に龍神は魔法タイプで、武器単体の技よりは、電気を操る[電操]の異能で属性を付与した技や、術をメインに使う。

扱える術は電、闇、風。

 

「魔法使い…か。しかも全属性…

ちょっと、俺には分が悪いかもな」

 

「大丈夫だろうさ。あいつは体が貧弱だからな…」

龍神がそこまで言った時、突然何かが飛んできた。

 

「おっと」

龍神は体をよじってそれをかわし、姜芽も同様にして避けた。

「何だ…?」

"それ"は、姜芽の後ろの壁に刺さっていた。

引き抜いてみると、ありふれた形のナイフだった。

 

「ずいぶん威力があったみたいだな…」

その直後、何者かが襲いかかってきた。

 

「!」

咄嗟に抵抗したが、相手は機敏に手を回し、あっという間に姜芽は地面に這いつくばった。

 

「な、何者だ…!」

姜芽の視界に、鋭く光る短剣が映った。

 

 

 

直後、龍神が襲撃者に電撃を撃った。

それはジャンプして電撃を避け、龍神に斬りかかる。

龍神は素早くカランビットを出し、攻撃を止めた。

 

同時に、姜芽にも襲撃者の姿がはっきり見えた。

 

 

それは、少し背の高い、メイドのような格好の女だった。

 

「相変わらず殺意マシマシのお出迎えだな」

龍神は、冷たい目で言った。

 

「…やっぱり、私達の事を知っているのですね」

 

「そりゃな。あんたは、外ではかなーり有名だぜ?

外には、あんたの事が好きだって奴もたくさんいる」

 

「それはどうも」

言いながら、女は斬りつける。

「なら、あなたも私が好きなのですか?」

 

「んな訳あるか。まあ、短剣使いとしては…人殺しとしては評価してるが」

 

「ずいぶんと上から目線ね」

 

「そうか?あいにく人の気持ちはわからないタチでね」

 

「そうですか…」

 

そして、女は姜芽の方をちらりと見た。

 

「あなた達ですね、最近幻想入りしてきたという外来人は」

 

幻想入りという言葉の意味はよくわからない。

だが、こいつは別の世界から来た者がいることは知っているようだ。

「だから何だ…!」

 

「お嬢様が…この館の主が、あなた達に会いたいと申しておられます。

しかしその前に、私が技量を測るよう命じられました。

もし弱いようであれば、殺しても構わない…と」

 

女は龍神の腹を斬りつけ、姜芽の方に短剣を一本投げた。

姜芽がそれを斧で防ぐと、女はにわかに笑った。

「斧…?珍しい武器を使うのね」

 

「こっちでは珍しい武器なのか?」

 

「ええ。そんなもの使ってる奴はあまりいない。

外で見たきりかもしれないわ」

 

「え、お前ここの出身じゃないのか?」

 

それには、龍神が答えた。

「こいつは人間界出身だ。俺達と同じさ」

 

「よく知ってるわね、本当に」

 

女は目を閉じ、そして開いた。

「でも、それも無意味なこと。だって…」

 

冷たいその瞳が、赤く光る。

 

「あなた達は、この先には進めないのだから」

 

言ってくれるな。

そう言おうとした、その時だった。

 

 

「がっ…!?」

首と胸に鋭い痛覚が走る。

 

 

(な…何だ…?)

一体何が起きたのか。その認識すら出来なかった。

女の目が光ったと思ったら、首と胸を切られて…。

 

こいつは、相手に攻撃を認識できなくさせるとか、念じただけで相手に傷を与えるとか、そういう能力持ちなのだろうか。

あるいは、暗殺系の能力者か…。

 

いずれによ、厄介な相手だ。

 

即死はしなかったが、どちらもかなり深く切られた。

このままではまともに動けないと判断し、治癒魔法を使おうとしたら、その間に後ろから首筋を切られた。

 

さらにそのまま刃を刺しこまれ、背骨に沿って切り裂かれてゆく。

そして、魚のように切り開かれ…

 

「おっと!」

龍神が斬りかかり、妨害した。

 

女は短剣についた血を舐め、言い捨てるように言った。

「初めての味…あなた達、人間じゃないわね?」

 

「なら、何だと思う?」

 

「何かしら…人間のようだけど、何か違う。

人間の亜種…いや、人間の進化系種族?

どちらにせよ、人間と関係の深い別種族…ってところかしら」

 

「正解だ」

 

龍神は刀を横に持ち、術を唱えた。

「雷法 [ビームゲート]」

女のまわりに複数の小さな魔法陣が現れ、電気の光線が放たれる。

女は華麗な動きでそれを避け、無数の短剣を宙に浮かせる。

 

「刃符 [スライサーダンス]」

短剣の全てが連動して動き、丸く龍神を囲んで回転し始めた。

それは徐々にすぼまっていく。

 

(まずい…!)

