東方訪問記   作:白い花吹雪。

14 / 77
この地域を実質的に支配する、血塗れの吸血鬼。
幼いながら、どこか高貴な印象を受けるその姿を見た人間は、生きて館を出る事は叶わない。
神と呼ばれた存在が鍛えた名槍を扱うとも、相手の辿る運命を見通す能力を持っているとも言われる。



4-3 謁見

道中ではちょくちょく、妙なものが襲いかかってきた。

それは、羽の生えた人間のメイド…のようなものだった。

 

龍神によれば、あれはここの主の牙にかかった人間の成れの果てであるという。

「この世界では、吸血鬼に殺された人間はまずゾンビになる。で、それは日光に当たると消滅する。

でも、それは肉体だけの話で、魂は消えずに彷徨い続ける。

その魂を作り物の肉体に閉じ込めたものが、あれだ。

『妖精メイド』なんて呼ばれてるが、妖精でもなければメイドでもない。ただの、生きた死人…化け物どもの奴隷だ」

 

それらは、いずれも短剣を持って襲いかかってきた。

姜芽からすると少し分が悪い相手だが、さほど苦戦はせずに蹴散らせた。

 

「数は結構だが、大したことないな」

 

「そりゃ、戦闘員みたいなもんだからな。

それより、ここのボスがメインなんでな」

 

そんな会話をしながら進んでいくうちに、立派な両開きの扉の前に来た。

 

「ここ…っぽいな」

 

「だな。…あ、ちょっと待ってくれ」

龍神はなぜかサングラスをかけ、ワイヤレスイヤホンを耳に入れた。

 

謎の行為に疑問を感じながらも、姜芽は左側、龍神は右側の取っ手を掴む。

 

「準備はいいか?

ここの領主様は、短気で血の気の多いお方だ。

くれぐれも失礼なく…そして、退屈させないようにな」

 

「…了解だ」

 

「それじゃ、行くぞ…!」

 

二人は、力いっぱい扉を引いた。

 

 

 

 

そこには、この館に入る時からここまでに出会った二人が。

「あれ、お前らは…」

 

「さっきぶりだな」

 

「お二人揃って、なんでここにいる?」

 

「あんた達の最期を…見届けるためよ」

メイドは、落とされた腕を辛うじて繋げたらしく、まだ繋ぎ目の部分を押えている。

 

「そうかそうかい。で…」

龍神が言いかけた時、向こうの二人の間にいた人物が喋った。

 

「二人の外来人よ、よくぞここまで来た」

 

それは後ろを向いたまま、語りかけてきた。

 

「ん…なんだ、もしかしてあんたが…?」

 

「そう…私がこの館の主。名前は…言うまでもないか。

お前の相方が、何もかも知っているはずだからな」

 

龍神は、鼻で笑った。

「さすがだな、お嬢様。よーくわかっておられる…」

 

「当然でしょう。ここにお前達が来ることも、今までのお前達の動向も、全てお見通しよ。

でも…ここに来たのは命取りだった」

 

そして、女は振り向いた。

 

「私は、この世界で最悪の悪魔と呼ばれる吸血鬼。

外来人よ…せっかくだ。お前達には、私が直々に洗礼を見舞ってやる」

 

蝙蝠ようの翼を生やした女。

その顔は子供のようだが、どこか高貴な印象を受ける、不思議な顔だった。

「洗礼…だと?」

 

「そう。

私の前に現れた者は、誰であろうと殺す。

しかし、私はお前達の強さを知っているし、認めている。

そこでだ…一度だけ、機会をやる」

 

女は、優しい口調で喋りだした。

「これから100年間、私の下僕となりなさい。

そして、有能だったら、私と同じ存在にして自立させてあげる。無能だったら…」

 

一度言葉を切り、その紅い瞳を光らせ、牙を覗かせた。

 

「私の糧となってもらう。…どう?