姜芽は焦った。

ああなると、逃げ場はない。

 

しかも、詳しい事はわからないが、あいつは何か、相手を殺すのに都合のいい能力持ちのようだ。

龍神に、それを超えて攻撃ができるだろうか。

 

 

 

「…」

龍神は両手を広げて術を唱えた。

「[テンプス・カラール]」

しかし、何も起こらなかった。

 

…と思いきや、突然短剣の動きが止まった。

そして、高速で今までとは逆向きに回転し始めた。

 

「えっ!?」

女も驚きの声をあげた。

 

見る間に短剣は飛び散り、あたりに散乱した。

「な、なに!?何が起きたの!?」

 

女が驚いている間に、龍神は飛びかかる。

女はそれを避けた…ように見えたのだが、龍神はしっかりと女に合わせて動き、その腹を斬っていた。

 

それから、女は文字通り目にも止まらぬ速さで動き回った。

しかし、その全てで龍神が女に攻撃を当て、または受け止めていた。

 

「はあ…はあ…」

やがて、女に疲れが見え始めた。

 

「なんで?なんで…?」

 

「そんなのは後でゆっくり考えな、咲夜」

 

すると、女は目を見開いた。

「私の名前を…!?あんた、何者なの!」

 

「あんたが知る必要はない。あんたは、能力がなきゃ、さして強くもないしな」

 

「言ったわね…?」

一度動きを止め、短剣を手に構える。

 

「なら、本気で行ってあげる。

あんたに、私の評価を改めさせてやる!」

その赤い目は、再び光った。

 

龍神は一度目をつぶり、また開いて、

「やってみな?」

挑発的な笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

そこからはすごかった。

物凄い速度で女は龍神に斬りかかるが、龍神は全く喰らわずに回避する。

そして、しばらくそれが続いた後、

 

「[デッドショット・スパイン]」

龍神が弓を放ち、女を一撃でダウンさせた。

 

「うっ…!」

 

さらに、龍神は続けて刀を振るう。

「[メドールスラッシュ]」

 

そして、女の左腕を肩から切り落とした。

 

「…!!」

 

血を流し、切られた所を押えてへたれこむ女に、龍神は言った。

「まだやる気か?」

 

「っ…!あ、あんた達…覚えてなさいよ!」

 

そして、女は姿を消した。

 

 

 

「姜芽。大丈夫か」

 

「ああ、何とかな」

女と龍神がやり合っている間に、姜芽は治癒魔法を使っていた。

 

「あいつ…毒持ちだったのか?血がなかなか止まらなくて、苦労したよ…」

 

「ああ、あいつの短剣には出血性の毒が塗られてるらしい。だから、切られると血が止まらなくなるんだ」

 

「こっちにも出血毒があるのか…」

 

「あいつは特例みたいなもんだけどな。

さあ、先へ進もう」

 

 




タネあかし


姜芽「なあ、結局あれは何だったんだ?」

龍神「あ、あいつか?あいつは咲夜って言ってな。昔ここの主に拾われて、それからは完璧な生きた人形として育てられた、哀れな人間の娘さ」

姜芽「いや、そうじゃない」

龍神「ん?じゃなんだ?」

姜芽「あいつの攻撃…なんで受け止められたんだ?
俺には、攻撃動作すら見えなかったんだが」

龍神「あ、それはな。あいつの能力がカギだ」

姜芽「能力?…そういや、あいつの能力ってなんだったんだ?」

龍神「時間を操る能力…ま、[時操]ってとこか。
それで、相手の時間を…動きを止めて、攻撃するのが得意技なんだ」

姜芽「なるほど、それで…」

龍神「でもあいつは、無条件に時間を止められるわけじゃない」

姜芽「というと?」

龍神「あいつは、能力を使う時目を光らせる。
そしてその目を見た相手に、能力を発動できる。
つまり、あいつが能力を使う時に目を見ていなければ、問題ないんだ」

姜芽「あ、そういうことか」

龍神「向こうに、能力を無効化する術をこっちが知ってるって悟られなかったのが幸いだ。
もし悟られてたら、まぶたを切られてたか、目をえぐられてただろうからな」

姜芽「え…?あいつ、そんなことするのか?
見た感じ、普通のメイドだったけど…」

龍神「そりゃするさ。あいつは人間だが、幼い時にここの主に拾われて、従者として教育された。
その結果、人の心を持たない怪物になった。
余計な事を一切考えず、主の命に忠実に従う、操り人形になったのさ。…哀れなもんだよな」

姜芽「感情がない…ってことか」

龍神「そんなとこだ。命令されれば、殺人でも、死体の解体でも、人肉の調理でもするぜ。
あと、戦闘でもまあまあの手慣れだったりする」

姜芽「だろうな。辛うじて目で捉えれた所だけでも、結構な技術があるって伝わってきたよ」

龍神「姜芽からすりゃ、色々と分が悪い相手だったかもな。短剣には、斧では相性が悪いし」

姜芽「まあ…な。火でやれればよかったが、それをする暇すらなかったからな…」

龍神「ま、まずこうして幻想入りではお馴染みのとこに来て、近接に強い奴は倒したわけだ。
次は魔法使いか化け物お嬢様か、はたまた悪魔の妹様か…お楽しみに、だな」
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