この話を受けるなら、少なくとも今後100年はあなた達の命は奪わないし、生活も私が保証する。

悪い話ではないと思うのだけど?」

 

「…」

姜芽は、考えるフリをした。

なぜなら、答えは始めから決まっているからだ。

 

「断る」

 

「あらそう。なら…」

 

女は、不気味に笑った。

 

「最初の予定通り、あなた達を死なせてあげる」

 

「上等じゃねえか。やってみろよ」

 

姜芽は武器を構えようとしたが、どうやら違うようだった。

 

「…そうじゃない」

 

「え?」

 

「私は、お前達と戦って殺すつもりはない。

もっと、私の恐ろしさを誇示できる方法で殺す」

 

「どういう事だ」

 

すると、龍神が口を開く。

「そうか、能力…だな」

 

「その通り。

…姜芽、だったな。最期に教えてやる、私は運命を操る能力を持っている。

故に、お前達の死に様も容易に決められるのよ」

 

「…俺の名前をご存知だったか」

 

「当然だ。…さて、まずはどちらから殺してやろうか」

 

女はじろじろと二人を交互に見、龍神を捉えた。

 

「…よし、まずはお前からだ」

 

すると、館の住人二人が騒ぎ出した。

「来ましたね…」

 

「これで、あいつも終わりね」

 

(大丈夫…なのか…?)

姜芽は、龍神の身が心配だった。

 

さて、蝙蝠女は宙に浮き上がり、目を光らせて龍神に語りかける。

「龍神…それがお前の名だったな。

私の言葉を、よく聞くがいい…」

 

「ああ、聞いてやるさ。

けど、あんたみたいなへなちょこの予言なんぞ当たるもんか」

 

すると、女は翼を大きく広げて龍神に突っかかり、

「な、なんだと、へなちょこだと…?私の力を知っているなら、私の予言が、当たるか当たらないか…」

とすごんだ。

「聞いてやるって言ってんだろ。けど、もし予言が外れたら、素直に言う事を聞けよ、このお子ちゃま吸血鬼」

 

女は恐ろしい目で龍神を睨みつけ、今にも飛びかからんばかりの形相をした。

しかし、龍神は構わず続ける。

 

「その代わり、まあそんな事は万に一つもないだろうが、もしあんたの予言が当たったら、俺はあんたの望みをなんでも聞いてやる。

わかったか、このアホンダラのかりちゅま小娘!」

 

「き、貴様…言ったな…?

…よし、もし予言が外れたら、貴様らの望みを聞いてやる。だが、もし予言が当たったら…貴様は、半永久的に私の部下としてくれる。いいな…?」

 

「なんでもいい。ほら、早くやれよ」

女は怒りに震えながら、深呼吸して予言を始めた。

 

「龍神よ…お前は、この後この館の屋上に出る。

そして、この館の時計が8時を指す時…地上へ飛び降りて生を終えるのだ…」

 

女が予言をしている間、龍神はポケットに手を入れてじっとしていた。

そして、予言が終わった後もそのままだった。

 

「おい、龍神?」

 

姜芽に揺すられ、龍神ははっとしたようだった。

「…あっ。姜芽、終わったよな?」

 

「ああ。8時きっかりに屋上から飛び降りる、って言ってたよな…」

 

「屋上のどこでだ?」

 

「そこまでは言ってなかったよな?」

 

「…そうか。よし、行こう」

 

向こうの3人は、不敵に笑いながらも手は出さずに屋上へ登らせてくれた。

 

そして…

 

 

 

「ここにするか」

龍神はサングラスとイヤホンを外し、時計台のすぐ後ろの所で止まった。

 

「ここで、8時きっかりに飛び降りる、だよな?」

 

「あいつはそう言ってたな」

 

二人がそう話している間、メイド達はニヤニヤしながら話していた。

 

「これで、奴らもお嬢様の力を思い知りますね…」

 

「私達に勝てても、お嬢様には勝てなかった、って訳ね。いい気味だわ」

 

正直、姜芽は不安だった。

本当に、予言は外れるのか?

龍神は、生き残れるのか?

 

8時まで、あと1分。

姜芽は、心臓をバクバクさせながらその時を待った。

 

 

 

そして…

 

時針が8時を指し、時計が鳴り響く。

それと同時に、龍神は飛び降り…

 

 

 

 

 

 

なかった。

 

「…」

皆は黙っていたが、分針が1分を指しても龍神が動かないのを見て、喋りだした。

 

「龍神!よかったよ…!」

 

「はは、ヒヤヒヤさせて悪かったな、姜芽。…さて」

龍神は、領主の方を見た。

 

「残念だったな。ご覧の通り、あんたの予言は外れた」

女は、悔しさと怒りの入り混じった、複雑な表情を浮かべた。

「な、なんで…?どうして…?」

 

「そんな事は、後で"ゆっくり"考えるんだな。

とにかく、約束通り話を聞いてもらうぞ」

 

「…!」

女は、驚きを隠せず、口をあんぐりと開けた。

 

 

 

 

「…」

彼女は黙り込み、考えた。

 

そんなはずはない。

今まで、私の予言は全て当たってきた。

こいつにだけ通じないなんて、そんな事があるはずない。

これは、何か…何かある。

 

 

 

…そう言えば、奴はなぜかサングラスをかけていた。

しかも、私の予言が終わっても微動だにしなかった。

 

…もしや。

 

 

なるほど。

そうか、そういうことか。

 

 

 

 

 

 

 

「…!!」

女は、手を握って震え出した。

 

「ん?どうした?」

 

「やったな…」

 

「え?」

 

「お前…私を騙したな!」

 

「あんたと魅魔と青娥には言われたくねえなあ!」

 

「貴様ぁ…!!」

 

女は飛び上がり、槍を抜いた。

 

「二人まとめて串刺しにしてくれる!

私をバカにしたこと…後悔させてやる!!」

 

今度こそ、武器を使う時だ。

「やってみな!」

 

「スピア・オブ・オーディン!」

女の槍技を見て、龍神はほえ?ととぼけた声をあげた。

 

「十八番の技じゃないのな。…もしかして、名前変えたか?」

 

「…!!」

女はもはや返答すらせず、彼に噛みつこうとした。

 

「おっと」

姜芽が女の手に斧を振るい、それを阻止する。

 

女は手を引き、その甲から赤黒い血が飛び散る。

 

 

「変な色の血してんな」

女は、姜芽の首に槍を突き立てようとした。

姜芽はそれを躱し、女の首に炎を纏わせた拳を入れた。

 

女は姜芽の肩を掴み、牙を剥く。

「[ファイアガード]」

火のバリアを張って防ぎつつ、斧を振り上げる。

 

そして、女と姜芽は睨み合う。

 

「俺が相手だ。…吸血鬼って聞いたが、あんた、どれくらい強いんだ?」

 

「…」

女は、姜芽を見る目つきを少しだけ和らげた。

 

「そうか、あんたは私を知らないんだっけ。

…まあいいわ。これから身をもって知る事だし、言う必要はないわね」

 

「確かに俺は、あんたの事は知らない。

けど、強い奴だってことはなんとなくわかる」

 

「…へえ、多少は見る目があるのね。あんたに関しては元々欲しかったけど、尚更欲しくなったわ」

 

「なんで俺を欲する?」

 

「外来人、あるいは男。どちらかだけでも貴重なのに、その両方となれば、希少価値も当然高い。

そして、そんなものを欲しいと思うのは当然でしょう?」

 

「…そうか。つまり、あんたは俺達をモノとして見てる訳だな」

 

姜芽は斧を火で包む。

 

「俺はモノじゃない。そして、あんたのものになるつもりもない。[ロードスフレイム]」

 

そして斧を振りかぶって高く飛び上がり、

「斧技 [アクスインパクト]」

女に斧を叩きつける。

 

槍で受け止められたが、火が武器を伝って女の手を燃やした。

女が手を離したその隙に、燃え盛る斧を振り上げて切り払う。

 

「奥義 [炎斧残月]」

 

 

女の体を縦に一直線に斬り裂いた。

 

「…っ!」

 

女は一瞬怯んだが、すぐにまた突っかかってきた。

 

 

 

少しの間やり合って、姜芽は直感した。

こいつは、かなりの使い手だ。

 

回復力も高いようなので、長期戦は分が悪いと判断した。

そこで…

 

「…そうか、あんたは運命を操るんだな…」

 

「そうよ。でも、あんたには未来はないけどね」

 

「どうだろうな…」

自身の体を火で包み、この場所に残る女の力と自身の力を組み合わせた、術を放つ。

 

「[運命ヲ焼キ払ウ炎]」

 

猛々しく燃え盛る炎が、女とそのまわりを包む。

 

女はしばらくもがいていたが、やがて倒れた。

 

 

 

 

 




タネあかし


龍神「さてさて、今回のレミリアお嬢様は、なかなかの相手だったな」

姜芽「あいつそういう名前だったのか。
で、今回はどういうトリックを使ったんだ?」

龍神「その前に、今回のキーワードだ。
『未来の事は誰にもわからない』」

姜芽「どういう事だ?」

龍神「そのままさ。だいたい、予言なんて十中八九インチキさ。
もし予言が当たったら、考えられるのは2つ。
一つは、『ただの偶然』。
そしてもう一つは、『当たるように小細工している』」

姜芽「えーと、つまり?」

龍神「レミリアの能力は、相手の運命を見て、それに向かわせる事だと言われてる。
でもな、実際はちょっと違うんだ」

姜芽「どう違うんだ?」

龍神「あいつの能力は、正確には、自分が相手に辿らせたい運命をイメージして、それに相手が意図せずして向かうように仕向ける、って能力なんだ」

姜芽「つまり、なんだ…要は催眠術みたいなもんってことか?」

龍神「そんな感じだ。
ただ、あいつの場合は…まあ、妖術みたいなもんだ。
あいつは目を光らせてただろ?あれがヒントだ。
あいつの目を見て予言を聞くと、無意識に奴が言った通りの運命を辿るように行動してしまうのさ」

姜芽「ほぼほぼ催眠術だな、それ」

龍神「だから、俺は予言が始まってすぐに目を瞑って、音楽を聞いて妖術をシャットアウトしたんだ」

姜芽「予言が終わってもじっとしてたのは、そういう事だったのか。
なら、あいつをボロクソに言ってたのは何か意味あるのか?」

龍神「あいつは気が短いし、プライドが高い。しかも、長年生きてる割には煽り耐性が全然ない。
だから、わざとバカにしまくってキレさせて、冷静さを欠かせたのさ。万一細工に気づかれたら、何もかも台無しだからな」

姜芽「なるほどな。
てかあいつ、もしかしたら結構強いんじゃないか?
やり合ってみた感じ、かなり手慣れの槍使いだったぞ」

龍神「確かに、こっちの連中の中では強い方だとは聞く。
だがなあ…まあ、俺としては正直、相手には不足があると思うよ」

姜芽「あんたにとってはそうかもな。
けどよ、俺からすりゃあいつも十分おっかなかったよ」

龍神「慣れないとそうかもな」

姜芽「てか、音楽聞いてた…って何の曲聞いてたんだ?」

龍神「ん?そんなの決まってるだろ。『Bad Apple!!』さ」

姜芽「…」

龍神「…あ、そうそう。これから先、もっともっとおっかないのとかグロいシーンが多々出てくるから、耐性ない方はご注意下さいですだぜ」

姜芽「今回の話は、今までの投稿分より長めになってしまいましたが、これからもこういう回がちょくちょくあるかと思いますので、ご了承ください。
それでは、また来週〜」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。